「知ってる?異世界って格ゲーないんだぜ(絶望)」ナマクラ剣士のしくじり伝説【奥義コマンド:↓↘→+弱S】

宮間かんの

Round 1:道場ステージ

01 :か弱い男の娘(絶望)

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)




―― 異世界転生したら、か弱く可憐かれんヲトコッ(☆ミキャピッ



見よ、この男子とは思えない『可憐可愛いキャワワ美貌ルックス』!

さらに、中学生女子ローティーン並に『小柄でか細い体格バディ』!


幕張コミケ女装コスプレとかしたら、カメラ小僧カメコに囲まれちゃうかも!?

(※ 注意:異世界転生者のため価値観が平成で止まってます)



(── ちがう、そう・・じゃない……っ!)



思わず、奥歯がギリ……ッと鳴る。

窓ガラスに映る『今世いまの自分の姿』に、怒りと不満。


前世・格闘ゲーム愛好家かくゲーマーとしては、もちろん主人公キャラか準主人公ライバルキャラみたいな『細マッチョな高身長イケメン』が理想なんだが……。


現実は、理想それとは全くかけ離れた『ナヨナヨ貧弱チビ』で、頭を抱えちゃう。



(ここって人食い魔物がワラワラ、危険がデンジャーな異世界だぞ!

 なんでこんな貧弱男子ザコキャラに転生してんだよっ(半ギレ))



この世界って『玄関あけたら2分で魔物襲撃ガブリッ』だ。

そんな難易度ベリーハードで、見た目がどうとか(特に男!)、どうでもいい。


むしろ、魔物の被害がヤベー世界なので、頼りがいのある筋肉男マッチョがモテる。



(しかも、魔法有りのファンタジー世界で『魔力量すら極小カス』とか!!(絶望)

 ―― もうね、アホかと!?)



また、ギリギリ……ッと歯ぎしり。



(昔の格ゲーで言うなら『弱キャラレシオ1』だろ、この身体からだっ!

 いや、あるいはソレ以下か!?)



弱すぎて『ラスボスレシオ4超え』とか絶対倒せないヤツ!

あるいは、『かみ・・キャラ』の『紙防御かみぼうぎょ』の方のヤツ。


つまり、異世界転生したら『すぐ死ぬ激弱少年ザコキャラ』だった、俺ロック。



(―― うわっ……。

 オレ輪廻りんね 、 ヒドすぎ……?)



思わず、口元を両手で押さえちゃう。





▲ ▽ ▲ ▽



「── で、ロック。

 なんでおぬしは、この『魔剣士まけんし道場』を壊滅・・させた・・・?」


「……ん?」



仁王立におうだちのジジイが、急になんか言ってくる。

白髪で長身で細マッチョ体型の、剣の達人ジジイだ。



ほうけてないで少しは反省せぬか、ロックよ……」


「反省? え、なんで?」


「ハァ……ッ

 まったく、おぬしというやつは……っ」



腕組んだジジイが、しらがマユ毛でしかめっ面・・・・・



「………………」



いま俺、石畳いしだたみの上に正座中。

理不尽に怒られ、不服な気分でいっぱい。


さっき内心ブツブツ言ってたのは、ただのストレス発散。

つまり、しんどいお仕置き中の、現実逃避だったワケだ。



「ロック、一応、念のために言っておくがな。

 『魔剣士まけんし』というのは、魔法の力で超人の能力を発揮する、選ばれた戦士の事じゃ」


「……なんの話だよ、ジジイ?」



俺は別に、説明が理解できない、というワケじゃない。

むしろ真逆。

『なんで今さら解りきった事を?』と困惑しているワケだ。



(なにせ俺って、魔剣士まけんしを目指して落ち・・こぼれた・・・・、ジジイのもと弟子でしだからなぁ……)



いえ~い、せっかく異世界転生したのに、才能なしザコ男子のロック君で~す!


