音野弥登の人生1

 皆が言う幸せとは何なのだろう?お父さんやお母さんが言っていた幸せとは何だったのだろう?


 お父さん達が生きている頃、毎日の様に幸せだと言っていたがそれがなんなのか、今になっても弥登は見つけられていない。


 音野 弥登と言うの少年はお父さんである音野 蒼介とお母さんである音野 未来の長男。妹の七海の兄として生まれた弥登は当初、いわゆる元気っ子だった。


 小さい時から近所の人達に元気な声で挨拶をするぐらいには誰にも物怖じしない性格で、その性格故に近所の人達には可愛いがられてた。


 しかし、周りが優しさで囲まれていた弥登には負の感情━━悪意を知らなかった。


 中学生に上がり、小学生よりも多くは無いが多くの友達ができた弥登が教室に忘れてしまったノートを取りに戻る途中、3人の男子生徒の話し声が聞こえてしまった。


『ホントあの弥登って騙しやすいわ~』

『優しくしてやりゃ奢ってくれるしな!』

『誰もアイツなんか良い奴なんて思ってないのにな!ブァハハwww』

「……………え」


 その悪意しかない言葉は弥登が持っていた水筒を落とすぐらいに心を抉った。水筒かが落ちた音でこちら向いたそいつらの顔は仮面友達をつけていた。


「あれ、どうしたの弥登くん!先に帰ったんじゃなかったけ?」

「まあ俺らにはどうでもいいけどさ!?」

「お菓子買いに行かない?出来れば弥登の奢りでが良いんだけど?」


 誤魔化す様に大きな声で話しかけてくることに中の物が出てきそうになり、弥登はその場を走って逃げ出した。後ろで叫んでいる彼らを無視して。










 弥登はその日から不登校になった。何人かの友達が心配してメールを送ってきてくれたが弥登は返信しなかった。今の弥登には彼ら《友達》の事は全て信じられなかった。


 いつも楽しく学校に行ってた弥登が突然不登校になり両親は困惑したが、何かがあって傷ついているのはわかった為、優しく見守ることにした。声優として売れ始めたお兄ちゃん大好きの妹の七海は優しく見守ってくれてた兄が不登校になったと聞き、恩返しという名目で仕事を全てキャンセルして兄に寄り添った。毎日学校から帰ってきたら弥登の部屋で一緒に過ごし、一緒にご飯を食べて明るく接する事で少しでも元に戻ってくれたらと思った。





「おはようお兄ちゃん!」

「おはよう、弥登。」

「朝ごはんはもうできてるから、席に座ってちょうだい、弥登」

「おはよう、父さん、母さん。あと七海も」

「私はついでなの!?」

「いやそうじゃないよ!?」


「七海、挨拶する事はいい事だが口の中に入れたままにしない。」

「あっ、ゴメンなさいお父さん…」

「ちゃんとしなさいよ、七海。お母さん、七海がだらしない事して無いか不安何だから。」


「お、お母様!?相手の人に粗相を犯さないようにちゃんとしていますって!」

「どうかしら。七海は普段ちゃんとしているのにいざと言う時にやらかしそうだもの、ねぇ弥登?」


「何故ここで自分に………実際そうかも知れなけど七海は出来る子だから大丈夫だと思うよ。」

「お、お兄ちゃんーー!」

「うん、抱きつくのは良いけど朝ごはんの途中だから離れてね。」

「がーーん!?あげてから落とされた(´・ω・`)」


「……まあ弥登が言うなら大丈夫かね。」

「そうだね。七海の事をこれまで見てきてくれた弥登が言うんだ、大丈夫だろう。」



 最初は誰の言葉も無視していた弥登だったが、2週間後には家族と冗談が言える程に話す事が出来る程に回復した。久々に話しかけてくれた七海は感激のあまり、弥登に抱きつき泣いてしまった。両親が泣く事は無かったが久々に見た弱弱しくも元気そうな姿に大きく安堵した。


 改めて不登校になった理由を聞いた両親は激しく怒り、学校へ乗り込もうとしていたがこれ以上迷惑をかけたくなかった弥登が必死に止めた。七海に関しては目のハイライトがなくなり『殺す? 社会的に殺す?』とボソボソ呟いているの見てより一層強く止めた。七海なら今の地位も相まって本当にやりかねなかった……


「それじゃあ、私と蒼介は先に行くわね。七海もきちんと準備する様に。わかった?」

「わかってるよー。気をつけてね、お母さん。」

「だったら抱きつくのはやめようか七海……お父さんも気をつけて。」

「その言葉だけで今日も幸せだよ。行ってきます。」


 玄関から出て仕事へ向かう両親を見ながら、心の中で感謝をした。



・・・・



「それじゃあお兄ちゃん、私も行ってくるね。」

「……あぁ、行ってらっしゃい。」


 7時頃、パジャマ服装から制服へと姿を変えた七海が玄関へ向かうのを後ろから眺める自分。


 いつもだったら一緒に家を出て見送っていたのに…今はもう、家から出られなくなってしまった自分が嫌になる。表情から察したのか七海が頭を撫でてくる。


「気にしなくていいんだよ?お兄ちゃん。お兄ちゃんは何も悪くないし。でもまあ、そんなに自分を責めるんだったら1つお願いがあるんだけど。」

「聞く聞く。何やって欲しい?」


 家から出れないならやれることをやろう。また一緒に学校へ登校出来るようにする第1歩として妹のお願いぐらいこの音野弥登が簡単に叶えて見せる。


「久々にお兄ちゃんのチャーハンが食べたい。」

「……チャーハン?それでいいの?」

「それでいいのです。(ドヤっ)」


 ……まあ七海が食べたいと言ったのだ。今晩は腕によりをかけて作ろうではないか。

 ドヤなみさんのために弥登、作ります!






 ━━人生最大の事件まで、残り3152642━━








「は!?」


 いつもの実家の天井……では無く、目が覚めた場所はマンションの天井。額の汗を拭い、パジャマから私服に着替えて深呼吸。朝から最悪の気分だが、今日1日は見ない事を祈る。


 今日は12月31日。詩音が家に来る日だ。


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