第58話 赤身肉

「うおぉぉぉ!!」


 気合一閃。


 マーヤは身長ほどの大きさがあるバトルアックスを、ぶんと横一文字に振りぬいた。


 その一撃は、ちょうどマーヤめがけて飛び込んできたリザードマンをカウンター気味に迎撃する形になる。


 リザードマンは二足歩行のトカゲといった見た目をしたモンスターで、その鋭い爪や牙は生半可な防具は易々と切り裂き、全身を覆う鱗は、鉄の刃をはじくほど固いという。


 やっかいなモンスターだ。


 しかし、マーヤの怪力で振るわれたバトルアックスの一撃は、艶やかな緑色をしたリザードマンの鱗を切り裂き、その体を綺麗に両断した。


 切断面から血を吹き出しながらドサリと地面に崩れ落ちるリザードマン。


 マーヤは額の汗をぬぐって大きく息を吐いた。


 この辺りのモンスターは凶暴な種が多い、通常よりも進むのに余計に体力が必要だ。


 チラリと空を確認する。


 日もだいぶ暮れてきた。そろそろ野営と、食事の準備を始めるとしよう。










 焚火の前で今日の食事をどうするか考える。


 食材は、先ほど仕留めたリザードマンの肉とその辺に自生していた食べられる野草類。


 荷袋を確認する。


 持ち運び用に乾燥させたキノコとギネの葉が少々……。


 今日は少し疲れている。手間のかかる料理は面倒だったマーヤは、手っ取り早く食材をすべて煮込むことに決めた。


 調理用の壺に川の水を汲み、火にかける。


 水を沸かしている間に食材の下ごしらえ。ナイフでリザードマンの肉と野草を適当な大きさに切り分ける。


 リザードマンの肉は前に一度だけ食べたことがある。


 血の気の多い赤黒い肉は、良く洗っても血の匂いが抜けない。


 かといって不味いわけではなく、肉のうまみ自体は非常に強い。


 沸騰した水に切り分けた食材と、荷袋に残っていたキノコやギネの葉を豪快に入れていき、塩をパッと振って味を調える。


 後はひと煮立ちすれば完成だ。


 適当に食材を煮ただけの、この料理とも呼べないような料理を深めの皿にとりわけ、食事を開始する。


 まずはスープを啜る。


 最初に感じるのは、やはりリザードマンの肉から出た濃い血の香り。その後からスープに溶け込んだ野草や肉、キノコのうまみがじんわりと顔を出す。


 野草は少し苦みがあるもののシャキシャキとした食感が心地よく、一口大に切り分けたリザードマンの肉は、噛めば噛むほど味わい深い。


 即席料理の出来栄えに満足したマーヤは、満腹になった腹をさすりながら地図を広げる。


 今回目指しているのはグランツ帝国。新しいものが大好きだという女帝が治めるこの国には、革新的な料理を提供する料理屋がたくさんあるという。


 地図を眺めていると、マーヤはあることに気が付く。


「あれ? 今アタシがいる場所って聖地アラビムの近くだな……」


 マーヤの頭に浮かぶのは、ともに魔王討伐を果たした仲間、聖女フローの姿。


「……せっかくだし、ちょっとフローの顔でも見ていくか!」





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