第9話 『チーム&シューター』
ミリアが、その鼻先を上に向けて、その双眸で掲示モニタを見上げている。
トレーニングウェアに身を包んだ周囲の人たちも最新の情報や、現在行われているステージのプレイ映像を追っている。
ミリアも胸の前で両腕を組んで、射撃のウォームアップを終えてから暫くの間、大型モニタが伝えてくるいろんな情報を見つめていた。
『
平均スコア - 個人ランキング(『チーム&シューター』を除外)
1位 93(-1)pts ヴィドリオ
2位 90(0)pts
3位 88(0)pts けーにひ
4位 84(-6)pts ロアジュ
』
モニタには、次に映った名前とスコアが公表された。
変なニックネームも見慣れてきたけど。
『ロアジュ』という名前を見て、『セイガ』の名前が無いのは少し不思議に思っていた。
『セイガ』は、さっき見たゲームで『ロアジュ』という人がいたチームに勝ったチームの1人だ。
つまり、彼は勝利チーム内で活躍していたけれど、個人ランキングでの順位は低いみたいで、その理由も推測はできる。
各ゲームはルール上、純粋な機動性に優る人が有利みたいだから、『セイガ』という人自身がその能力において、この上位の人たちと比べて劣っているんだろう。
それはたぶん、単純なトレーニング不足というわけではない。
その人が持つ特能力者として発現する能力効果は、資質や育った環境などによりまちまちであるから。
『セイガ』という人は他の人たちに個人の『力』の部分で劣った、そう、推測できる。
まあ、今回の合同トレーニングは体力作りが中心のメニューみたいだから、機動性が高い人たちが有利になるのは当たり前なんだけれど。
『
平均スコア - 個人ランキング(全部のゲーム)
1位 112(-1)pts ヴィドリオ
2位 108(0)pts けーにひ
3位 97(0)pts S:クリーチャー
4位 95(0)pts セイガ
』
各カメラの合間に映る、別の視点のランキングでは『セイガ』という人がベスト4にランキング入りしている。
逆に、『ロアジュ』という人が落ちたみたいだ。
これは単純に、『チーム&シューター』ルールを含めた得点が加算されたからみたいで。
たぶん連携、チーム戦術を含めた評価要素に含まれるんだろう。
少し面白いのが、『チーム&シューター』の上位チームなどでは、チームの戦い方を整えている人たちはEAUの
EAUでも研究され採用される戦術には、実戦において走査系と機動系がメンバーにいると戦力は大幅に増す、という前提の考え方が多い。
これは、軍部が採用する基礎的な
例えば、さっきの『セイガ』と『ロアジュ』っていう人たちは機動系で、どちらのチームも彼らの速さを活かして戦術の中心になるよう動いていた。
それがEAUの戦術ドクトリンに則った動き方に見えた。
まあ、一から組み上げても機動系をキーマンにするのは正道だろうし、それが合理的であるのは間違いない。
状況や戦力を鑑みたりする彼らの落とし込み方はあるだろうけど。
チームワークの面を考えたら、みんなの共通知識と認識は利用しやすいし。
仲が良い人たちが組むなら尚更、特に相談しなくても自然とそうなる、と思う。
彼らのチーム番号など詳細は表示されてないので、素性はわからないけれど。
おそらく、2人ともClass - Bの機動系とその仲間たちのチームだ。
『A』では見た事ない人たちだったし。
まあ、私も『A』の全員を知っているわけじゃないけれど。
〈〈
予約された方はステージ前に集まってください。
テーネスト、ONION、ミリアネァ・C、ガイズ、オッド・メイソン、・・・―――――
〉〉
気が付けば、いつの間にか掲示モニタの下端にせり上がった、新しい呼び出しの文字が流れ始めていた。
『―――しゃ・・っ・・。直接通信しています。予約していた『チーム&シューター』の待機順番がきました。なるべく早く待機スペースに集まってください。繰り返します。予約していた方に通信を――――』
耳元で呼ばれた、アイウェア - デバイスの通信からスタッフの声が聞こえたのだ。
「ようやく呼ばれたな」
隣に立つガイがそう言って、天へ向かって両腕の伸びをしていた。
ガイにも耳元の報せが届いたのだろう、掲示モニタの方にも登録名が出ていたし。
「そうだね。とっとと・・・、」
ちょっとよろけた。
「大丈夫か?本番だぞ、」
ずっと立ちっぱなしでちょっと疲れたのか。
ミリアは、ガイに少し倣うように、首を上へ見上げるように伸びをし、胸を広げて息を吸う。
胸を膨らませて、たくさん吸い込んでいるのを感じながら。
天井にある遠くの照明が、何気なく目が入る。
遠い、遠くの照明だ・・・。
・・胸の奥で少しこもる様な、息を、口の先へ、吐く、・・モニタを超えた床が見えるまで。
息を吐きつくすまで。
「行くか、」
その視線を上げるまで。
そして、軽い息を吸う。
見上げた、周囲を――――
「うん、」
ミリアが、その先を見つめる―――――
「行くよ」と言いかけて――――とくん、と少し音を感じたのに気が付いた。
それは、自分の音、みたいで。
胸の奥に鳴る、透明ななにか―――――
―――――見つめて、歩き出す。
―――――お、名前を見ろ。噂のチビちゃんがやるみたいだぜ」
「チビ?」
「Class -Aの、ほら、あの事件に巻き込まれたんじゃないかっつう、」
「ああっ、あいつか。チビの方は俺らより年下なんだって?どんなんだろうな。あれ?セイガ、どこ行くんだ?」
「近くで見たいんだ、」
「お、セイガも興味津々だ、」
「欲望剥き出しだな、」
「いいねぇ、こういうの、俺は大好きだぁ~」
にやにやっと笑う彼は、そのセイガたちが駆けていく後ろを追って注目のステージの方へ駆け寄って行く。
―――――へいロアジュ、お前がちょっと気になってるあの子がやるみたいだぞ、」
「ん、気になって・・・?あ、あの子か。・・やっぱ2人しかいないよな?ケイジは?」
「ああ?そうだな、やっぱずっといねぇ、」
「サボりとかじゃねぇの。」
「あいつならそうだな」
「どうした?フィジー?」
「・・あの子、そんなに凄いの?」
「それを知りたいんだろ、な?」
「ああ。」
「気になるよな、」
「・・・、ふぅん、ガイ君もやるみたいだよ?」
「あいつは何となく知ってるから、」
そんな彼らの横顔をフィジーは見てたけど―――――
「お、あのちっこいの、出るんだっ、」
と、小さい体躯のロヌマが勢いよく身を乗り出して、向こうの光景へ興味津々のようだ。
「んんんう・・?あいつかぁ・・?まあ参考にはなるかぁあ・・」
と、傍では大きな体躯のバークが豪快に大きな口を開けて
「ああ、注目度が高ぇってヤツらか・・。あの兄ちゃんもやるんだろ?」
低い背もたれに寄り掛かっている男、ゴドーが退屈そうなまま見下ろしていたが。
「どんなもんか見ちゃアる!」
ロヌマが不敵な笑みを浮かべ、両腕を前の胸に組んで得意げに偉そうに見下ろしている。
「つうか、ロヌマ、お前あいつと話してきたんだよなぁ?どんなだったんだよ?」
