Round 2:山岳ステージ

20:新依頼は厄介がカヲル

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)



先日の「道場やぶり」騒動から、3週間ぶりに街に下りてきた。

妹弟子アゼリアと、久しぶりに<翡翠領グリンストン>の街中を歩いていた。


また冒険者ギルド経由で、また山岳ガイドの依頼が入った訳だ。

悠々自適な山小屋生活している寄合い3人世帯ジジイ・俺・リアとしては、貴重な現金の収入源である。


でも、<翡翠領グリンストン>の街中で待ち合わせというのが、珍しいかな。



(いつもの冒険者パーティだと、<ラピス山地>の麓の村が待ち合わせ場所だし。

 今回は、目的が違う人達なのかね?)



注意散漫なアゼリアが、はぐれないように手を引いて、待ち合わせの北門へと向かう。


都会の空気に浮かれている ── というよりも、ぶっちゃけ美味しそうな匂いに、フラフラ釣られそうになっている、食いしん坊さんリアちゃんである。


というか、いい歳の乙女が、指をカジカジするのは止めなさい。

そんな事しても、兄ちゃん、お菓子買ってあげませんよ。



「── リアちゃん。

 これから依頼主の人に会うんだから、もうちょっとピシッとしような?」


「でしたら、お兄様っ

 やっぱりここは、お仕事前の栄養補給がよろしくてよっ?」


「ダメ。

 朝ご飯は、さっきお家で食べただろ?」



昔なつかしい、『ボケ老人コント』か。

── 『ご飯はまだかね?』『お婆ちゃん、さっき食べたでしょ』とかいうやつ。



「でもでもぉっ!

 甘い物は、入る所が別ですのっ!

 都会の甘い物でしかれない貴重な微量成分ミネラルがありますのぉ~っ!」



どこで覚えた、そんな言い回し。



「絶対ダメ。

 カネ稼ぎに来たのに、それ以上に浪費してどうする」



そもそも高いんだよ、都会の屋台って。


前世で言うなら、お祭りの夜店価格くらいだ。

見るからに強面連中ヤクザもんだし、おのぼり相手だからって足下見やがって。



「んもう、お兄様ったらイケズですわ!

 んもうっ んもうっ んもうっ んもうっ」


「── おふ……っ

 街中で体当たりはヤメロっ」



ドスンドスンぶつかってくる、同年齢15歳の女子に押され気味な、チビの俺。


君ねえ、一応、帝都でも有名な『剣帝』さまの後継者なんですよ?

あんまりみっともない態度だと、師匠ジジイが泣いちゃうよ?



そんな事を、妹弟子に言い聞かせている内に。

屋台だらけの中央広場を抜けて、大通りの先の北門に着いた。





▲ ▽ ▲ ▽



「やあ、アゼリア君、お久しぶり。

 元気そうで何よりだ」



マンガから出てきたような野郎ヤローが、そんな薄ら寒いセリフを吐いた。


ヒョロっと細い割に、まあまあ肩幅がある、長身の男。

長髪ロン毛にならない程度に、猫毛の金髪をサラッと伸ばした、男のボブカット。


見るからに、観客モブ女子にキャーキャー言われて、非公式ファンクラブとかあって、1人だけ改造白制服とか着ている、スポーツ漫画の登場人物のクセに汗臭くない、ニキビとか出来ない男性ホルモン激薄げきうすな奴。


あだ名は、絶対『貴公子』!

名前は、中性的な感じで『カヲルさま』とか?


あと、大概たいがいが、ヒロインを狙う恋敵ライバルポジションだろ、テメー!?



(── 俺、前世で結構マンガみてたから、そういうのくわしいんだ!)



そんな警戒心あらわな俺に対して、話しかけられた当人は悩ましげ。

リアちゃんは、数度首をひねった果てに、ようやく口を開いた。



「── ……誰ですの、貴男あなた?」


「ハハハッ、そう言われるとは思わなかったよっ

 ほら、僕、天剣てんけん流スカイソード家の ──

 ── あ、ほら、御三家ごさんけの新年の顔合わせとか、本家道場の子ども交流試合とか、そういうので何回か話したよね?」



金髪の貴公子(仮称)くんは、『懐かしいね?』と思い出の呼び水を差す。


だが、ウチの妹弟子は、いよいよ困り切った表情。

というか、あからさまに目が泳いでないか、コイツ。



「……お兄様、この人、知ってます?」



なぜ俺に、耳打ちしてくる?