異世界のみんなぁ~、後ろから小石投げたり、指さしてバカにしたり、何かとイヤがらせしたり、通りがかりで笑ったりツバいたり、だましてゴミ売りつけたりしないで、ちゃんと仲良くしてね?(青筋笑顔ブチぎれ寸前ッ)



「そんな魔物から・・・・人々を・・・守る・・『選ばれた戦士』が、だ。

 お主のような『魔剣士ではない者』に手も足も・・・・でなかった・・・・・わたれば、一体どうなると思う?」


「……まあ。

 修行不足を反省して、明日からガンバるんじゃね? きっと」


「ハァ……まったく、おぬしは……、どうしてこう……」



ジジイ、米神こめかみおさえてブツブツ言う ――


―― そして、『石畳の道場内・・・に転がる・・・・魔剣士たち・・・・・』(ゴツい連中のくせにイマイチ!)を見て、ため息。



(多分これは、きっと。

 このザコ集団が『サイキョー戦士職の魔剣士まけんしだから、俺TUEEEEツエェ~~ッ!!』とか、調子乗ってた事に呆れてるんだろうな……)



穏やかに見えて意外と厳格だもんな、ウチの元・師匠ジジイ



「ところで、ジジイ。

 俺、そろそろ足がシビれちゃったんだけど?」


「ダメじゃ。

 しばらく、そうやって反省しておれっ」


「………………」



石畳の上に、正座とか。

児童虐待ぎゃくたいにきびしい前世ニッポンなら、ソッコーで訴えられてるぜ。

ここ近年は体育会系の部活クラブでも体罰禁止らしいし。



(── よかったなジジイ、ここが異世界でっ!!)



そんな虐待ぎゃくたいジジイ(俺の養父ようふで元・師匠ししょう)が、さらに詳しく事情を聞いてくる。



「そもそも、この『道場やぶり』の原因は?

 おぬしなにゆえ、ここで暴虐ぼうぎゃくかぎりをくした……?」


「── だってジジイお前、アゼリアのピンチだぞ!」


「ハァ……、やはりそれ・・か」



俺は目をげてくって・・・かかる・・・が、ジジイは呆れ顔。



「お主、妹弟子いもうとでしがナンパされるたび、このまちの『魔剣士まけんし道場』をつぶしてまわる気か?」


「誰がナンパくらいで、『道場やぶり』するかよっ」




―― 【悲報】オレ極悪道場クズどもをボコったら何故か超怒られる!?【むしろ善行】





▲ ▽ ▲ ▽



「その後色々あったんだって!」



俺は、ちからいっぱい否定する。



「こやつ妹弟子アゼリアの事となると、いちいち大騒ぎするからのう……」



だがジジイは、信用ならない、と首をすくめる。

そして、『石畳の道場内・・・に転がる・・・・魔剣士たち・・・・・』(ゴツい連中のくせにイマイチ!)を見て、ため息。(本日2回目)



―― ちなみに、道場内でくたばってるゴツい男たちは、ほぼ短髪か坊主頭。


それを見ていると、俺自身の黒髪長髪が気になってくる。



(う~ん、髪を腰まで伸ばしたせいで、いよいよ女に間違われるのかな……?)



この異世界だと『髪を伸ばすと魔力が増える』。

だから、魔導師は長髪が標準デフォで、男だとヒゲも伸ばすらしい。


俺も、1~2割は魔法の発動回数が増えた感じ。

体格も魔力もザコな俺には、貴重な能力値ステータスの底上げ要素だ。


目の前のジジイも、白髪しらがを長く、白ヒゲまで伸ばしてる。

ちょっと見た目、仙人みたい。



―― ジジイは、その白毛しらがヒゲをいじりながら、呆れたジト目で何か言ってくる。



「しかし、アゼリアの話からすれば、それが発端ほったんじゃろうが……」


「ち・が・う・わ・いっ

 ジジイ、俺はなぁ ──」



そんな感じで俺とジジイが言い争っていると、急に赤毛少年が割り込んできた。



「── あ、あの……っ」



この赤毛少年は、恵体メグタイ(恵まれた体)ってヤツ。

俺より1つ年上の16歳で、すでに体格ガタイが青年並だ。


この世界というか、この国というか、転生先は高身長ムキムキ男ばっかり。

おかげで、俺がいよいよチビで華奢きゃしゃに見られて、ナメられてしまう。



「お、俺が! 俺なんかが!

