13:道場をやぶろう(下級編)

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




さて、どこまで話したかな。

ジジイが変な所で止めるから、わかんなくなったぜ。


── ああ、そうそう、赤毛をボコったアホ先輩2人をぶちのめす辺りか。



「チンピラども、10秒やる。

 さっさと、強化魔法を発動しやがれ」



俺がそう言うと、アホ2人はさすがに面食らった表情。

怒りで紅潮していた顔が、少し素に戻った。



「── はぁ?」

「── 何言ってるんだ、コイツ?」



一般人相手に強化魔法を使ってはいけない。

そのくらい最低限の、魔剣士の常識はあったらしい。



「おいおい、このオカマ正気か? 頭イカれてんのか?」

「あのよぉ、この優しいお兄さん達は、いますぐ謝罪金でも出せば ──」



── グダグダ、ウザい。

だから、黙らせるように、しゃべってる長髪ロン毛の顔面めがけて、石を投げてやる。


さすがに避けられたが、挑発効果はバッチリだ。



「── コロス!」

「このガキァッ、何しやがる!」



無言の攻撃に2人とも、ふたたび顔面を真っ赤にした。

腰の<正剣>フォーマルを抜き、左手に二つ付けた腕輪型<魔導具>マジックアイテムの片方をスイッチオン。


見慣れない強化魔法が起動し『カン!』と鳴る。



(そういえばジジイが、何個か系列があるとか言ってたな、強化魔法……)



俺、妹弟子が元々持っていた【身体強化・疾駆型スピード】とジジイ独自術式の【五行剣ごぎょうけん】しか、詳しく調べた事ないな。

そういえば、数日前の冒険者パーティが使ってたのは、何の種類って言ってたか……。


そんな事を考えている内に、ボウズ頭の方が抜き身の<正剣>フォーマルをかついで、宿の入口へ歩き出す。



「へへへ……っ

 お前みたいなバカにも解りやすいように、俺ら『魔剣士にケンカ売る』って事の意味を教えてやるよっ」



ボウズ頭が向かった先には、立派な庭木。

小ぶりな葉っぱが全部「ほし」型なので、モミジかカエデかどっちか。



(そういえば、この宿、『メープル・イン』とかいう名前だったっけ?)



「── おい見てろっ オカマ野郎!

 これがお前の、いまから1分後の姿だっ」



ボウズ頭は、刃渡り1.5m程の剣を仰々しく振りかぶり、一閃。


── ザザザザ……ズズン……ッ、と安宿の看板代わりの庭木が切り倒される。



「ヒヒヒッ

 バカなガキだ、もう泣いても許さねえぞ!」


「…………」



俺は、スッパリと一撃された、人間の胴体くらいの樹木に目を向ける。


目の前でこうやられると、俺としても色々と思う事がない訳でもない ──

── ジジイやリアちゃんがまきを作るのによくやってるな、とか。

── 他人様ひとさまの財産を勝手に壊すなよ、とか。

── コイツら強化魔法持ってるからって完全に図に乗ってるな、とか。


色々、残念な気持ちで一杯だ。



「この強化魔法の効果が切れるまで、あと4分30秒くらいか?

 死にたくなければ、必死に逃げろよ、オカマちゃぁ~~ん!?」


「ふぅ……っ」



俺はしゃべるのも面倒になったので、指先でチョイチョイ。

『かかってこい』の身振りジェスチャー



「『無環むかん』のガキのくせにぃ!」

「ヒトが大人しくしてりゃあ、調子にのりやがって!」



強化した脚力で、男2人が斬りかかってくる。



(強化した割には、動きが遅いような……気のせい?)



そんな事を思いながら、防御用のオリジナル魔法【序の三段目・め】を起動。



「くたばれ!」「しねぇっ」



物騒な声と共に繰り出された、左右の剣。

右から三つ、左から二つ。

大ぶりの連撃を、愛剣・ラセツ丸で軽く弾いた。



(── んんんん!?

 え、『軽く弾いた』?

 魔法で強化された魔剣士の ── 超人の撃剣を!?)