そんなバークの発言に、瞬いていたロヌマは。
「・・ん?どうなんだよ?なまいきなやつだったん・・・?」
「・・・ぅぬぁっ!?」
って、でかい声を出してロヌマがっ、いま思い出したっ。
まともに爆音をくらったバークが耳を抑えてぷるぷると目を閉じて震えてるが、ロヌマは立ち上がって向こうへと走ろうとっ、したその襟首を大きな手に引っ張られて、ぐいんっと襟が伸びてたけど。
「ぐぉあへぁっ!?」
喉がヤバいけど引きちぎれないのがこのトレーニングウェアの高耐久、大いに誇れるところなのだが、そんなことよりもロヌマを捕まえたその太い腕の主である彼女は、めんどくさげな口を開く。
「バーク、思い出させるんじゃないよ、」
「俺のせいかよっ、っつうかなんで忘れてんだよっ」
生まれつきの大きな声で不満をぶつけるバークだが。
苦しいので戻ってくるロヌマの首に、届く太い腕を回した彼女はがっちりロヌマをホールドした。
「マァージュぅウぅ~~っ挨拶かますんだぁああー、離ぁなぁせぇえ~、マージュ~~っ・・!」
「ロヌマ、あんたさあ、わかっちゃいないねぇ」
「うん??」
「後輩いびりは『カッコワルイ』って決まってんだろ、」
「・・はっ!?」
耳元で諭されたロヌマは、重大な事実に気づいたようだ。
そうすると、マージュの腕の中ですぐに大人しくなったロヌマで。
もう一度、胸の前で両腕を組んで先輩の貫録を
「先輩としてぇ、だなぁああっ・・?」
口を閉じるロヌマが。
・・そのくりっとした緑色の瞳で、ちらっちらっとマージュを見る。
「一緒に見守るか」
「・・見守るかっ!」
堂々とはっきり言い放った。
やる事が決まったらしい、そこの座席にどっかりと座り込むロヌマだ。
見下ろすような先輩の余裕ってヤツを
「見守りぃ~、みまもりゃぁあーっ♪あのチビめぇえ~~♪、みまもれぁあ~~♪」
変な歌を歌い出すロヌマの。
「やっぱ言わせてくれ。我慢してたんだが、さっきから言いたかった、お前もちっこいぞ、ロヌマ、」
「んっがぁああっ、」
どうしても気になっていたゴドーが言ったから、吠えるロヌマだ。
「私のがおっきいだろオっ、」
「どうだかなぁ~」
「ぬぅうっ、・・わかったっ、」
「なにがだ」
「後でクラべてきてやるヨ!!」
「会いに行くんじゃねぇよ」
「ゴドー、」
マージュが抗議の声か、呆れの声を向けてたが。
「後でマッテろよぅお~~」
「落ち着けよロヌマ・・」
「うっせぇぞおまえらぁあ!」
って、バークが急にキレた。
「ロヌマぁあ・・、遠慮は要らねぇ。新入りは挨拶していびってやるとするかぁ・・っ」
「おお!」
「だぁあっはっはっはっはっ!」
「ふぁっはっはぁっはっはっ、」
「野生人2人組か・・・」
ゴドーが、バークとロヌマ、大小2人の異文化が合わさる様子を眉を寄せて呆れた目で見ているが。
マージュが同じような表情でため息を吐きながら言っていた。
「ガキっぽいんだよ、バークは。ロヌマ、あんな風になったらおしまいだよ、」
「知ってるっ」
「おい、裏切んじゃあねぇよ、」
「なぁっは!ソレっていまイ!」
「なんだそりゃぁあ・・?・・?」
意味がよく分からないので頭をひねっているバークと、呆れたような苦笑いで見守っているマージュやゴドーに。
「あったしは、先輩だかんなー♪」
機嫌が良さそうなロヌマは伸ばした足を上げたり下げたりで。
「今日はいつになく興奮してんねぇ、」
やっぱりマージュがため息みたいに言うが、それから・・・ステージの方を各々のスタイルで見下ろす彼らは、各々のスタイルでステージを見下ろす、足を投げ出したり、膝を曲げて大きな
「っしっしっし♪」
「なにがご機嫌だ?おい、気になるぜおい、」
楽しそうに笑うロヌマが気になっているバークみたいで。
「めんどくせぇーなぁ、こいつら・・。なぁ?シンよぉ、」
だるそうなゴドーが話を振る彼、ずっとそこにいたが一言も発しなかった寡黙な大きな男が・・胸を張って高笑いをしていたロヌマを、横目に見ていた。
「ロヌマがどっか行きそうだったらちゃんと捕まえろよ、」
・・彼、シンはゴドーを一瞥したが、返事をすることも無く、静かに向こうの注目されるステージへ目をやった―――――
―――――はしれ走れ走れはしれ、走れぇえーっっ!!」
「速く走った方の勝ちなんだよ!」
「ちょっ、つらいってぇ!脳筋たちがぁあ!」
あっちで白色のアスレチックステージを叫びながら走ってる元気な人たちがいるけれども。
それを見ていたミリアは―――――
――――ミリアは、ふっと、軽く息を吹く。
ステージ前に集まる人たち、招集された人たちを少し見回して。
この中に、自分の知らない特能力者が何人もいると思うと。
少し、心の中が震えるような、そんな感覚を感じる。
今日は、色んな人達を見れたけど。
やっぱり。
特能力者は、興味深くて面白い人たちばかりだ。
ランキングの上位にいる〈ヴィドリオ〉という人は身体の使い方、無駄な動きをせず。
シンプルな自然体で、全身のバネを使いきるような速度を出して、一瞬で高所にも上り詰められる能力があった。
〈ロアジュ〉という人は、青白い微細な光をその場に残す、綺麗というか華麗というか。
でも、その身のこなしは小回りが利いていて、まるで踊り手のようで。
流麗な、と言ったらなぜか、少し違和感を感じるけど。
そう、加速が速いのだ。
あと、発光する所為でなのか、ルール上は減点をもらってたみたいで、可哀想だけれど。
〈セイガ〉という人は、動きを見ていたらわかる、実直に訓練を積み上げてきたんだろう、より実戦を見据えて鍛え上げた機動系の能力者だ。
派手じゃないけれど、実戦におけるEAUが目指すところを体現したような能力。
他にもいっぱい人がいて、彼らには特性があって。
特性を伸ばして、個性を伸ばして。
それが、EAUでできること。
まあ、機動系といえば、うちのケイジは来てないけど。
たぶん、サボり、それは置いといて。
例えば、今、目の前で戦うステージの中の彼らも、特能力を使ってるんじゃないか、って。
目を凝らさないと、そこには何も見えてこないから。
自然と目で追いかけてる彼らの動きを。
注視した時に、彼らのことがわかってくる。
だから、私はここにいるんだと思う。
考えるべきは、今の私に必要な事。
―――――どうやって・・・彼らに優るのか?
目標は常に1つだけ。
私が注目されるのならば―――――
『注目してください』
前に立ったスタッフの彼女の、拡声器からの声はその場の人たちの視線をかき集めた。
――――私が、勝つために。
「みなさん注目してください~」
スタッフのお姉さんが、集まった人たちに呼びかけてた。
「ルールはちょっとだけ複雑だけど、ちゃんと覚えてくださいね~。
わからなかった人は他の人のプレイを参考にしたり、後でまた聞いてください。」
なんだかさっきよりも、熱気が上がってきている気がするのは、ステージの近くに来たからか、上位を狙う人たちが集まって来ているからか。
「
それでは説明を始めます。
みなさんが集まっているこのステージは『チーム&シューター』!