 お弟子さんと決闘なんて、そんな大それた事をいいだしたから……っ

 申し訳ありませんでしたっ」



赤毛のヤツ、いきなりスライディング土下座だ。



「この責任とって、俺、道場をやめますので!

 どうか、お許しを!」



赤毛少年が、涙ながら何度も頭を下げる。

俺は、そのゴツい肩をつかんで、無理矢理に頭を上げさせる。



「お前が、頭下げる必要なんて、ないだろうが!

 問題は・・・、お前じゃないっ」


「そうじゃのぉ。

 問題は・・・、全部ロック、お主じゃし」


「ちがうわ!

 混ぜっ返すな、ジジイ!

 ── 問題の、トラブルの原因! 全部あの2人だからなっ!」



俺はジジイに反論しながら、赤毛少年の不良先輩という、アホ2人を指差す。

道場の入口そばでくたば・・・ってる・・・、その気絶顔すらアホっぽい。



「では、ロックよ……。

 なぜ、その2人を倒した後、おとなしく剣をおさめなんだ?」


「── はあぁ~~! 何いってんだジジイっ!?

 男と男の1対1の決闘の結果に、横からイチャモン付けてくる!

 チビ・貧弱・落ちこぼれの俺に、多勢に無勢でかかってくる!

 そんなヒキョー者だぞ、アイツら!」


「……貧弱……落ちこぼれ……。

 ロックお主、自分の事を、そのように思っていたのか……?」



ジジイが、何か遠い目をしてる。



(── ジジイ、すまんな!

 せっかく見込んだ一番弟子で養子の俺が、こんな才能なしで!)



俺だって、幼い頃は真剣に魔剣士を目指していた。

本来なら、今頃はジジイの流派の後継者になってるハズだった。


だから、『元師匠ジジイの期待に応えられないで申し訳ない』って気持ちだってあるんだぜ?



── まあ、その辺りは、今はわきに置くとして。



「きっとコイツら、この次はもっと汚ねえ手を使ってくるだろ!

 卑劣ひれつにも、か弱い女の子を人質にしたり!

 ── うわあぁっ ア、アゼリアがさらわれちゃったら、どうすんだよジジイ!!?」


あの・・、アゼリアが……さら、われる?」



俺がこうも熱心に訴えてるのに、ジジイは反応イマイチ。



「アゼリアは、なぁ!

 か弱い女の子なんだぞ!

 可憐なお嬢様なんだぞ!

 もしも! クズでゲスな悪党に押さえ込まれて『ゲッヘッヘッ』とかなったらどうすんだよ!?」


「押さえ込む……、あの特級のジャジャ馬娘を?

 そんなマネができるのは、お主くらいじゃろうが……」



なんかよく解らん反論をしてくる。

まったく、何考えてんだ、このジジイ……っ


妹弟子・アゼリアは、剣の稽古けいこで『魔剣士の才能のない・・・・・俺に負ける』くらい、か弱い女の子だぞ!



(── いや、違うよ!?

 ウチの妹弟子に、魔剣士の才能がないワケじゃないんだ!)



むしろ、トップクラスの天才だと思うよ!

きっと伝説とかなっちゃう超・天才児!


ただ、あの子は、心の優しさがアダになっちゃうタイプ。

心が天使だから!


きっと、怒りMAXマックスか、闇堕やみおちか、そういう暴走状態しか本気の全力100%が発揮できないんだろう。



(……ウチの妹弟子、対人戦とかマジ苦手だからな。

 剣の達人なジジイはともかく、『ナマクラ剣士な兄弟子(俺!)』にも勝てないとか……)



お兄ちゃん、色々心配です。


── だからこそ!

── そんな子だからこそ!

── 魔力たりない俺が、カラダを張って血まみれになってでも!



「女の子はぁ! 男が守ってあげんと! いかんでしょう!?」



俺の血をくような絶叫。



「…………ハァ……」



だがジジイは、いよいよ白い目を向けてくる。

もうめんどくせえな、という表情だ。



「……あの子とて、人並み以上にしっかりきたえておるぞ。

 りかかる火の粉くらい、おのれで振り払えるじゃろ……」


「ジジイが、そんな放任主義すぎるからだろ!

