立ちこめる雲は空色鼠で

 さて、色々あったが振り返ってみるとこちらに大きな被害はなく、戦力は整っており即突撃をしたとしても一方的にやられることはないだろう。しかし、俺たちはまだ旅の途中、それぞれの目的の為、【アブゾーヴ】根絶の為、一人でも死ぬわけにはいかない……し、そもそも仲間が死ぬのはごめんだ。想定の犠牲がゼロだなんて甘いと思われるかもしれないが、戦う前から負けること考えるバカがいるかって言葉があるしな。ひとまず俺たちは巨人たちの基地へ戻り、作戦を考えることにした。パイロットたちは【マシンズ】に乗ったままオープン回線で話し合う。エクスたちは最近別件でいなかったし、全員が揃うのは久しぶりか。


「今までの事と今回の件である仮説を立てた。」


 俺が話を始める。【アブゾーヴ】との戦闘経験は俺が一番多いだろう。


「奴ら自身は攻撃手段を持っていないのではないかという点、知能はあまりないという点、そして、生物は取り込めないというところだ。」


「どういうことだ?【アブゾーヴ】やらにやられた奴は多いだろう?」


 エクスが口を挟む。確かに、その通りだ。しかし、あの時教官の身体は【マシンズ】の攻撃によって半身がなくなっていた。今回の件でも、奴らはわざわざほとんどジャンク品である漂流物に取り憑いて攻撃をしてきた。


「あぁ、でもそれは奴らが取り憑いた後の武装ばかりだ。やつらは外観上は液体のようで、正直取り憑かずに直接攻撃してきた方が対処方法は少ないのに、なぜかいつも【マシンズ】などの攻撃手段を奪い取る。……希望的観測だがな。」


「なるほど、知能が低いとはそういうことか。」


 ガーランは俺の話したいことを汲み取り、続きを話す。


「攻撃手段を持っていない、ではなく単純にそういう手段しか取らない、そういう選択肢しかとらない単純な思考ルーチンをしている可能性もある……。」


「……今までの調査結果だと脅威となる敵を認識している可能性が高い動きをよくしてたわけだけど……。」


 シエラは過去記録を何枚か捲りながら話す。そんなシエラにあの時の写真をさし示してやる。


「そこで俺の教官だ。おそらく奴らは死体であれば吸収は可能なんだ。その場合人間の思考回路を手に入れることができるんじゃあないか……殺されているのは教官だけではないけどな。」


「そうね……脳が残ったのが彼だけだったとは考え辛いとは思うのだけど。」


「ふん、初期状態では生物は取り込まず、強力な武装を乗っ取り、それで戦いをしてから殺すわけだろう?なら答えは簡単じゃないか。」


 シエラの言葉をエクスが繋ぐ。エクスはこの会議にはかなり積極的になってくれている。姫さん……アリスタも参加していることが関係してるのだろうか。


「わかるか?」


「脳……いや、そもそも原型が残らんのだろう。手加減などという言葉すら知らんだろうからな。【マシンズ】の火力は……それほどのものだ。」


 後半は少し言い詰まり、合わせて、聞いていた姫さん……アリスタが少しだけ苦い顔をする。碌な思い出がないのか、それとも国がどうのの話に関係があるのか。……まぁ、いまはいいだろう。すこしの沈黙を破り、ガーランは立ち上がり、みんなを見渡す。


「……少なくとも今まで通り、出来うる限り触れることなく戦うように、だな。どういう方法で操っているのかは不明だが、それらを確かめるのもまた今度だ。情報は大事だがそれに気を取られて勝てるような相手でもない。しかし、目的地はひとつだ。今回はチーム分けをする必要性がない……。全機編成で取り掛れ。」


 ガーランの口からは少し早めに流れるように出てきた言葉に、俺たちは大人しく従おうとした。だけども、別の方向から声があがる。


「ちょっと待ちなさいよ、全機編成?本気で言ってんの?」


 先程まで珍しく大人しく聞いていたネモがガーランを睨む。


「まずね、今回の作戦についてあんまり話してないわよ、なんのために集まったのよ。それに、いくら危険だからって全機出撃なんてしたら、ここはどうするのよ。」


「む……。」


「ガーラン、あんたは元々研究職だし、【アブゾーヴ】のことが気になるのもわかるし、一つの星を取り返すなんて大規模な戦争をするなんて誰も慣れてないのもわかる。けどね、作戦を一つも考えずに全員出撃なんて正直飲み込めないわ。いつも通り勢いで押し切ろうとしたのだろうけど。」


 ネモが椅子から立ち上がり、ガーランの近くまで歩いてゆく。これは相当お怒りだ。


「アンタは臆病だし、戦いの知識もそうあるわけじゃないんだから。断られるかもってのいつも抱えて話を勢いで押し切ろうとするのやめなさい。みんなも不安だし、戦いで頼りになるヴィルは押しに弱いんだから。分かっててやってんでしょ。」


 押しに弱い……そうかも。少し反省。


「……俺は副リーダーだ。みんなの命を預かれるような責任感もなければ統率力なんてものもない。みんなの実力は間違い無いんだから俺が余計なことを言わないほうが良いだろう。」


「なにアンタ、まだリーダーが急にいなくなったこと気にしてんの?そもそもアタシたちのこと勝手に拾って勝手に【コノフォーロ】渡してきたんだからほとんどスポンサーみたいなもんでしょうが。」


 そうか、ガーランは初めから副リーダーだって名乗ってたな……。正直途中参加組の俺たちからしたらそこまで気にしてなかったが、ガーランとしてはなし崩し的にリーダーになるのが怖かったのだろうか、そんなでかい身体でかよ!……いや、意外とそう言うこともあるか……。


「しかし……。」


「いいから、せめてどうなったら撤退かくらい考えなさい。一機壊れたらとか、一人死んだらとかでもいいわ。アンタが決めるのよ。」


「死……。」


「あのね、アタシたちはただの兵士じゃないのよ。一緒に食事をして一緒に暮らしてる家族みたいなものなの。そんな相手が目の前で死んだら取り乱すに決まってんでしょ。そうなった時に命令があるとせめて動けるの。死体は回収するの?諦めるの?【アブゾーヴ】が死体を乗っ取るなら機体は焼き尽くしてから帰ってきたほうがいいの?」


「俺は……。」


 ガーランは動揺を隠せず、何も返せない。


「……出撃まで時間はあるわ。戦闘関係の作戦はヴィルに立ててもらうし、それに従うようにエクスや部下にも言うわ。アンタはそこの部分だけでも考えておきなさい。」


 ネモが俺に目配せをする。すかさず立ち上がり、エクスやその部下、礫、そしてシエラに声をかけて、格納庫へ移動する。機体の強化についても説明してもらう必要があるしな。しかし、ネモよ、いったい急にどうしたってんだ?


「……んー、まぁ今回はちょっと責任感じてるし。色々頑張らないとなって思っただけよ。」

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