第6話 修道院のビスケット
宿屋の店主に道を教えてもらい、マーヤは街の外れにあるという修道院へと向かう。
修道院。
かつて共に魔王と戦った仲間に、聖女がいた。
聖女フローは心優しく、癖の強いメンバーが集まったパーティーの中で、一種の潤滑油のような役割を担っていた。
少し懐かしくなる。
フローは元気でやっているだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、マーヤは目的の修道院までたどり着いた。
今回のお目当ては、スイの修道院で作られているという ”修道院のビスケット”。
普段は修道院のシスターが、街の貧しい人々のために作っている食べ物で、街の外に出回ることはめったにないらしい。
たまたま旅人がスイの街で行き倒れていたところを修道院のシスターに救われ、その時にビスケットが振る舞われた。
そのビスケットは、旅人のビスケットに対するイメージを180度変えてしまうほど美味かったという。
その旅人から広まった噂話。
スイの街には極上の ”修道院のビスケット” というものが存在する。
スイの街自体がアルカイダ山脈の高地にあることもあり、交通の便が悪い。
故に、そんな噂が広まっても、わざわざビスケットを食べるためだけにスイの街に訪れるような酔狂なものはいなかった。
そう、
未知なる美食のために旅をしているマーヤを除いては。
突然、修道院の中から女性の悲鳴が聞こえてきた。
ビスケットに思いを馳せていたマーヤは瞬時に臨戦態勢になり、凄まじいスピードで修道院の扉を押し開けて中に入る。
視界に飛び込んできたのは、地面に這いつくばる修道服の女性(おそらくこの女性がこの修道院のシスターだろう)と、部屋の角で縮こまっている子どもたち。
……そして、シスターの前で仁王立ちをしている体格の良い武装した男。
詳しい状況はわからない。
もしかしたら、武装した男は悪人ではなく、倒れているシスターもころんだだけかもしれない。
しかし、臨戦態勢に入ったマーヤにはそんなことは関係なかった。
勘違いであったのなら、あとで謝ればいい……。
マーヤは凄まじいスピードで男の背後に接近すると、彼に存在を気取られることなく、その後頭部に鋭い手刀を叩き込んでその意識を速やかに刈り取った。
何が起こったか理解する間もなく、その場で崩れ落ちる男。
そして、その様子をあっけにとられたようにポカンと見つめるシスターと子どもたち。
マーヤは倒れた男にまだ息があることを確認した後、シスターにニッコリと笑いかけてこういった。
「はじめましてシスター。アタシは旅人のマーヤ……”修道院のビスケット”を食べに来たんだが、場所はここであってるかな?」
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます