彼女は◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

 春川詩音


 成績優秀、眉目秀麗で運動もできるいわゆる完璧少女な彼女は他の人が知らない秘密がある。


 それは彼女の通学鞄についてあり、彼女を完璧少女と呼び神聖視したり綺麗なスタイルに鼻の下を伸ばして近づこうとする人達には気づくことの無い秘密である。それが、猫のぬいぐるみである。


「………何ですかそれは?」

「猫のぬいぐるみです。」

「私は何故それを渡してきたのかについて聞いたのですが?」

「特に何もありません。」

「………」


 特に何もないと傍から見れば違和感にしか見えないまま頭を下げている弥登を見続け………詩音は息を吐いた。


「顔を上げてください、弥登くん。」

「……………」


 弥登が大人しく顔を上げれば呆れた表情をする詩音の姿があった。


「正直に答えてください、弥登君。」

「はい。」


 峠は超えたと判断した弥登は正直に答えた。


「このぬいぐるみは?」

「日頃のお礼です。」

「何故今渡したのですか?」

「機嫌が直ればと。」

「………………」

「………………」


 暫しの無言。少し経って詩音が言う。


「そもそも私は別に怒ってなどいませんよ。」

「……ふむ……?」


 怒ってましたよね。思いっきり怒ってましたよね?と心の中で思っていた弥登だが、ある考えがよぎり、恐る恐る尋ねた。


「………もしかして、負けて悔しかったとか?」

「…………っ!?」


 ビンゴだ、詩音さんの顔が赤くなったのを見て確信に替わった。つまり詩音さんは七海に何回も負けて怒っていたのでは無く、何回も負けて悔しかったのか!


「…………あ、あの!」


 それで不機嫌な顔を見られないようにしてたから怒っているように見えたのか〜。詩音さんって気づいていなさそうだけど負けず嫌いだからな……ってこっち見てどうしたの七海?


「…お兄ちゃんって、無意識に思った事を話してるよね。」

「?………あっ」


 どうやら思った事が口に出ていたようだ。しかも内容は全て聞こえていたっぽい……


「…………弥登くんは意地悪です。」

「……ごめんなさい。」


 その後、年越し蕎麦を食べて機嫌が良くなった詩音から許しを得ることが出来たのだった。







 ・・・・・




「七海さん、寝てしまいましたね。」

「仕事が忙しいって言ってたからね。よく頑張ってくれたよ。」


 時刻は午後11時。

 一年の年越しまで残り1時間だったが、連日仕事続きの七海にはキツかったようだ。今は詩音の膝を枕代わりにして横になっている。この姿を写真で取ってネットに上げればバズりそう、しないけど。


「詩音さん、話したい事があるんだけど……」

「弥登さんが家に帰省する時一緒に来てほしいことですよね。」


 話す内容は理解していると言わんばかりにこちらを向く詩音。


「ならば話は早いね。………どうかな、一緒に行ってくれる?……それとも、用事があったかな?」

「いえ、用事は福袋ぐらいなのでこれといった用事は無いのですけど……」

「けど?」

「私がお邪魔して、迷惑じゃないのかな、って」

「………」


 普通だったら遠慮している言葉。いつもなら諦めていたけど。


 だけど、知ってしまったから。


 深入りするって決めたから。


 関係無いフリするのは辞めるって決めたから。


「私が居ても邪魔に「邪魔じゃないよ」?」


「少なくとも俺……僕は詩音が来てくれると嬉しいと思う。」

「……」

「……あ、あと親父も連れてこいって言っていたし?、詩音のことを婆ちゃんにも伝えたら一度あって見たいって言ってたし!」

「……」

「だから、迷惑じゃないよ。」

「………でしたら、お邪魔しますね。」

「うん、ありがとう。」


 照れているのがバレているからか、笑いながらこちらを見てくる詩音に顔が向けないでいると年越しを知らせる大きな鐘がなった。


「あけましておめでとうございます。弥登君。」

「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします。」


 今までは一人か七海と二人で年越ししていたが、学園で美少女と有名な詩音と年越ししていると考えると少し感慨深い気持ちになる。


「飲み物持ってくるよ。詩音はいる?」

「お願いします。私は他の人達に送ります。」


 そう言ってスマホで返信してる詩音を見て、人気者は辛いなと弥登は思った。


 黙々とスマホをいじる詩音を尻目に台所にむかい、マドラスチェックの絵がついたカップにハーブティーを入れる。入学式の時、好きな飲み物はハーブティーと言っていたのを覚えている為問題無し。


 ハーブティー入れ終わったあと、もう一つのカップ(我が社のゲーム『物語はわがままに』の女子高生ヒロイン『音宮 寧々』の私服姿が描かれている。)に麦茶を入れてリビングに戻ると睡魔に耐えられなかった詩音が寝ていた。


 何時もは12時まで起きていることが少なかったのだろう。妹の七海も無意識に動いていたのか二人共頭を預けるようにして眠っている。


「………………………」


 無言でスマホを取り出し、何枚か写真を取った後に部屋からブランケット(音宮 寧々の制服姿が描かれている。)を二人に被せた後スマホで又何枚かとる。……つい魔が差したわけではないのだ。ただこの光景が尊いだけである。


 その後、ブランケットも別のに替えて写真を取った後。自分も別の場所で2時間程仮眠を取ろうと睡眠を取るのだった。










  ――――――――――――――――――――


永らくお待たせいたしました。

少しでも楽しんでくれると有り難いです。

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