「……いやいや、リアちゃんって。

 俺、『御三家ごさんけの道場』どころか帝都にすら行ったことない、田舎者イナカもんだからな?

 君の実家の事情を言われても、なにも解らんよ」


「……わたくしの心を何でも察知する、いつものお兄様らしくありませんわね?」


「……おい、ちょっと待て」



兄弟子という存在おにいさま』を何だと思ってるんだ、このポンコツ妹め!?

わかんない事、なんでも兄ちゃんに聞かないのっ

君の記憶にない個人情報プライベートを、俺が知ってるワケないでしょ?


こっち2人のこそこそ話に、相手もちょっと不安になってきたようだ。

仮称・貴公子くんが、ちょっと笑顔を引きつらせてたずねてくる。



「あのぉ……えっと君、『アゼリア=ミラー君』で間違いないよね?

 本当に覚えてないの、僕の事……?」



妹弟子アゼリアは困り果てた結果、誤魔化ごまかしに入る。



「── わ、わたくしは、今や『剣帝』様の弟子ですわっ

 御三家も、封剣ふうけん流も、ミラー家も、全ては過去の事!

 わたくしアゼリアは、過去は全て捨ててしまいましたの……っ!」



何だ、その『出自不明のミステリアス美女』みたいな、火曜サスペンスな設定は?


お前が勝手に捨てた・・・とか言ってる『封剣ふうけん流』の『ミラー家』の叔父おじさんとか、半年に1回は必ず様子見に来てっからな!

今度、叔父おじさんが帝都の御土産おみやげのお菓子持ってきたら、全部取り上げるぞ!

この恩知らずめいっ子め!



「え、でも、多分10回以上は顔あわせてるよね?

 御三家の子ども交流試合だって、新年の恒例イベントだから、それなりの回数やったよね?

 確かに会うの、もう5年ぶりくらいだけどさぁ。

 本当に顔とか、ぜんぜん覚えてない?」


「── ……く……っ」



アゼリア、『く……っ』じゃないがな。

そもそも、そんな妙な小芝居で一点突破はムリだろ。


だいたい、お前さあ。

俺も以前から、ちょっとアヤしいと思ってたけどさあ。

── 師匠ジジイと俺と、あとは叔父おじさんの人しか、名前も覚えてねえだろ?



「── ええぇ……本当にぃ?

 うわー、結構、本気でショックなんだけど……

 僕、封剣ふうけん流のアゼリア君とか、精剣せいけん流のケーン君とか、ずっと『同世代のライバルだ』ってお互いに意識し合ってると思ってたのにぃ……

 ええ……これって、僕の自意識過剰だった……?

 うわー……本当に?」


「…………」



妹弟子アゼリア、困り果ててオロオロすんな。

捨てられた子犬みたいな目で、こっち見んな。


なんだその 『お兄ちゃん助けて! 知らない人が変な事言ってくるの!』 みてーな顔。


事情を聞いた感じだと、悪いのオメーだからな?

あと多分、精剣せいけん流ケーン君の事も覚えてなさそうなのが、コイツもうダメだ。



(── すまんな、スカイソード家のなにがし君!

 うちの妹弟子がポンコツで!)



でも、魔剣士としての才能は、間違いなく超一流のスーパー天才児なんですよ。

そこだけは、本気ガチで。





▲ ▽ ▲ ▽



── さて。

このまま放っておくと、話がまるで進みそうにない。

ってか、もう、依頼人スカイソード氏の後ろに控えている、お連れさん2人も困っている。


なので、仕方なく俺が口を挟む。



「── あー、すみません、スカイソードさん?