このゲームは、3人1組のチームで対戦です。15M×25Mのアスレチックエリアにランダムで出るターゲットをみんなで探して、タッチしてポイントを獲得。
獲得し続けると最後は、特殊なターゲットが出るので、準備したシューターデバイスで撃ち取ったチームが勝利となります。
大まかな説明は以上!
やることは単純!
でも~?
特徴的なのはあそこっ、あそことここで対戦チームが別コートでプレイしているんです!
彼らは自分たちのコートにMRの敵キャラクターとして表示され、対戦チームがどれだけ進んでいるか、丸わかり!というかっ、めんどくさいことにタッチの妨害などをしてきます!
もちろん、自分たちも同じく相手チームに同じことができちゃいますよ!
各チームは色で判別されて、自分たちのターゲットを判別して、いかに早くミッションをクリアするかが勝負なのです。
でも~?妨害をしていいの!?
そう!いいんです!
では、そのやり方とは?
味方が味方の色のターゲットを触るとポイント獲得ですがっ、もし相手のターゲットを触ったら?
なんと、10秒間だけ相手がそのターゲットにタッチできなくなりますっ。
相手が近くにいた場合とか、近くの相手の足止めをして、その間に自分は他へ行って有利になるも良し!
そうやって攻防を繰り広げて、規定のタッチ数に達しましたら、ラストターゲットがコート内の『どこか』に出現します。
そう『どこか』です、それが見つけにくい!
なので、最後はみんなで協力して場所を探してっ、それを銃のデバイス、『ヘビーシューター』で撃ち抜いてください!
ただし、各チームで銃は1つだけ!
いいですか?1つだけですよー?
ちゃんとお話しし合って役回りを決めないと、いざとなったら困っちゃいますからね~?
ちゃんとお話しして作戦を立てた方が、勝利にぐっと近づきますよ!
そしてそしてっ、エリアの中心に『ヘビーシューター』は出現しますので、先にラストシュートしたチームが勝利となります。
これは忘れないでくださいね。
これを使わないと勝てません。
『シューター』は何発でも撃てますが、早く仕留めないと相手チームに先を越されてしまうかも。
ちなみに、『ヘビーシューター』は射撃訓練で使われるデバイスと同じものです。
ですので、ここにいる方たちなら一通りの訓練は受けている筈です。
扱いには困らないと思いまーす。
しかし、名前の通り、重めの
誰が担当するかという点にも戦略の差が現れるかもしれません。
」
と、説明する彼女と目が合った気がしたので、ミリアは1つ頷いていた。
「
最後に、特能力の使用に関してです。
特能力は、基本は使用可能です。
ですが、注意があります。
味方を阻害したり危険を招く恐れがあるので、小型以上のエグジスト能力は禁止にさせてもらいます。
各自、特能力の使用許可が手元に行きますので、そちらを参考にしてくださいっ。
あ、身体から離すタイプも禁止にさせてもらいますねー。
ご了承くださーい。
詳しくはスタート前にスタッフから各自に説明します。
それでは、グッドゲームをー!
」
スタッフのお姉さん、本当に長い説明をすらすらと言い上げていた。
ミリアは1つ頷いた。
この人はプロだ、と。
同じ説明を何度もしてるのかもしれないけれど、聞きやすくて良い声だ。
EAUのオペレーターの人たちもスタッフに駆り出されてるみたいだし、このお姉さんもそうかもしれない。
色んなゲームがあるし、説明も長いしで説明はとても難しそうなのに。
それを淀みなく読み上げたのだから、すごいな、って。
まあ、それは置いといて。
とりあえずゲーム中にやる事を整理すると。
やることは単純で。
『仲間と協力して、標的を触りまくって、最後の的を銃で撃つ。』
これだけだ。
そして、必要なのは戦略。
さっき外から眺めていた時も、上手くチームがまとまっているグループはいた。
ルールを聞いた感じ、チームワークでどう効率よく仲間の仕事を分担するかで勝率が変わってきそうだ。
それは当然なんだけれど、メンバーによっては作戦がガラリと変わってくる。
「では、さっそく次のゲームの参加者は準備をしてください。ちょうど人数があれなので・・、君と君と、あなたで一緒に組んでね。」
「お」
彼女が手で分けて示したのは、ちょうど私とガイの間で。
「こちらの3名と、こちらの3名でチーム対戦しましょう。」
ガイとは別のチームへ分かれて、分断されたような、お互いにちょっと顔を見合わせていた。
「対戦するみたいだな。」
「ぽいね?」
先頭近くの私とガイは集まった人たちの前で。
「では、付いてきてください。」
そしてスタッフの人が誘導し始めて、もうお互いのチームが分かれて移動するみたいだ。
「首を洗って待ってろよ、」
ってガイが、すちゃっと、三本指を立てたジェスチャーに白い歯を見せて笑って見せてた。
「なにそれ」
私もちょっと肩を竦めて返したけど。
にっと笑うガイがそのまま向こうへ歩いてくけど、ちょっと楽しそうだった。
私はまた肩を軽く竦めたけども。
案内に先を歩くスタッフの人へ足を向けて、一緒に行くのは傍を同じ方へ歩く知らない2人の男の人たちだ。
どちらもお兄さんで、仲間になるんだろう彼らをちょっと見上げるように
「妨害もありなんですか?」
「はい。良識的な範囲内で。」
「良識?」
「相手のアバターにわざと触れるのもなし、特能力でそれらしい妨害もなし。あとまあ、
あくまで、
相手をイライラさせる行為とかはフェアじゃないので禁止、ってことだろう。
まあ、本気になった機動系などがすごいスピードで突っ込んで来ても、映像なのでぶつかって怪我はしないけど、びっくりはしそうだ。
相手との接触を避けるシステムになっているし、怪我などの配慮も充分にしてるだろうから。
でも、ゲームみたいで楽しそうって感じが、なんていうか、良いような気がする。
それは、なんとなく。
「銃はどうやって?」
「銃は、フィールドの中で目立つように設置されます。ラストターゲットが出現したら見つけられるようになってます。」
「目立つんですか?」
「目立ちます。」
って、念押しされたようにもう一度言われた。
ふむ。
と、話してたら登っていたステージの端の、ちょっとした階段の上でその光景は広がる。
スタート地点から広がるそのステージには白い床、よく見ればちょっと灰色っぽい床が段差や緩い
「ではこちらで待機を。」
足を止めて振り返ったスタッフの彼女が、そう。
それから、彼女は私たちをじっと見つめる。
「みなさん、」
声が一段低くなって・・。
「これから重要な事を決めるので、よーく話し合って決めてください。」
・・重要な、なんだろう?私たちに関わるようななにかが・・・?
