〜異世界魔物大図鑑〜転生したら魔物使いとかいう職業になってしまった俺…とりあえずこの世界の事は何にも知らないので魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました

おーるぼん

序章

夏風と共に金属音が開け放たれた窓から入り込んで来た。


いつ振りだろう、この音を平日の昼下がりなんかに耳にするのは…


最後に聞く音がこれでは風情がないな。


ふとそう思ったが、改めて考えてみると最後に聞きたい音など思いつきはしなかった。


S玉県のとあるバッティングセンターの付近に存在する一棟の古いアパート。そこの住人である久保田トシオは今、自らの手で人生に幕を下ろそうとしていた。


彼は三本の紙タバコから葉を取り出し、睡眠薬と共に皿に乗せる。


次にその皿と水の入ったコップを部屋の中央に置いたが、決心がつかずそれを中心に部屋をぐるぐると歩き続けた。


(43年間の人生、今思えば何もかもが中途半端だったな…)


久保田は中学時代に周囲との学力の差を埋められなくなり、自棄になって机にむかうのをやめた。


何とか入れた高校でも改善の兆しは見られぬまま卒業を迎え、そのまま就職した会社も三年で辞めてしまった。


だが、20代半ばにこのまま死ぬのは嫌だと一念発起した彼は何かを成し遂げようと手当たり次第物事に取り組んだ。


しかし、何一つとしてその成果と呼べるものを手に入れる事はできなかった。


映画を見て格闘技のチャンピオンになりたいと思い始めたキックボクシングは顔を殴られるのに耐えられなくなって二年で挫折し、その次に総合格闘技の世界へ飛び込むが上には上があると理解した時に道場に通うのをやめた。


仕事も色々とやった。飲食業、製造業、介護職、その全てを人間関係か雀の涙程にしか上がらぬ給料と引き換えに責任と残業時間の膨れ上がる昇級のどちらか、またはその両方の理由によって辞職してはいるが。


そして最近では建築業で非正規雇用として働き生計を立てていた…が、それもまた過去の話である。


不況の煽りを受けた会社から昨日、クビを言い渡された。


だがそれは久保田に限った話ではなかった。上司に最後の挨拶をした時、彼は虚ろな目で自身もお払い箱にされてしまった事と、異世界で面接を受けるといった訳の分からない夢の事を話していた。早まった考えをしてしまわないか心配なものである、久保田のように。


(もういい…もうたくさんだ…)


自主的に引き起こした走馬灯に嫌気がさし、仕方なく久保田は皿とコップを持ち上げた。


(もしも…もしも神様がいるのなら…次の人生はもう少しマシな物にしてく…


ドカッ


突如視界が揺らぎ、全身を床に叩きつけられた。


目の前では白い球体のような物が転がっている。


(クソ…あの…バッティング…センター…)


こうして久保田の視界は、永遠の闇に閉ざされた。

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