「コイツ、意外とやるぞ……っ」

「ちっ、魔剣士でもないクセに……っ」



(おいおい、ウソだろ……)



試しに、ちょっとしたトリックを仕掛けてみる。


右肩から突っ込むような体勢で、片手で剣を上段から振り落ろし ──

── と、それは引っ掛け。


実際は剣を持っていると見せかけた、素手のチョップ。

本命は、右から左に鈍剣なまくらを持ち替え、片手突き。

上をガードさせて、がら空きの足下を狙う。



「── ぐわぁ……っ」



まだマシな方のボウズ頭も、面白いくらいに引っかかった。



「な、なんだコイツ……おかしな技を使うぞ!?」


「これで、赤毛後輩コペールを倒したのかっ?」


「…………おい、マジか、お前ら……?」



なんでお前ら! 強化魔法使ってんのに! ただの剣術に! 対応できないんだ!?



(コイツら、剣術の基本すら、ボロボロじゃねえか……)



赤毛のニアン少年の力任せ剣術の方が、100倍マシだぞ!


しかもアイツ、決闘の時は強化魔法つかってなかったからな!

今、強化魔法つかってるのに、お前らそれ以下だぞ!?



「── お、おい、オカマ野郎!

 テメー剣術に自信があるみたいだが、俺たちには効かねえぞ?」


「そうそう、轟剣ごうけんユニチェリー流の強化魔法には防御の力もあるんだっ

 魔剣士じゃないヤツの普通の攻撃なんて、全然効かねえからな……!?」



いや、ムチャクチャ腰引けてるし。



(さっき、『ぐわぁ!』とか言ってたヤツが、何言ってんの!?

 しょーもないハッタリの上、バカみたいなヤセ我慢?

 なんなのコイツら……)



「へ、へへ、ビビったか? 魔剣士って、魔物と常に戦ってるからな。

 普通の人間なんてワケねえんだよ、謝るなら今のうちだぞ?」


「お、俺らも鬼じゃねえからな!

 地面に頭すりつけて謝るなら、今ならまだ許してやるぞ?」



虚勢張るにしても、もうちょっと堂々としろよ!

こっそり、ジリジリ後退すんなよ!



(もう、俺、見てらんない……!)



── 今の状況を例えるなら、こんな感じ。

『大型犬に吠えられたと思って怒鳴り返したら、チワワがプルプルおしっこ漏らしてた』



(なにを言っているかわかんねーと思うが……

 俺も、自分がなにを言っているかわかんねー……)



とりあえず、『ロクでもないチンピラ2人』から『口だけのみっともないザコ』に格下げ。

もうここまで評価が下がると、どっちが上でどっちが下か、わからんけど。





▲ ▽ ▲ ▽



「ところで、お前らの強化魔法、防御の力があるとか言ったな?」


「お、おう、【身体強化・剛力型パワー】だからなっ」


「素早さはないが、頑丈さなら負けねえぞっ」


「それはよかった……。

 全力で殴っても、死ななそうだな」



まあ、死んだら死んだで構わないけど。

清らかな乙女なリアちゃんを穢そうとする、クソカスゲス野郎どもだし。

うっかり殺しておいても、損はなかろう。



(コイツらいわく、死体は都市の外に放り出せば、魔物が処理してくれるらしいし)



俺の、そんな殺意マシマシな目に気づいたのだろう。



──『え゛……?』



ハモった声で、ザコ2人の口元が歪む。


俺は、左の薬指を伸ばし、指輪に偽装した待機状態スタンバイの魔法を解放リリース

魔法の術式<法輪リング>が、腕輪の大きさに広がり、高速回転し『チリン!』と鳴る。



「── 【秘剣・速翼はやぶさ】!」



地面を蹴ると、背中に圧力がかかり、急加速する。

地面すれすれを飛翔しながら、超スピードで急接近。


これが、俺の3番目の必殺技、突進系攻撃。

(※ 格闘ゲームなら ↙→ + [P]または[K]

  押ボタンで距離が変わり、レバー操作で軌道が変化するタイプの技)



「え、あ……なっ!?」



長髪ロン毛、ギリギリ防御の構えを取った。

慌てたけど、剣を盾にできて、エライ!