 御三家の関係者という事であれば、魔剣士の方ですよね。

 依頼の話の前に一度、お互いに自己紹介させていただいて、よろしいですか?」


「あ、はい。

 構いません、ちょっと忘れられちゃったみたいですし」


「── ぁ……っ」



金髪貴公子にチラ見されると、ササッと俺の後ろに回り込む銀髪女子アゼリア


『うわー、知らない人に話しかけられて、怖かった』みたいな態度すんな!

お前の『幼なじみ』だよ、そのヒョロ貴公子イケメン

少なくとも、『顔なじみ』と書いて『ライバル』と呼ぶくらいの関係だよ、聞いた限りじゃ!



「アハハ、嫌われちゃったかなぁ……?」


「すみませんね、本当に……っ」



俺は、不出来な妹弟子の代わりに、ペコペコ頭を下げる。


── もしも、もしもだよ?

もしも、俺の可愛い妹弟子リアちゃんが『男幼なじみイケメンに抱きついて、再会を喜ぶ』となったら、さすがに兄弟子にいちゃんも嫉妬しちゃうけどさあ。


だけど、こんな塩対応しおたいおうもあんまりだろ!?

あんまりな塩対応しおたいおうすぎて、『イケメンなのに相手されてないぜ、様あ見やがれざまぁー』と途中まで用意してた草ぁwwwwが全部れたぞ、塩害えんがいで。


そんな敵意が30%ほどげんした目で、軽くお辞儀。



「自己紹介は、まずは彼女からぁ、って ── おい、前でろ妹」



俺の背中で、服をギュッとしている人見知りリアちゃん

なんとか引きずり出そうとするが、上手くいかずに諦める。



「ハァ……まあ、ご存じの通り、封剣ふうけん流の直系で、アゼリア=ミラーです。

 本人の言った通り『剣帝の後継者』の方が、通りが良いでしょうね。

 そして俺が ──」


「── 本当に女の子なんだっ!?」



と、俺の自己紹介が、女子特有のキンキン甲高い声でさえぎられる。


ヒョロ貴公子イケメンの後ろ2人 ── おそらくパーティメンバー ── の片方だった。

多分、年齢は小六とか中一とか、その辺り。



「あ、ダメですよ、メグちゃん。

 他人様ひとさまのお話の途中なんですからぁ……」



キンキン声をたしなめたのは、おっとりしたメガネお姉さん。

こっちは多分、女子高校生とか大学生くらい。



「だってだって、サリーねえ

 『剣帝の弟子』とか、なんか・・・情けない男・・・・・とかいう話もあったじゃない!?

 ソイツを押しのけて、後から来た女の子弟子が、後継者になったとか!

 そんなウワサがホントだなんて!?」



ペラペラ良くしゃべるなぁ。

いや、そういうの後にしてくれない?


そんな俺の不機嫌が伝わったのだろう。

おっとり姉・サリーさんらしき人が、キンキン声メグちゃんの背後に回ると、両肩に手をポンポンする。



「メグちゃん落ち着いて…… ── ごめんなさいね、ガイドさん。

 この子がメグちゃん、わたしの従妹いとこです。

 わたしは、サリー=ハートフィールド。

 実家が魔法技工士マジック・クラフターなので、<魔導具>マジックアイテムの整備師の資格も持ってます」



すると、ヒョロ貴公子イケメンが、サリー女史のすぐ後に口を挟んできた。



「では、ついでに僕も。

 マァリオ=スカイソードです。

 天剣てんけん流の直系で、席次は5番目」



マ……リオ?

しかも、スカイソード?


キノコ兄弟なのか、ゼ●ダなのか、どっちかにして頂けませんかね?



(……に、任●堂……業界最強の法務部……訴訟……賠償金……

 うぅ、頭がぁ……)



何故か。

何故か、非常に呼びにくい。


なので、今後『ヒョロ』と予防よぼう ── ミス、呼ぼう。

よし決定!



「最後になったが、俺はロック。

 剣帝の先にいた弟子で、『なんか・・・情けない男・・・・・』の方だ。

 皆さん、短い付き合いだが、まあよろしく」



「はぁあ!? アンタ男なのぉ!?」



魔法使いな女児メグのキンキン声が、<翡翠領>北門の昼下がりに、よく響いた。

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