第15話 ドワーフの火酒 5
シルバーウルフの解体を終えた二人は、食べきれる量の肉をもって場所を移動する。
ちょうどよく開けた場所を見つけ、そこで焚火をおこすことに決めた。
よく乾燥した枝をくみ上げ、たっぷりとヤニの乗った木の皮を着火剤として火打石で火をつける。
手際よく火をつけた後、マーヤはさっそく調理に取り掛かった。
シルバーウルフの肉は食べたことが無い。しかし、先ほど肉を切り分けた時の感触から、バトルベアほどの固さは無さそうだと判断する。
とりあえず素材自体の味を確かめるために、ナイフで適当な大きさに切り分けた肉の塊を二つ、塩を振り、木の枝に刺して串焼きにする。
程よく焼き色がついたところで火から外し、片方をロッシーに差し出した。
ロッシーは恐る恐るといった風に串を受け取る。
「……結構長く生きてるつもりだが、シルバーウルフを食べるのは初めてだ」
ロッシーの言葉に、マーヤはカカカと笑った。
「アタシもそうさ、いい経験になるね」
そして一切のためらいなく焼いた肉にかぶりつく。
脂身がほとんどない赤身の肉は淡泊で、固さは無いがうま味もほとんどなかった。
腹は膨れるが、好んで食べるようなものではない。
隣でロッシーも微妙な表情をしながら肉を齧っていた。
「うまいもんじゃねえなぁ……やっぱり」
ロッシーのぼやきに、マーヤも頷く。
「通常食用にされてない獣にはそれなりの理由があるってわけだな……まあ、想定の範囲内だ」
マーヤはそう言うと、荷袋からあるものを取り出した。
道中で採取していた小さな赤色の草の実。ロッシーは見たことのないその赤色の実を見て疑問を口にする。
「なんだそりゃ、うまいのか?」
「ブラナの実だ……毒じゃねえが、単体じゃあ食えたもんじゃねえ。齧ると舌がしびれるほど辛いぞ」
そう言いながら少し深めの木皿に、ブラナの実を3粒ほど入れる。
そして荷袋をゴソゴソとあさり、取り出したのは乾燥させたトーサの葉。スイの街で修道院のシスターから貰った甘味のある植物の葉だ。
トーサの葉を数枚とると、ぎゅっと手で握りつぶし、粉々に砕いてからブラナの実を入れた木皿に入れる。
砕いたトーサの葉とブラナの実を、よく洗った石でゴリゴリと潰しながらよく混ぜる。
出来上がったのはドロリと赤黒いソース。マーヤはそれを、先ほど焼いたシルバーウルフの肉に少し載せてがぶりと齧り付いた。
最初に感じるのはブラナの実の激しい辛味。少量しか入れてないのに非常に辛い。
遅れてやってくるトーサの甘みと、鼻に抜けるハーブのような爽やかな香り。
辛みと甘みのエキゾチックな味と、焼いた肉の香ばしい香り。
淡泊すぎて物足りなかったシルバーウルフの肉は、極上のご馳走へと変化した。
「うんめぇ!!」
上機嫌で肉にかじりつくマーヤ。そばで見ていたロッシーも慌てて肉にソースを塗り、かじりつく。
「変わった味だが……悪くない。すごいなこのソース。シルバーウルフの肉がこんなにうまくなるなんて」
「アタシも初めて作ったからうまくなるかは賭けだったけどな!まあ、成功してよかったよ」
「ガハハハッ!マーヤ、お前さん料理の才能あるんじゃねえか?」
「よせやい!才能なんかねえよ。日々の研究の成果さ」
マーヤの機転によりご馳走へと変貌したシルバーウルフの肉。
最高の晩餐。
パチパチと楽し気な音を立てて燃える焚火。
見上げると、夜空にはキラキラと輝く星々の姿が見えた。
夜はゆっくりと更けていく。
目的地までは、あと少し。
マーヤは極上の火酒を思い浮かべ、そっとほほ笑むのだった。
◇
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