(でもリアちゃんの敵だ、ぶっ殺す! あとついでに赤毛の分も)



俺の必殺技の軌道は、右カーブを描いて斜め側面から跳ね上がるコース。

敵の、<正剣>フォーマルを斜めに倒した、下段防御の構えをかいくぐる。


船の櫂オールのように両手で握ったナマクラ剣で、剣を持つ右腕をたたき折った。

ベキベキゴキンッ、と小気味いい破壊音。


── 残念だったな、長髪ロン毛

お前の防御が下手すぎて、右腕プラスの肋骨まで行ったかもしれん。



── なお、この飛翔突進系必殺技の特徴は、高速移動だけじゃない。

空中打ち上げで、空中連撃エリアルコンボの始動技という利点もある。


長髪にナマクラ剣をめり込ませたまま、宿の2階屋根の高さまで強制連行。

獲物を捕らえた猛禽類が、そのまま空中にさらっていくように。



「左腕もいっとけ!!」



空中で勢いをつけるため、一度振りかぶって、エビ反り状態の『C』の字に。

さらに、両足で剣身を挟み、デコピンのように始動に弾みをつけての、大上段。

(※ 格闘ゲームなら 技中に↓ +[K] )


必殺技 ── 強化魔法の効果が残った状態の追撃は、ボクンッ、と鎖骨を破壊してそのままザコを地面に叩き付ける。



長髪ロン毛は、どこかの時点で気絶していたのか、すでに白目をむいている。



「ひ、ひぃい…………っ」



それを見て、ボウズ頭は腰を抜かしていた。





▲ ▽ ▲ ▽



「な、なんだよぉ、なんだよお、お前えええ……っ」


「…………」



俺は黙って、一歩踏み出す。

ザン、という足音に、ボウズ男は、跳ね上がった。



「ひ、ひぃ、ひぃいいいいい……っ く、くるなぁぁあっ」



ビックリした猫みたいに飛び上がって、半ば四つん這いで逃げ出す。

まあ、逃げ足の速いこと、速いこと。



(このボウズ野郎って、もしかして【身体強化・剛力型パワー】より【身体強化・疾駆型スピード】の方がしょうにあってんじゃないの?)



一心不乱な俊足っぷりに、ちょっと呆れる。


普通なら『充分ビビらせたし、これで改心するだろう』と見逃してもいい所なんだが ──




── 『テメーの身内だって、見つけ次第ボロボロにしてやんよぉ!』



(── コ・イ・ツぅ!

 そんなフザけた事を言いやがったよなぁぁああ!!?)



「お前ぇ、俺のぉ、守るべきぃぃい!!

 アゼリアをぉ、どうしてくれるって言いやがったぁぁああ!!?」



左手の人差し指を立て、指輪に偽装した待機状態スタンバイの魔法を解放リリース

魔法の術式<法輪リング>が、腕輪の大きさに広がり、高速回転し『チリン!』と鳴る。


同時に、両手で全力で、ナマクラ剣を斜めに振り下ろす。

その軌線が実体化するように、巨大な三日月が出現。



「── 【秘剣・三日月みかづき】!」



おなじみ、俺の記念すべき第1の必殺技。


この5年で改良に改良を重ねたソレは、ごっこ遊びのレベルじゃない。

昔みたいに、草刈りと枝打ちができるだけの、カマやナタの代わりに収まらない。


秒速50mという、大型台風なみの超突風のスピードで迫る、横向きのギロチン。

ただし、今回は、切れ味ゼロにした『不殺ナマクラバージョン』。



「ひいぃぃ ── ブヒャぁっ!!」



ボウズ男は背中を強打され、前のめり転倒。



── 秒速50mは、時速180km。

プロ野球の時速140kmのデッドボールだって、骨折するんだ。

それはもう、背後からホームランバッターのフルスイング金属バットを食らったような物。



エビ反り体勢というか、金のシャチホコ体勢というか、そんな格好で顔面から地面に着地。

ボウズ男は、鼻血やら前歯やらまき散らし、そのまま気絶した。

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