 だから俺がこんなに、妹ちゃんの心配しないといけないんじゃねえか!?

 ジジイ、テメー、俺を育成途中で放り出しておいてまでアゼリアを弟子にしたくせに、色々無責任だろが!?」


「………………そうか。

 まあ、おぬしがそうまで言うなら、本人にもいてみよう。

 ── これリア、こちらに来なさい」





▲ ▽ ▲ ▽



「なんですの、お師匠さま?」



ジジイが呼びかけに、銀髪美少女さんが立ち上がった。

―― あら、どこの高貴なご令嬢様かな?

―― もしや、どこかの国のお姫様かな?


なんて気品あふれる美少女っぷり!

小動物のようにポリポリとクッキーを召し上がっていた痕跡こんせき、口の周りのクッキーの欠片かけらまでチャーミング!


これが俺の妹弟子、アゼリア=ミラー(15歳) ──

 ── 愛称リアちゃん(今日も可憐カワイイ)な訳だ。



「今の話、聞いておったか?

 お主はどう思う?」


「うーん……リアは、そうですわね ──」



銀髪の妹弟子は、碧眼をちょっと細めた。



(うん、うんっ、そうだよねリアちゃん?)



可憐で心優しくも繊細な、花もさかりの15歳。

ゲス野郎に純潔を狙われる(!?)なんて、乙女のピュアなハートが傷ついちゃうよね?



「── リアも!

 お兄様といっしょに、『道場やぶり』をしたかったのですわ!」



妹弟子の、天真爛漫てんしんらんまんの笑顔。



「お兄さま直伝の『超必殺アルティメット奥義』で、ズバズバですわ!

 ついでに、お師匠さまの『五行剣ごぎょうけん』で、ザクザクですわ!

 気持ちよい汗をかくと、夕食のデザートがいっそう美味しいですのよぉっ!

 わたくし、3日も修行がお休みで腕がなまりそうですの、試し斬りの相手が欲しいですの!」



銀髪お嬢様のニコニコ笑顔から、クソ物騒なセリフがき出される。



「……リアや」

「……リアちゃん」



それを見て、師匠であるジジイの心と、兄弟子である俺の心が一つになった。

まさに以心伝心いしんでんしん、声も重なる。



── 『そっちのまとを借りて、気が済むまで打ち込み練習してなさいっ』



俺とジジイが指さしたのは、魔剣士道場の端にある『人型標的カカシ』。

丸太木まるたぎに、鉄兜てつかぶと胴鎧どうよろいをつけた、剣術の練習設備だ。



「わかりました!

 思いっ切りブンブンですの!

 ── とりゃー!」



妹弟子が木剣を叩きつけるたび、ガン!ゴン!ガン!ゴン!

まるで工事現場みたいな轟音。

だいぶん、体力が有り余っていたみたいだ。


それを見て道場の主 ―― 初老魔剣士まけんしが、苦笑い。



「―― さ、さすが。

 『剣帝けんてい』 さまの、お弟子さまがたですね……ハハハ」


「あの、お師匠さま。

 俺は、いったいどうしたら……」



赤毛の年上少年は、道場主のそでをソッと引き、なかば涙目。



(元々コイツがからんで・・・・きた・・のが原因だし、自業自得よなぁ……)



赤毛少年の右往うおう左往さおうっぷりに、なんともいえない笑顔が浮かぶ。



── まあドンマイ、気にすんなよ!

粗相ポカして勤務先カイシャが吹っ飛びそうになる』とか、そういう案件しくじりって誰にでもあるさ。



(俺も前世ニッポンのサラリーマン生活で、ガチ土下座な案件しくじりとか2~3回あったしなぁ……っ(経験者のあたたかな眼差まなざし))



いわゆる『類友ルイトモ』な友情のきずなを感じて、心がホンワカ。



―― そんな懐かしい気分のせいか。

俺は、なんとなく過去の記憶にひたり始めた。



//////////!作者注釈!//////////


この作品にはオマージュ要素が含まれています


2023/01/21 タイトルと内容を少し変えました

2024/07/03 解りづらい部分を修正しました



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