「ここから、キャラクターを選んでください。」
そう・・・。
えっと。
彼女が差し出す
えっと、ゲームのキャラクターを選ぶみたいに、選ばれ待ちしているような彼らだ。
うん、ざっと見た所、自分たちが触るターゲットのマスコットアバターと、敵側の加点ターゲットの見た目、それから相手の姿もこっちで選べるらしい。
この中から選ぶ・・・。
「早くしないと相手に取られて選べないよー?」
お姉さんはそう、悪戯っぽくプレッシャー(?)をかけてくる。
気に入ったものは早い者勝ちってことか。
えっと。
「・・なんにします?」
ミリアは一応、他の仲間の2人に聞いてみてた。
「ん?なんでもいい。」
「可愛いのがいいんじゃねぇか?お前の好きなのでいい、」
彼らはあんまり興味なさそうで、お姉さんの持つノートを覗いたりしたけれど。
お姉さんに手渡されて、ミリアはノートを受け取って。
なんだか、私が決めても良いみたいなので、指を画面の上にちょっと
「じゃあ・・・」
別に、これがいいってものも無いんだけど。
見た目が怖い小さなゾンビみたいなのとかは除外する、・・適当に目についた
敵のアバターは・・・、なんだか見やすそうなので、全身白タイツを着ているような目の細い怪しい宇宙人みたいな、怖くない敵キャラを選んどいた。
選んで気づいたけど、微発光しているので、とても見つけやすそうだ。
それから、敵側のターゲットは・・、小さいぬいぐるみの様な牛。
目に付いたからなんとなく選んだけれど。
他にも変な不気味な物もあるけど、そういうのは近くで見ると嫌なので、どれも可愛い・・と言えなくもない範囲には収めといた。
そもそも怖いのを選んでビックリするのはデメリットしかないのだが。
特にリアル系宇宙人、ちょっと変な動きでこっちに何かをアピールしてる。
「可愛いな」
「おう、かわいいな」
低い声が聞こえたけど。
彼らもなんか、画面をじっくり見てた。
そんな感想だから、彼らも気に入ったみたいで良かった。
私が選んだターゲットの白毛玉のライオンは、きっと触り心地抜群だろう。
MRだから、さすがにモフ毛の感触は無いかもしれないけど。
「設定しましたね。では、相手が決まってから1分後に開始です。今からブリーフィングタイムに入りま~す。どうぞお話しててください。」
って。
「ブリーフィン・・・」
自分たちの周囲で何かが起動し始めたのかと一瞬思ったが、視界の端から次々と出てくる床や台、仕切りの壁だったり、出来上がって行く足場が盛り上がったりして再変形し始めたりする。
ステージが、新しいアスレチックコースへ変わっていっているのだ。
それは白一色の微妙な影で地形はわかる・・と、ミリアは気が付いて。
自分のこめかみ辺りにあるアイウェアに指で触れた、MRのヴィジョンをONにしたら。
たちまち、色付くMRの彩色豊かな世界が出現する。
マスコットに合わせたような若緑色の草原と森のフィールドがそよ風に揺れ、木陰から見上げれば木々の上から覗く青空と太陽に照らされている。
日の光は眩しすぎる事は無いけれど、向こうには小さな池もあるようで魚が跳ねた。
それに、草原や森の方に見える小動物のリスやウサギ、木々の隙間の陰から鹿が顔を覗かせて、走り回ったり。
森の中で白毛玉の猫、あ、さっき選ばなかったマスコットも動物に紛れて走り回ってる。
どことなくファンシーな、明るい爽やかな光景に真っ白なユニコーンとかお姫様や王子様も出てきそうな景色の中に、私は立っていた。
まあ、遠くの空には大きなドラゴンらしい影が飛んでいるけど。
どっちかと言えば、剣と魔法の世界っぽい。
既にステージは完成してるみたいで。
ちょっと足元の床を、踏み直していろいろ確かめてみる。
程よく弾力も感じる固いマットの様な感触は他のゲームとも同じような水準で、転んだりぶつかっても怪我しないような安全性に、でもちゃんと足裏に力を込められる、ちゃんとした固さのようだ。
プレイする際にアスレチックとなる地形は、ゲームごとに違うコースを作っていて、さっき見ていた他の人のプレイした地形とも、ステージのテーマとも異なっている。
「あ、細かなエフェクトなどはまだ再設定できますよ」
って、スタッフのお姉さんに言われて。
手に持ってたノートの画面の、いじれそうなスイッチとかを指で触ってみて。
そしたら、MRの表現は色づくように彩色されていったポップカラーも混じった森になる、アニメっぽくデフォルメしたような感じの。
「――――おー、すげぇな、」
って、仲間の彼が呟いて、私もちょっと気が付いた。
こういうのを自分で操作するのはあまりない機会だけど。
私はノートを下ろして彼らに声を掛ける。
「ブリーフィング、始めましょうか」
「お、そうだな、」
気が付く2人もこっちを見て、3人で顔を突き合せることができた。
「てことでよろしくな。」
「よろしく。」
仲間の2人は、やっぱり初めて会った人だ。
「よろしくお願いします。」
「お前、初めてだよな?」
って、彼は私に。
「話すのは。なんか暴れたとか、いろいろ噂になってるAのルーキーって聞いたぜ。俺はCなんであまり噂には疎いかもしれんが、ついでに銃の扱いとかにも慣れてない。」
暴れた、っていうのは変な表現だけど。
「向こうも決まったみたいです。あと1分。」
と、スタッフのお姉さんが教えてくれる。
「ああ?時間ねぇか。じゃあ、どうしようか?」
「適当でいいんじゃねぇか?アスレチックゲームみたいなもんだし、走り回るだけだろ?」
――――ふむ。
「それよりまずは自己紹介だろう」
「ああ、そういやぁ、俺の名前・・」
―――――ひどく冗長になりそうだ。
「あの、」
私はそう、彼らに声を掛ければ、彼らはちゃんとこっちを向いた。
さっきから彼らを見てて。
だから、大丈夫そうだ。
「時間が無いので、指揮を執った事がある人は?」
「お、おう。」
「俺は無いぞ」
彼は執った事あると言ったのか・・?
