白でも黒でもない、それは
「最終目的としては完全な殲滅による惑星の奪還。だが、奴らの殲滅というのは現状、焼き尽くす以外に有効手段がないんだよ。」
俺たちはパイロット組(俺、ネモ、礫、エクスとその部下数名。)とシエラだけで格納庫に集まった。周りはバタバタしているが、それも好都合と言っていい。
「……【マシンズ】が開発されるまえに発見された特殊燃料Xは完全な真空でも爆発と燃焼を起こすことができるわ。おかげで宇宙空間での開発は飛躍的に向上した。」
特殊燃料Xとは、この宇宙に広がる様々な星にほぼ同時多発的に外宇宙から降り注いだ特殊な隕石に精製方法が記されていた……とされている謎の燃料だ。あくまでこれは噂で、実際はどこかの星で発見されたんじゃないかと言われているが、【アブゾーヴ】の存在を目の当たりにしてしまうと、あり得ない話でもないのかもな。
「この燃料の精製に必要な素材はそう珍しいものじゃない、どこの星にでもあるような岩石に含まれているのはみんな知ってるわよね。寄港した前の星で、複数の【マシンズ】が当分不自由なく動けるだけの分は用意したわ。でも、惑星を焼けるほどじゃない。」
全員が黙り込む。仕方のない話だ。そもそも【アブゾーヴ】への有効打は実際のところよくわかっていない。どうにか研究することができれば糸口が見つかるのだろうが、奴らは一端だけで寄生をする。捕獲ができないのだ。炎で焼き尽くすなんてそもそも大体の生物は死ぬから、どうすれば良いのか。【ブルー】の持つ異世界通信システムは【ブルー】自体のエネルギーを爆発的にあげ、機動能力を向上させるが実際の攻撃方法が変わるわけではない。隊長は【ブルー】を、状況を打破するための一手だと言った。アレはどういうことだったんだろうか。
「とはいえいわゆるビーム兵器は全機に搭載したわ。光学兵器の高熱で焼けば一応は効いていくからね。説明していくわね。まずは【ブルー】ちゃん。」
シエラが、みんなが集まっているところの中央の空間にモニタを映し出す。宙に浮いてるように見えるそれにみんなが注目する。
「今回は強化自体はない……と言っても【ブルー】ちゃん自体はなんども改装と装備の充実を重ねてるからその辺りを例のシステムと融合させて作り上げた。ヴィルは実戦経験自体は少なめだから大局の判断が苦手だけど、現場の判断が得意だからその場その場で換装ができる、その名も【リライト・システム】。ただ、コードの書き換えが必要になるから、その都度数十秒のラグはあると思ってね。」
「……リライト……。」
強化がない?これは純然たる強化だ。いままでの【ブルー】はもともとが開発途中とのこともあり換装が簡単にできるから、と特化させた装備ばかりさせてきたからな。それらが判断次第で変えれるならそれは圧倒的だ。
「次に【アイオロス】。アネモイでの追加装備はそのままに、自機装備のショットガンはレーザーガンに換装。姉さんは当てるの苦手だから各自クロス・ペタルには光学兵器反射装甲を組み込んだわよ。これでAIの修正ができるわ。」
「隠れた敵も狙い撃ちってわけね。悪くないわ。」
「次はエクスの【ガホーク】、まず各関節に使用されている素材を弾力装甲へ変更。すこしだけ機動性を殺したけど、近接格闘での取り回しが上がる、そして装甲はさらに薄くほとんど追加装甲だけみたいな感じになったわ、剥き出しのフレームが生々しいけど、ここまでは依頼通り。」
エクスは元々近接で圧倒しつつ全て避けるのが戦法のため、そうするのが正解なのだろうが、危うすぎないか。そう思っていると、シエラは別の資料を出す。
「【ガーディアン・ドローン】。遠距離からの攻撃を相殺してくれるバリアを展開する小型ドローンよ。オートで反応するから邪魔にはならないわ。」
「必要ない。」
「あなたが必要なくてもアリスタには必要だそうなの。ちゃんと開発したんだから使いなさい。」
どうやら姫さんの依頼だったようだ。なるほど、心配だよな。俺でもこんな一撃で落ちそうな機体、乗りたくない。
「礫ちゃんの【シーク・ナイト】は大幅に改修したわ。新しい名前をつけてもいいくらいよ。……というのも、【グレイ・ナイト】がもともと隠密用なのに【シーク・ナイト】は特化してるから今回みたいな戦闘向きじゃなくてね。小さなナイフみたいな装備とか、エレキネットとかは全部取り除いたわ。プロペラの使い方はもう使ったからわかってると思うけど、他の装備でわかんないことあったら聴いてね。」
「あ……わかったっす。」
礫は天才気質だからな、使い方をどうこう言われるより自分で考える方が色々できるだろう。シエラもそれがわかってる。天才同士気が合うのだろうか。
「あとの機体は装甲を傘増しして、遠距離攻撃に特化させてあるわ。【アブゾーヴ】がどういう行動をとってくるかわからない以上、取り込まれそうな人たちは近づかないのが得策!」
「り、了解!」
エクスの部下たちはお世辞にも強いとはいえない。だからこそ遠距離からのバックアップ。これに尽きる。
「あとは実戦で確認、となっちゃうわけでそれだけは本当にごめん。シミュレーターに入れ込む時間がなくて。」
「それは仕方ないさ、むしろよく間に合ったなとびっくりしてるよ。」
格納庫の隅の方でぐったりしているグランさんたち整備士をみて、苦笑い。むしろよくシエラが動いているなと言ったところだ。
「……さて、地上での動きだが、まずエクスの【ガホーク】はむしろ味方機がいると動きづらい。となると、エクスは一機で先に突入し、援護機全てで援護を行ってくれ。それらを陽動とする。」
「……そうだな、俺たちも元々はチームだ。その方が動きやすい。注目を集めるのは得意だ。」
エクスが頷き、仲間たちを見る。皆それぞれが、それで良い顔をしている。
「そして俺たちは三機での突入、陽動によって集まった集合帯を一網打尽。……とうまくいけばいいが。」
「……まぁ、作戦は作戦よ。何かを破壊したらいい、とかの目的戦に比べて殲滅戦はリスクが大きいものだし。戦力差があるからこそやるのよ。」
そうだ、弱点がどうの前にそもそも戦力差自体はかなりあるのだ。奴らは本体以外は巨人たちのパワードスーツやその兵器のみ。余程のことがない限り、負けることはないのだ。
……余程のことというのはいつ何時でも起こりうるものだが。
「……だからこそ、だからこそよ。アタシたちは仲間の屍も超えて進むべきなの。アタシたちは、生きなきゃなんないのよ。」
ネモは生きること、生きようとすることが大事なことであると知っている。俺もそうだ、死にたくない。まだやりたいことたくさんあるし、どうせなら仇の【アブゾーヴ】全滅させてから死にたいじゃないか。
たしかに、だからこそだ。だからこそ、生きなければならないし、だからこそ本気で挑むべきなのだ。
「……そうだな。ガーランの決定を待とう。」
俺たちは連携について話し合いつつ、決行までの時間を過ごした。……そして、その時はきた。艦内放送が鳴り響く。
「……【マシンズ】パイロットらは集まって欲しい。出撃の作戦と……大事な話がある。」
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