第5話 スイの街

 スイの街。


 アルカイダ山脈の高地に存在する小さな街。


 寒季には街が雪で真っ白に染まるらしいが、現在は暖季、雪は見れそうにない。


「じゃあ俺はそのままギルドに向かうよ。肉をわけてくれて感謝する……本当にバトルベア討伐の賞金はいらないのか?」


 マーヤと一緒にスイの街にやってきたジェイコブが、少し申し訳なさそうに問いかける。


 その荷袋の中には、マーヤが仕留めたバトルベアの角が入っていた。


「いらないよ。金には困ってないんだ…………それに、ギルドにはあんまり顔出したくなくてね」


「訳ありか?」


「まあ、そんなとこさ」


「深くは聞かないさ、そういう約束だからな」


 ジェイコブは諦めたように笑って、スッと右手を差し出した。


「短い間だったが楽しかったよ。縁があればまた会おう」


「おうさ、アタシも楽しかったよ」


 マーヤはジェイコブの手をガッシリと握り返し、二人は笑顔で別れる。


「さて、とりあえず適当な宿でも探すとするかね」







 マーヤがやってきたのは、街の中央にある中規模な大きさの宿。


 とくにこだわりがあって選んだわけではなく、適当に歩いてたどり着いた宿にふらりと入った。


 宿屋の主は人のよさそうな老夫婦で、良心的な値段で2階の部屋を貸してくれた。


 部屋にたどり着いたマーヤは、老夫婦が持ってきてくれた桶一杯の湯に布を浸し、体を拭く。


 長旅で汚れがべったりと付着しており、体をぬぐった布は黒く染まっていた。


 体を清め、必要最低限の荷物(武器の類は部屋に置いておくことにする。重くて邪魔になるし、そこいらにいる野党程度なら素手でも問題なく対応できると考えたからだ)をまとめたマーヤは一階に降りて、受付にいた店主(旦那の方)に少し出かけると告げる。


「こんな田舎町に何か用事でもあるのかい?旅人さん」


 店主の問いに、マーヤは朗らかに笑って答えた。


「おうともさ!アタシはこれから修道院に向かう」


 修道院?


 店主は首を傾げる。


 目の前の体格の良い女は出家でもしにいくのだろうか?


 見た印象では、とてもそんな風には見えなかったが……。


 そんな店主の疑問を見て取ったのか、マーヤはカカカと豪快に笑って目的を告げた。






「”修道院のビスケット”って、この街で作られてんだろ?」





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