「あ、俺も」
2人ともに無いようだ。
「では私が指揮とる形でいいですか?」
「おう。リーダーやってんのか?」
「はい。では、伝えます。」
私は息を吸い―――――その間にも「すげぇな」と彼が言ったけど―――――考えは纏めた。
「自己紹介したい所ですが、時間が無いので省略します。呼称は私が《リーダー》、あなたは《
「お、おう、」
「それだけでいいのか?」
「充分です。」
「俺らが・・・」
――――10、9,カウントダウンが始まる。
「おっと、」
彼はちょっとびくっとしたみたいだけど。
「質問あります?」
「ちょっと待てよ?俺らは周りを見て触ってりゃいいんだな?」
「口頭報告もです。他には?」
「いや、そうだな・・」
「えーと、リーダー、アルファ・・」
「リーダー、α、β。3M間隔で固まって探し、気づいたことは指差し確認」
指差し確認の指を見せ交えて簡潔に伝え。
「通信は聞こえてるね?」
アイウェアの耳元を指差すと、彼らがぎりぎりで頷くのは見えた。
私は振り返る、目の前に広がるMRで構成された『ファンシーな森』の広いステージを―――――。
―――3、―――――
「大丈夫、サポートする。」
私の声は、彼らに届いている。
――――2、―――――
大丈夫。
――――1、――――
瞬間、フィールドにマスコットキャラが出現していく。
―――――スタート!――――――
――――1歩、力強く踏みしめ前に出る―――――
「3Mっ、そこのあたり、この距離です。進みます。見つけたらすぐ触りに行っていいです、αの270度の方向!」
「あったっ、」
見つける彼らは触りに行く、マスコットキャラクターは白毛玉のライオンにしたけど、明るい緑色が淡く混じって微発光するようなそれらは誰かが置き忘れたランタンのように、高くなった台の上や隅っこにいたり、木のくぼみの中にいたり、まるで本当のランタンか妖精だ。
私の目の前に現れる頻度もちょっと多いけど、他のルールみたいに触られるのを嫌がって逃げないのは救いだ。
私も、その草むらの奥にいたのを掻き分けて手を伸ばして、手の平が触れると、丸っぽいライオンはふぁさぁっと柔らかく大きく毛並みが震えて、薄いオレンジ色、電球色っぽくなって『見つかった済み』の状態になる。
なんか、面白い。
「間隔、忘れないでね、」
私は声を出して、今も動いてるみんなの位置を確かめつつ元のルート、最適なルートへ修正しつつ、周囲を見回しながら前進を続ける。
『リーダー、90度の方向にあるぞ、』
と、気が付いてすぐ見つけられたからその草むらに手を伸ばす。
たまにいるのが、パステルピンク色の丸っぽい小さな牛・・、ライオンと同じ大きさの小さな牛のキャラクターは相手のポイントになるものだ。
ここまで相手の声は遠くになにか聞こえてるが、遠いのか。
戦力がわからない以上、汎用的に対応できる陣形を取った。
相手にガイがいるのはわかってるけど、それ以外の人たちの情報はない。
だから、相手の出方を覗うよりも一番速度が出そうな作戦で行っている。
この作戦では、うちに機動系がいても必要はない
相手に機動系がいたとしても関係はない。
同じエリアで相手チームも入り乱れて、お互いのターゲットを狙う事があるだろう、そのときが重要で―――――と、影が動いた、視界の端から凄い速さで、出てきたのは白い微発光した・・宇宙人エイリアン、白タイツ来てるみたいなヤツ、さっき見たヤツがリアルな動きでぬるぬると、こっち見た。
ちょっとぞくっとしたけども。
目の前で動く『それ』は、なんか動いてると人間っぽくて、気持ち悪いかもしれない。
『彼』もこっちに気が付いたようで、走りながらこっちへ首を向けてた。
わざとぶつかりに来たりはしないみたいだ、ちょっと安心しつつみんなへ声を掛けながらルートを進める。
「周囲に無いっ?返事を!」
『無いな!』
『2つある!』
周りの感覚を確かめつつ、大きな声で自分たちの位置も把握させられる。
相手方の声は聞こえていないのか?前は聞こえていたような、でもシステム設定を変えられるか。
相手の声が聞こえないなら、声で作戦がバレたりはしないが・・・。
『うお、動いてる、リザードマンが!』
驚いた声が聞こえた、相手の声みたいだ、というか彼らには私たちがリザードマンに見えているらしい。
トカゲのファンタジー的な戦士的なアレだ、たぶん。
自分がリザードマンに見られているのも、なんかもやっとしたものを感じたかもだけども。
一瞬で木々の向こうに跳んで消える、速い、身体能力が凄いリザードマンがいるけれど。
「機動系がいる!でも気にしなくていい!ターゲットは何処にあるっ?」
『ちゃんと見つけてるぜ、リーダー、』
『こっちもだ、』
幾分の余裕が出てきたような受け答えだ。
それよりも、相手の声がちゃんと聞こえてるのなら、この会話も聞かれる可能性があるのは注意で。
『なんかぞわぞわするーっ』
相手の誰かが、なんか失礼な感じだ。
あっちが勝手に外見を決めといて気持ち悪がっている、まあ、こっちも微発光エイリアンと目が合った時はぞわっとしたけど。
『おーい、待てってー』
って、聞き覚えのあるガイらしき声がしたけれど。
『リーダーっ、270度の方向だ!』
て思ってる間にも、進む方向からピンクの牛が近づいてくるので、すぐ見つけられたそれを触っといた。
ピンク色が紫色に変わって、相手は10秒間触れないらしい。
『ぬっ・・!』
横の茂みから飛び出てきた白いエイリアンが、ぴたりと止まって。
10秒間、その牛のマスコットの前で微発光の白いエイリアンが、・・蹲って、牛を見下ろして制限解除を待っているのは、かなりシュールっぽい光景だ。
道端に咲く一輪の花を見ているような。
まあ、私がさっき念のため触ったのは、確認も兼ねて正解みたいだ。
そんな光景に目を奪われそうになりつつ、強い意志を以って私は前を向いて。
あ、そうか、『牛』、『キャトルミューティレーション』・・・『UFO』・・って不意に頭の中で結びついたけど、その考えは頭から振り払っておいた。
たぶん、今は仲間に聞かせてはいけないヤツだ。
と、森の中から草原へ抜けそうな道の端に来る前に、鉄の柵が隔てる向こう側へは行けないようだ。
柵の上や隙間を、いちおう手で触ってみたが、視覚とは異なる触感がちゃんとした壁になっている。
実際にも、等間隔に壁はあったはずだ。
「踵を返して!往復する!私をよく見て!」
ミリアは彼らへ声を飛ばすと、来た道より少し斜めにずれて移動を始める。
彼らがこちらを見ているなら、ちゃんと間隔を空けて私の意図通りに動くはずだ。
周囲を見ながら動けば、彼らは等間隔に私の傍、約3M距離を付いて来てくれ、その間も声を掛け合ってターゲットの有無を確認している。
『ちょっとぉー、どこいったんだー』
向こうの木々の奥からたぶん、白エイリアンの泣き言、森で迷子になったのか誰かの文句が聞こえてくるけども。
というか、余計な想像をしてると集中が途切れそうだ。
外見設定したのは自分だけれど。
不意に、森の木々が一瞬暗くなり始めたように、青空が夕方に変わり始めていた。
赤色の夕焼けに照らされた森は、木々から鳥が飛び立ち始める。
『ラストターゲット出現します。』
システムの音声がどこからか流れた。
私は息を吸い込み、・・無線通信に声を出す前に、一端を口を閉じて、鼻から息を通す・・・。
「散開する。α・β。この方向を自由に往復して。」
なるべく静かな声で私は、見えている彼らへ両手でその先を表し示して伝える。
「怪しい場所は進んで調べて。大きな声は絶対に出して報告を。」
見えてる仲間たちはそれを認めたらしい、中心としていた私から離れて散る。
「返事は!?」
『りょうかい!』
2人の大きな声が重なっていた。
私はそのエリアの中心へ、ラストターゲットと同時に出ているはずの銃を取りに行く。
たぶん、そこで不自然に明るくなっている、光が零れている木の向こう側だ。
「道を逸れても良い。妨害も忘れずに。牛を触って。」
『りょぅかい。』
「声を大きくして」
『りょうかい!』
「それでいい、」
―――――お、牛見っけ、」
彼が走る合間に通りかかった牛を見つけて手を伸ばし触れたが、牛の色が変わらないのは少し不思議に思った。
さっき見た妨害用の色はオレンジ色に光ったはずだが、と少し訝しむ気持ちを抱えてそのまま走り抜ける・・・。
『ん-、でも触れるみたいだよ?』
って、ひょい、っと白いエイリアンが横からその手元のターゲットを触ったら、色が黄色に変わって獲得していた。
「あ、あれ?妨害できてないぞ!」
彼は思わず大きな声で報告をしていたが―――――
通信と遠くから聞こえてきた声にミリアも。
「ええっ?」
ミリアもちょっと慌てながら。
走るミリアが見つけるその黄色の光の柱の中心へ、台座に銃が置かれている。
「妨害できないの?」
さっきと見た形状と違うが、話しながら勢いのままにミリアはそれを掴み、標準的なアサルトライフルであること。
『2、3回触ってみたがダメだった!』
さっき射撃シミュレータで調整したデバイスと同じなのを素早く確認しつつ、ベルトを肩に掛けて安全装置を外して待機姿勢に構えて持つ。
と、また誰かターゲットに触ったのか獲得音が鳴り、周囲の色が少し変わった、空が黄色くなった何かの光が渦巻く雲と共に充満し始める様な。
『敵側のラストターゲットが出現しました。』
向こうのも、最終段階に入ったようだ。
『――――あ、ラストが出たチームは相手チームの妨害ができなくなるんだ、』
って、システムのスピーカーからスタッフらしき人が補足してきた。
「そういうことは先に言ってくれませんか!」
思わず大きな声に出てたミリアだったけど。
『ルールが複雑でさぁ、』
って、スタッフの彼の誤魔化し笑いのような答えも聞こえてきた。
なんだか外では周囲の笑い声も聞こえて来たけど。
「先に見つけるよ!」
思わずミリアは彼らへ声を飛ばす。
「α、標的ある!?」
『ない!』
「β、ある!?」
『ベータ、ない!』
仲間の大きな声は聞こえている、聞き洩らしていない。
「声を出してね!見つけてもすぐ声を!」
彼らは今もちゃんと動いている、たまに木の陰から見える姿を見ながら全体の遠くを、ミリアは目を動かし首を動かし見上げ、周囲360度をぐるりと見回していく。
「返事は!?」
『おう!』
『おー!』
声の大きさ、方向、βの方は移動が速いのか、機動系・・いや、常人の範囲内の移動距離か。
そも、そこは重要じゃない。
息を整える――――今は、息を整えながら―――――
周囲を確認しつつ、ちょっと気になったのは、このライフルだけは現代的なオブジェクトだなってことだが、そんなこと今は気にしてる暇はないのだ。
「まだ見つからないね!?」
『ない!』
『ないぞー!』
息を整える――――
分かれて移動してるα、βに無いなら、彼らがいない所にあるのか。
そこまで広いステージじゃないと思ったが、見つからないものなのか?
