マイペースに

第1話

「無理をしたところで結局は取りこぼすんだからもっと気楽にやりなよ」

　彼はそう言って笑う。

「できないものはできないって言っていいんだ。そう言って予防線を張る。それでもお願いされて失敗したのなら頼んだ相手が悪い。自分に責任はないって開き直れるだろう？」

「たしかに。でも姿勢だけでも何でもやれるって言っていかないと周りから置いて行かれるんじゃないか？」

「自分には自分のペースがある。置いて行かれたところで何だって言うんだ。自分のペースで確実に信用を積み上げていけばいい」

　『確実に』の部分に力がこもっていた気がする。

「できることをコツコツと。それが一番大事だよ」

「そっか」

「そうだよ。まあ焦らずに。マイペースがお前の取り柄なんだから」

　マイペースが取り柄。そんなことを言われたのは初めてだった。

「分かった。マイペースに頑張るよ」

　だからだろうか。すごく元気づけられた気がした。マイペースに頑張ろう。そう心に誓うのだった。