第11話 きれいな人はもちろん歓迎します

 以前二人の議員さんを紹介しましたがついでに、もう一人の議員さんも紹介させていただきます。我が落語研究会には、どういう訳か議員さんに縁があるようでして。


地元の大きな運送屋さんの跡取りさんである彼には芸名がありません。それは公平を欠くぞ! 日本国憲法第何条とやらに違反するものでありましょうぞ。

 いやいや、それにはちと訳がありまして。彼は何度か会に顔を出したものの、温厚なこの議員さん候補は出席する度に、皆の酒の肴にされてばかりでありまして。

そのかまわれようといったら大変なもので、旧家の御曹司に対する皆のやっかみからか、と妬ましい見方をしてしまうほどでありました。


その彼、ある時落語を発表することになっておりましたが、交通事故を起こして来られなくなりました。 と言っても大した事故に非ず、ちょっとこすった程度のもので、皆はほっと安心致しました。そして大事ないことが分かるとすぐに、皆はいつもの調子でからかうのでした。

「落語の発表から逃げたな。汚ねぇぞ、肝っ玉ちっちぇ~」


 来られない旨を知らせにみえた奥様は堂々たるものでありまして。こんな罵声に似たおちょくりにも平気な顔でニコニコ笑っておられます。でもそれが運のつきでして、彼女はその時からそのまま、彼の代理で出席するようになり、次第に身代わりから正会員へとなっていったのでありました。皆の言い分ったらありません、「マサシよりもかあちゃんの方がいいから、あいつはもう来なくていいよ」ってんですから、酷いもんですよアアタ。


 でも実際に彼女は可愛いんですわ、これがマジで。 榎木さんでなくとも皆デレッとしちゃいます。それでちょっぴり悔しがっている私などはほったらかしで、皆で真剣に芸名を考えてやっているではありませんか。次から次へと沢山出ましたよ。ええ?覚え ていませんよ、もう。


 だって美しい、美人、可愛い、ステキ等とそんなことに関するものばかりで考えてるんですからね。 結果?はい、「こ・ま・ち」だそうですよ。 松平運送店からとって「松ノ家こまち」。 何だか松の木小唄みたいですね。ひがむなひがむな、と自身に言い聞かせている自信のない私なのでありました。


 勿論、この可愛い奥さまの応援のお陰もありましたでしょう。この彼も晴れて区議さんになりました。いずれは大臣になるやも知れません。今から大きな声で言っておきましょう、「奥さんすご~く綺麗ですねぇ。頑張って下さいねぇ」。


 会には政治も私情も入れてけっこうけっこうこけっこう、と私も鳴くことにしようかな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る