第30話 招集

 宿屋の主人に釣りの成果であるブルーペッシェを渡し、調理してもらう。


 酒を飲みながら待っていると、主人が油で揚げたブルーペッシェを持ってきてくれた。


 火を通しても美しい青色は損なわれていない。ナイフを当てるとサクサクとした鱗の感触と、身のふんわりとした柔らかさが手に伝わった。


 切り分けた断面は白身。鱗の青と身の白色のコントラストが美しい。


 口に運ぶ。


 強めに効いた塩味。サクサクと鱗の食感が楽しい。白身には適度に脂が乗っており、コクがある。


 非常にうまい。


 自分で釣ったこともあって、満足度はかなり高かった。


 ため息をつく。


 こんな美味しい料理を食べているというのに、この後ギルドに寄らなくてはならないという事実がマーヤを憂鬱にさせる。


 別に招集を無視しても良かった。


 マーヤはギルドに所属しているわけではない、故にギルドからの招集に応える義務は無いのだ。


 しかし、書状にはジェイコブの署名が書かれていた……。


 ギルドの呼びかけなんて知ったことではない。しかし、ジェイコブの事は嫌いではなかった。


 ほんのわずかな間、ともに旅をしただけの仲だが、それでもマーヤは彼の名前を無下にする気にはなれなかったのだ。


 ゆっくりと食事を終え、店主に代金を支払ってから宿を出る。


 完全武装をしたマーヤは、不機嫌な表情を浮かべながらギルドへ足を運ぶのだった。








 こんな小さな漁師町にも支部があるのかと、ギルドという組織の巨大さを改めて認識する。


 ギルドに冒険者として登録していれば、魔物を討伐した際などに討伐金がもらえるし、実績を詰めば身分の保障にもなる。


 戦闘能力のあるものでギルドに登録しない理由なんてほとんど無いとまで言われている時代だ。


 マーヤが冒険者の登録をしていない理由は、魔王討伐の際に、一生遊んで暮らせるほどの資金をもらったことが一つ。


 そして、今回のように有事にギルドに呼び出されることが面倒だということも大きな理由だった。


 マーヤほどの実力者ともなれば、何かあれば真っ先に声がかかるだろう。


 拒否権があるとはいえ、何かある度に呼び出しをくらうのは気に食わない。


 故にマーヤは不機嫌な顔をしてギルドの扉を押し開けた。


 都心のものとは違い、小さな支部だ。


 その規模の小ささ故、通う冒険者たちも顔見知りが多いのだろう。


 見知らぬ女戦士に、皆興味津々といったように遠巻きに見つめていた。


 そんな視線は意に介さないとばかりに、ズカズカと受付に進むマーヤ。受付嬢にギルドからの書状を無言で渡した。


「こ、これは……!?」


 書状にはギルド幹部の署名が記されている。


 こんな小さな支部では、そんな署名なんて見る機会も少ないのだろう。受付嬢はえらく緊張した様子でマーヤを奥にある応対室に案内した。

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