偵察範囲を広げて見ていない場所を見るべきで、その指示は出してないが彼らがわかっているなら自分たちで移動するはずだ。
でも、私の位置からも見えない、なら私も移動するべきか?
「全体、端っこまで見て!くまなく!」
私が指差す方、βの彼は気が付いたようにもっと端の方へ、私よりも距離を取りランニングをしながら辺りを覗き込んだりしている。
「先に見つけるよ!!」
『おう!』
『らじゃ!』
『はぁ、マジすごいな、』
って、傍に駆けて来て通り過ぎる相手の白エイリアンが、ガイの声みたいだった。
「そっち苦戦してんの?」
通り過ぎる際に目で追わず、その背中に声を。
『内緒だ。』
ガイが私が誰だか分かったようだ、だからミリアは微かに口端が持ち上がる。
背中越しにガイが銃を準備する気配を感じていた――――。
――――こんな木の中とかに・・洞穴とかあったりしないよな・・?・・」
と、呟きかけた彼は視界の端に何かの微かな違和感を感じる・・空は黄色くなっていたのがわかっていたが、その視界の端には高い森の木にぶら下げられた看板『Shoot ME!』が掲げられていて――――――――
『――――リーダー!あった!』――――『げっ』――――「方向は!?」―――――「向こう、なんつったらいいんだ?」―――『俺らも急げ!』『慌てるな、探してくれ』―――――「太陽は西!暗い方が東!」――――『・・北だ!俺から見たら!空に近い!』――――――――――――木々の隙間よりも上に小さく光る菱形の立方体『Shoot Me!』が確かに、ミリアに見えた―――「上か・・・!」―――既に構えたミリアがデバイスの照準器を重ねて標的をねら・・・――――――白いものが射線に横から飛び込んできた―――――『させるかよう!』―――――・・誰かの声が聞こえる前に、トリガーを引いていた。
たぅんっ・・・―――――――そのタイミング、完璧だった・・・――――彼、白エイリアンの横頬を掠るように、その奥へ、黄色いビームボールが真っ直ぐに飛んでいく、重力にやや落ちるその弾――――白エイリアンの彼が目を移して振り向こうと追うのを――――見ていた私はその飛んでいく弾を目で追っていた―――――弾道と立方体『Shoot Me!』への軌跡が――――衝突した――――黄色い発光ボールが衝撃と同時に空気に破裂したように、霧散して、光る粒子が飛び散って煌めいていた。
まるで、大量の色ガラスを投げつけられたように、綺麗な、激しさだった――――――
『――――うぉわぅっ』
観客席の方まで霧散して飛んでいきそうな、それらは、ステージの境界線で消えていった。
ちょっと驚いていた人たちもいるみたいで、ざわめいたようだったけれど。
驚かずに不思議そうな目を向けるのは、アイウェアでMRを見てない人たちだろう。
鎮まる空気に埋まるように彼らは瞬いて。
『やられたぁ!』
『だぁあ!?』
膝から崩れ落ちる彼ら、微発光の白いエイリアンたちは断末魔の声を上げ――――って、ゲームのように姿が光に溶けるように消えて行った。
ちょっとどきっとして眉を上げたミリアだけれど。
――――ティラッタッテ、ティラッタッタ・・♪
って、楽しそうなゲームの音楽のファンファーレっぽい曲が鳴り始めてた。
動物たちが森の木陰から出てきて踊り出しそうな、ポップカラーの明るい森の中の景色にいつの間にか戻っていた中で。
ミリアは向こうの木陰から人が、αとβ、仲間の彼らが歩いて出てきたのを見つけていた。
『勝利しました。ゲーム終了です。』
って、青い空に虹色と金色の光で『VICTORY』の文字が輝いていた。
――――――魔王から、この森が救われたのかな、って私は思った。
『よぅ、やったな、』
『はっは、お前らが最高ってヤツだ、』
仲間の彼らがこっちへ歩いて。
私も一息吐いて。
アサルトライフルを、安全装置のスイッチを指でONにして、胸の前で両手に抱えた。
「――――おおお、やりやがったな、」
「すごいよーっ」
喝采と拍手がステージの周りから大きく送られている。
ひと際大きな称賛に手を叩いて笑顔を向けていた。
外からの声に気が付いたように、彼らは観覧していた人たちを見たようだ。
そんな様子を観覧席で見ていた彼女、その簡易ベンチに座っていたアーチャも立ち上がって。
「わーお、ぶらぼー、」
感嘆の声でアーチャもぺちぺち拍手を送っていて。
「勝っちゃった・・」
って、その傍で声を漏らしたようなミニーもいるし、その隣のクロなんかは無言でじっと見つめていた眼を、・・ちょっと上に向けるように天井を、仰ぎ見ていた。
そう息を吐いたら、ちょっと肩の力を抜いたように、少し頬を膨らませていたように、天井を少し見つめていた。
「勝ったんだ・・」
傍のミニーの声が耳に入って、クロはミニーの横顔を振り返っていた。
「ん?ミニーはあの子が負けると思ってたの?」
アーチャも、そう聞くけど。
「・・わかんない」
ミニーは向こうを見ていて、瞬くような、驚いているような。
「ふぅん?私もよくわからないけど、完璧ぽかったじゃん?機動系の人とか、めっちゃ走り回ってたじゃん?だから負けてんのかと思って。そしたらずっと落ち着いててさ?」
「綺麗に並んで動いてたし、」
「うんうん。しかもあの最後の射撃、一発だよっ?獲物を見つけたハンターみたいなっ?かっこよかったよねっ、」
「うん、かっこよかったね、」
「だねっ、ねぇクロ、」
「・・そうだね、」
2人笑顔を見せるから、クロも笑って。
そんな様子を見ていた隣の隣の、座っているリコも、ちょっと見つめていて瞬く、またちょっと彼女たちの顔を覗き見たりして。
「ねぇ、」
って、声を掛けた後に気が付く、隣のカオは目を煌めかせて拍手をしてるし。
「え?」
ってこっちに遅れてカオが気が付くから、リコは無視して逆隣のマキオを見たら。
「さすがだな。」
って、こっちを見てたマキオがこっちにそう言ってきたから。
目が合ったリコは、そのちょっと紅潮してる顔を、前に戻して。
何も言わなかったけど。
ステージの方の、あの人たちを見てた。
「―――――うぉーーワおー・・・っ!」
高めの観覧席の一角で小さな少女、ロヌマが瞳を煌めかせて歓声を吠えている。
「堅実だけど、面白いゲーム運びだったねえ?」
近くではマージュが腕を組んで眺めていて、唸るようにそう言っていた。
「んーだな。作戦は完璧だった。」
その隣でのんびり足を伸ばして寛いでいた彼、ゴドーもだるそうだけど賛同のようだ。
