十二話 幽霊っているんだね……
No.9 ゴースト
不定形魔人類ヒトダマシ科
身長体重不明。見た目もよくわかっていない。なんで魔人類なのかもよくわからない。
『じゃあこれ書く必要ないんじゃない?』と皆思うかもしれないが心配無用。俺もそう思っている。
ただこの世界にも所謂幽霊やポルターガイストに似たような現象はいくつか確認されているらしく、ゴーストはそういった解明する事のできない現象を無理矢理魔物のせいにして結論付けたものの総称なのだと世間の人々には認知されている。
なので唯一書き記す事のできる特徴としては『薄ぼんやりとした見た目で人の前に現れる。物などを動かす(取り憑く?)』などが挙げられるだろう。
だからもしも…もしも幽霊という存在を立証できれば…もしくはゴーストが取り憑いている〝モノ〟からゴーストが取り憑いているのだという証拠を見つけ出せれば…そこで初めてこいつの存在ははっきりとしたものになる。
…はぁ、何だか書いてて馬鹿馬鹿しくなってくるな。
幽霊なんていないだろ。俺そーゆうの信じないタイプだし。
前回『なぜ俺の魔物はあんなにも利口なのか?』という質問が寄せられたが、意外にも俺はすぐにその答えを知る事となった。
それは祝勝会を早々に切り上げて帰宅した夜の事だ…
ベッドに寝転んでぼんやりとしていた俺は、窓の外に見覚えのある白球…自称神様を見つけた。
「あっ!」
「しまった!」
自称神様の姿が徐々に薄くなり始めた。どうやら逃げる準備を始めたらしい。
「待て待て待て!別に怒ってないから!怒ってないから入りなよ!」
「…………」
俺が引き止めると、自称神様は案外大人しく俺の部屋へと入ってきた。
「ど…どうも。」
挨拶がどこかぎこちない。まあ当然だろう。会うのはグロミラーを通してこいつが俺を殺した(今のところは仮説だが)のを目撃して以来だからな。
「またまた久しぶりだね…そうだ!一つ聞きたいんだけどさ…」
俺は酒場での出来事をばつが悪そうに中空を漂う球体に説明した。
「…ってな事をいわれたんだけどさ。君なんか知らない?」
「それはもしかしたら…!いや…う〜ん…え〜っと……」
「言いづらそうにしているって事は、この前グロミラーが見せてくれた事と関係があるって事かな?」
「な〜んでそんなズバッといっちゃうんですかぁ…もう分かりましたよ!僕の推測でいいなら説明しますから!」
そういうと彼はヤケクソ気味な態度のまま話し始めた。
「え〜とですね、それを説明するにはまずあの時の映像の事を話さなくてはいけません…単刀直入にいいます。久保田さんはスピードを出し過ぎた僕に激突されて、し…死んでしまいました…ごめんなさい。」
「それは薄々気付いてたよ…それから?」
「それから僕は久保田さんの魂を追いかけてこちらの世界へと導きました。でも肉体がなくなってしまったので仕方なく、僕が使っていた移動用の『身体』に入ってもらったんです。」
「…………ん?」
身体に…入ってもらった?
いや、俺は俺のままなのだが…
「ごめん、ちょっと意味が分からないな。使っていた身体ってなんの事だい?」
「〝ソレ〟ですよ。ソレ。」
自称神様は多分…俺をじっと見つめている。
俺はゆっくりと自身に指を差し、尋ねてみた。
「………コレ?」
「はいそうです。本当に悪いと思ってます。本来なら生身のままこちらにきてもらう予定でしたからね…」
説明の過程には衝撃の事実という名の爆弾が埋まっていた。そして俺は見事にそれを喰らってしまった。
「え………ええぇ!?」
「しっー!久保田さん静かにっ!」
「ああゴメンゴメン…いやそんな事いわれたら驚くだろ!」
「まあまあ、話はこれからですから。」
ヤケクソ状態が終了した自称神様が今度は淡々とした口調になった。
なんでこんな無駄に冷静なんだ…勝手にこの世界に連れてきた事といい、こいつはもしかするとサイコパスなのかもしれない。
「ちょっと引っかかるけど…まあいいや。続けて。」
「はい…で、ここからが僕の推測なんですが。さっきいった事を簡単に説明すれば久保田さんは今『何かに取り憑いてる』みたいな状態ですよね?それ、実はある魔物と同じような事をしているんですよ…まあ存在すればの話なんですけどね。」
「うんうん、で、その魔物って?」
「まあ最後まで聞いてください…そしてその当人と魔物との交信が他者よりも容易だとすると…久保田さんはその行為によって同じ性質の魔物に似た生物になってしまっている可能性が…あ、でもプチスライムとまでコミュニケーション取れるなら絶対魔物になってるのか。ま!本体は魂だけって形で長期間生活してる事そのものがイレギュラーですから、そりゃ魔物にもなりますよ。」
「なんか最後の方投げやりだな…で、その魔物っていうのは…」
「…ゴーストです。いやぁ本当にいたんですね。」
「お前が作ったんだろ!まてよ…じゃあ俺幽霊じゃん!」
この辺りから俺は衝撃的な話を聞かされ過ぎたために気が動転してしまったのだろう。矢継ぎ早に自称神様を質問攻めにしたのを覚えている。
いや、自分は幽霊なのだと認めたくなかっただけなのかもしれない。
「でもコルリスちゃんの方が意思疎通は得意だよ!?」
「さあ…なんでですかね。コツとかあるんじゃないですか?それか個人…個魔物差とか?」
「俺は魔物使いなんだろ!?魔物が魔物を使ってるのはアリなの!?」
「前例はないのでバレないように気をつけましょう。」
「てゆうか魂だけで生活してるのはそっちも同じじゃないのか!?」
「僕は良いんです。僕は神様みたいなものですから。」
「なら何とか出来ないのか!?というかそもそも原因は……」
「はい…僕ですよね…すみません。あと…治す事はできないです。本物のゴーストなんて初めて見ましたし…」
「ハァ…ハァ…待てよ…俺、気付いたら面接してたような…なんで面接なんかしてたんだ?」
「ああ、それはそのうち分かると思います。」
「何だその意味深な言い方!?」
「だって…久保田さんが騒ぎ過ぎたからもう時間がないんですもん…」
「それはどういう…」
バタン!
次の瞬間、扉が勢い良く開け放たれ、コルリスが部屋に押し入ってきた。
「うるさいですよクボタさん!夜泣きするのは日中にして下さい!」
「あぁ…こーゆう事か…」
自称神様はもう消えていた、相変わらず逃げ足が早い。
こうして俺は質問の答えに辿り着いたわけだが、『何だかズルしてるみたいで他の魔物使いに申し訳ない』という罪悪感を背負わされた挙句、まだ酔っ払いモード(仮)のコルリスからの説教で約一時間の睡眠を失った。
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