第58話 赤身肉
◇
「うおぉぉぉ!!」
気合一閃。
マーヤは身長ほどの大きさがあるバトルアックスを、ぶんと横一文字に振りぬいた。
その一撃は、ちょうどマーヤめがけて飛び込んできたリザードマンをカウンター気味に迎撃する形になる。
リザードマンは二足歩行のトカゲといった見た目をしたモンスターで、その鋭い爪や牙は生半可な防具は易々と切り裂き、全身を覆う鱗は、鉄の刃をはじくほど固いという。
やっかいなモンスターだ。
しかし、マーヤの怪力で振るわれたバトルアックスの一撃は、艶やかな緑色をしたリザードマンの鱗を切り裂き、その体を綺麗に両断した。
切断面から血を吹き出しながらドサリと地面に崩れ落ちるリザードマン。
マーヤは額の汗をぬぐって大きく息を吐いた。
この辺りのモンスターは凶暴な種が多い、通常よりも進むのに余計に体力が必要だ。
チラリと空を確認する。
日もだいぶ暮れてきた。そろそろ野営と、食事の準備を始めるとしよう。
焚火の前で今日の食事をどうするか考える。
食材は、先ほど仕留めたリザードマンの肉とその辺に自生していた食べられる野草類。
荷袋を確認する。
持ち運び用に乾燥させたキノコとギネの葉が少々……。
今日は少し疲れている。手間のかかる料理は面倒だったマーヤは、手っ取り早く食材をすべて煮込むことに決めた。
調理用の壺に川の水を汲み、火にかける。
水を沸かしている間に食材の下ごしらえ。ナイフでリザードマンの肉と野草を適当な大きさに切り分ける。
リザードマンの肉は前に一度だけ食べたことがある。
血の気の多い赤黒い肉は、良く洗っても血の匂いが抜けない。
かといって不味いわけではなく、肉のうまみ自体は非常に強い。
沸騰した水に切り分けた食材と、荷袋に残っていたキノコやギネの葉を豪快に入れていき、塩をパッと振って味を調える。
後はひと煮立ちすれば完成だ。
適当に食材を煮ただけの、この料理とも呼べないような料理を深めの皿にとりわけ、食事を開始する。
まずはスープを啜る。
最初に感じるのは、やはりリザードマンの肉から出た濃い血の香り。その後からスープに溶け込んだ野草や肉、キノコのうまみがじんわりと顔を出す。
野草は少し苦みがあるもののシャキシャキとした食感が心地よく、一口大に切り分けたリザードマンの肉は、噛めば噛むほど味わい深い。
即席料理の出来栄えに満足したマーヤは、満腹になった腹をさすりながら地図を広げる。
今回目指しているのはグランツ帝国。新しいものが大好きだという女帝が治めるこの国には、革新的な料理を提供する料理屋がたくさんあるという。
地図を眺めていると、マーヤはあることに気が付く。
「あれ? 今アタシがいる場所って聖地アラビムの近くだな……」
マーヤの頭に浮かぶのは、ともに魔王討伐を果たした仲間、聖女フローの姿。
「……せっかくだし、ちょっとフローの顔でも見ていくか!」
◇
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