「完璧でもねぇけどな、」
って、大柄のバークが腕組みをしてふんぞり返っている。
「・・あっちの方は機動系がいなかったみたいだな。」
「機動系なんかいらねぇよ、はっ、甘えてんな、」
って、やっぱり賛同しないバークに、ゴドーは口を閉じてたが。
「ロヌマ、バークがデカい腹掴んでイイってよ」
やっぱりロヌマにゴドーが言っておく。
「ぬぁっ!?」
「いやああぁっふふううぅぅ!!」
「やめ、ロヌ、ぐぅぁあっはっぁあ!?いででででっ・・!」
興奮のままに突っ込むロヌマの両手がバークの
「ヌぁああーっ・・・!」
未だ興奮して遠吠えしているロヌマを横目に見ていた彼女は、そこの物静かな大男にも聞こえるように声を掛ける。
「ロヌマ、はしゃぎ過ぎだよ。落ち着きな。」
「ぬぉおーーっ」
とりあえず、そのやり取りを少し離れていたところで見ていた大男のシンが、マージュのうんざりした視線を受けて、立ち上がるのはその大きな手で、ロヌマの頭をがっちり掴みに行くためだった。
―――――拍手と声援がひと際大きく送られたのを見たラッドとニールは、隣同士のその顔を突き合わせる。
「おおー、勝ったなぁ?」
「おお、勝ったな。」
お互いちょっと驚いた顔だ。
「なんだー、あいつら大したことねぇな、」
「特能力者いないのに勝っちゃったね?」
フィジーも瞬いているような。
「いや、いたかもしれないぞ、そう見えなかっただけで。」
「そうだな。うん。」
「ぇえ?」
「そもそも機動系の奴らが派手過ぎるんだよ、一目で一発でバレるわ、あんなの、」
ってラッドが言うから、フィジーがロアジュの方へ振り返る前にも。
「ははは、確かに派手だな。」
って、ロアジュが珍しく可笑しそうに笑っていた。
そんな笑える話でもないのに。
「能力ってのはもっとうまく使うんだよ、俺たちみたいにな、」
ラッドが、ニヤリと不敵に笑って見せる。
「負けてるだろ。つうか、俺らは特能力使ってねぇし、」
ニールが珍しく冷静だが。
フィジーは、ふと気が付いて、理由が分かった。
まるで、みんながあの子たちのチームが勝ったのが嬉しそうな横顔だった。
だからちょっと、フィジーが頬をちょっとだけぷくっとしたのは、ロアジュも誰も気づかないみたいだった。
「―――――俺、思うんだよなあ。・・最後の、俺たちの真似したんじゃね?つまり、パクリじゃねえ?」
「あんな作戦なら誰だって思いつくだろ。なあ、セイガ、」
「・・・」
「あんなん誰だって思いつくって?」
「まあな。」
「お前らオトナだなー、」
「思いつくのと、やるのは大違いだが、」
「ん、褒められた?」
「前人未到の地雷原を進むバカってことだろ」
「おまえらよくそんなのスラスラ言えるな?・・・あれ?あいつらの事言ったの?俺たちの事を言ったの?」
「どっちでもいいじゃんか、なあ?」
「いや、そういうつもりじゃ・・」
「おいはっきりしろよ、」
「よ。良い刺激もらえてるか?」
と、他の声がして。
「あ、姉御っ」
彼らが振り返れば、にっと屈託ない笑顔を見せる彼女が近寄って来ていた。
傍に立ったその姉御は彼らよりも少し背が高く、スレンダーな印象だが筋肉質な鍛えられた体躯が纏っているトレーニングウェアからもわかる。
姉御、という言葉に周囲からざわっと注目を浴びる彼女は。
「大きい声でそう呼ぶな。」
握り拳を彼の頭の上から軽くゴリ付けといた。
「いでっ、すんません、リヴェルの姉御、」
そのまま彼の肩に手を置いて寄り掛かるような彼女だが、にっと彼らに快活に笑って見せる。
「お前ら頑張ってんな。あたしも嬉しいぞ。もっと調子に乗って良いぞ、ランキング上位に入ってるんだからな。」
「あざーっす」
「見ててくれたんすか?」
「もちろん。私も鍛え甲斐があったってもんだ、ははっ、後で自慢させてもらうぜ、」
「なあ、姉御はあいつらと俺らどっちが上だと思うんすか?」
「ん?ああ、噂のミリア班の奴らだな。どうだろうなー。どっちも勝っただろ?勝ちは勝ちだからなー。」
「さすが姉御、わかりやすい。」
「俺ら勝ったもん同士だもんな、」
「ま、どうせあいつらも出てくるだろうし、そこで決着だな、」
「戦えるか・・」
ほのかに嬉しそうな無表情気味のセイガの呟きも見て、彼らはステージの方を見据える。
「しかし、どうやら、さっきのミリアって子たちのは即席チームだったらしいな。」
って、横から姉御が教えてくれた。
「え、マジっすか、」
「へぇえ・・やだナニ怖い。」
「即席であれか・・・」
「つうかお前たち、構成メンバーも把握してないだろ。はっはっは、」
「へいっ」
「全然手の内を見せてないってことっすね、あいつら」
「そういやそうだな、」
「はっはぁ、ここにいる奴らはみんなそうだろう。」
って、リヴェルの姉御は大きな口で笑う。
「わくわっくするだろう?」
ニヤリとして見せた姉御が、向こうへも笑顔を向けて見せているけど。
「いやぁあ、」
「楽して勝ちたいっす」
「できればでいいや、」
そんな豪快な姉御の笑顔に、聞こえるか聞こえないかの声で苦笑いを見せてるメンバーの彼らだったが―――――
――――――こんな練習なんかに手の内を見せるつもりは全然無いっ、ってことね・・・!」
不敵な笑みを浮かべた少女、チュクリが腕組みをして観客席からそのステージを見下ろしていた。
今しがた終わった彼女の、ミリアのゲームの様子をそう理解したようだ。
「止めないのか?」
「ほっとけ、」
仲間の彼らに言われても、ジェンドは既にめんどくさいようで放っておいている。
「いいじゃない。そっちがその気なら、真剣勝負に引きずり出してでやる・・!」
チュクリが悪い顔をして笑っているが、いかんせん威厳は無いので、きゃんきゃん吠えてる子犬のようだ。
まあ、チュクリはラスボスでは絶対ないが、中ボス感を出そうとする程度には努力をしている、と思うジェンドは眺めていてノータッチだ。
そもそも、当のミリアというあの子に向けている筈のメッセージは、遠すぎて全くもって聞こえてもいない。
それに、あのミリアがこっちの事を知っている筈もないし。
「私たちの世代は特能力見せて目立ってなきゃいけないってのにね!出し惜しみなんかしてたら評価がガクッと下がってお払い箱よ。」
・・ふむ、チュクリが明らかに気に入らなさそうな顔をしているのはわかる。
「それただの噂だからな。」
いちおう修正してやるジェンドだった。
「でもみんな言ってるじゃない?」
チュクリは不可思議そうだ。
「流されんなよ。」
ジェンドがチュクリの頭をグイっと押して、向こうへよろけさせた。
アジェロもそれに関しては口を開いた。
「わざわざ自分の能力を見せびらかすヤツなんてそういないだろうし、そんなのいたら危ないヤツらだから。相手にするなよ?いいな、特にチュクリ、」
「子ども扱いしないでくれる?」
ジェンドに不満そうだったのに、急にこっちへ冷めてくるチュクリだ。
「・・・。悪い悪い。」
一度、きゅっとアジェロが口も目も閉じたのを見ていたので、ジェンドは『あ、我慢したな、』と思ったが口にはしない。
まあ、こんな挑発しまくってても実際にあのミリアってのに聞かれたら、あたふたするんだろうな、とチュクリが張子の虎なのを知っているジェンドは、チュクリが配布されている
「でもさ、機動系なんか飛び跳ねまくってるけどなぁ、」
って、黙ってたベックンが美味しいジュリポンを口に咥えつつ言ってた。
「・・見た目でもわかりやすいだろ?」
横目に意地悪そうな笑みを見せるジェンドだ。
「あいつらはいいんだよ、」
「・・機動系は『危ないヤツ』ってこと?」
チュクリが小首を傾げてた。
「あはっはっは、」
ジェンドが大笑いしてたけど。
「どういうことよ?機動系が『危ないの』ばっかってことでしょっ?」
「声を小さくしよう・・!」
変に慌てて注意してたアジェロが言うのを、チュクリやジェンドも小首を傾げて眉を寄せて、不思議そうにこっちを見ていたが。
たまに妙に息が合うこいつらを目端に、アジェロは周りに聞こえてなかったかを警戒している。
「偏見はヨくない!」
チュクリが堂々と宣言した。
「良い奴だなお前はっ、」
思わずアジェロが大きい声で対抗して。
バックンは我関せずに大好きなジェリポンをちゅうーっと吸っていた。
――――――機動・走査系は近年の戦闘チーム編成において、特殊な存在である。
軍部などではチーム内に1人でもどちらかがいれば、戦闘に臨む際に圧倒的な優位を得られると言われているからだ。
そして、それを逆から言えば、それ以外の特能力者のタイプは、軍部ではあまり価値を見出していない、ということだ。
現に、軍部の特能力部隊『EPF』や公の場に出る特務協戦など、希少な特能部隊には機動系や走査系以外に属する能力者は少ないと言われている。
それだけ、近年の特能力研究が軍事や治安維持行動における作戦・戦術に与えた影響は大きい。
それが、私も当たり前だと思っていたから。
でも、EAUに来た時には私は驚いた。
特能力は多種多様で、いろんな発現があって、いろんな人がいる。
それは機動系や走査系以外にも、あらゆる特能力者がEAUには所属し、日々彼らなりの活動でEAUに貢献している光景が日常だったこと。
EAUには機動・走査系がほぼいない『Class - C』のようなカテゴリまであって。
それが、私の驚きの1つ。
ここにいる彼らは研究をし、修練をし、彼らの特性を伸ばそうとして日々を頑張っている。
EAUの、全ての多様性を信じることを、私はきっと、その光景を見るまで本当の意味を信じらなかったんだと思う―――――――。
――――そして、その光景を見た時にはとても眩しく感じられた。
施設も綺麗でキラキラしてるんだけれど、それ以上に、そんな彼らがいることに。
それを、私は今もよく覚えている。
―――――ふぅ・・・」
頬を膨らませて息を抜くミリアは、銃をスタッフの人に渡して肩の力を抜いていた。
「一発で仕留めてたぞ!」
「まぐれじゃねぇよな?やるね」
「どうも、」
仲間になった2人へ、ミリアは軽く会釈する。
「はは、」
彼らは笑ってステージから歩いて出て行く。
ミリアが振り返ってステージを見渡せば、今しがた戦っていたポップカラーの森と小動物は今もそこにある。
踵を返して歩き出したら、ちょうどステージが駆動して色が白んでいくプレーンのステージに戻って行くようだった。
『良いゲームをありがとうな、』
無線から仲間の声が聞こえた、これはαの声か。
「こちらこそ、」
『面白かったぜ、』
βの声も。
ミリアがステージの外に出る前に、切り替えたアイウェア越しの視界には勝利チームの私たち、『ミリア』などの名前が情報として出ていた。
そういえば彼らの名前を聞いてなかったから、そこに映った名前を初めて知った。
『これで・・―――シャッ・・―――――』
不意に、無線通信のリンクが切断されたようだった。
ゲームが終わったからか。
――――――あれはすごいなあ。機動系のいるチームに勝ったよ?」
観覧席の傍で立って眺めていたヴェルベは、さっきも朗らかに笑いながら拍手をしていた。
「素人目から見てもわかるくらい、彼らとは全然違うアプローチだ、」
それから、傍の小さな少女、切れ長な目が印象的なトリッシュへ声を掛けていた。
目も口もあまり動かさない、一見すると無表情な彼女だが。
「あの子、君と同じくらいの年じゃないかな。あぁ、そういえば、一週間前くらいに噂になった、・・『彼女』か。」
その頬が少しだけ紅潮していて、そして、彼女のいるステージの方をじっと見つめているその瞳が、また1つ瞬いたのを見ていた――――――
ミリアがステージ外に出れば、共に協力した彼らが立ち話をしていたようで、こちらを見つけて手を上げていた。
「よお、良いシュートだったぜ。勝ててスカッとした、」
「お前すげーな、」
「こちらこそ。ライチさん、ホットドッグさん、」
「はは、それはハンドルネームだ。俺はジェロ・ニード。」
「キョー・カエラスだ。」
「ミリアネァ・Cです。」
「ミリアはルールを知ってたのかい?」
「外で見てたので、なんとなくは」
「へぇ、道理でだいぶ落ち着いてるように見えたぜ。」
「1発で当てたのは狙ってたのか?」
「当たれば良いとは思いましたけど、運が良かったです。」
「まあみんなそう言うよな。腕がいい奴らも、」
「じゃ行くわ。それじゃあな。」
彼は、口端を持ち上げて手の平を見せて離れてく。
「楽しかったぜ、」
彼も離れて。
少し見送ってたミリアは、それから、掲示モニタの方へ歩き出してた。
―――――歩く彼は、そこで屯してた仲間たちの所へ足を向けていた。
気が付けば目を合わせて迎える彼らは、いつも顔を合わせている気心の知れた奴らだ。
「よおジェロ、楽しかったか?」
「ああ、面白かったぞ。子供の頃こんなアトラクションで遊んだことあったな、」
「そいつぁ良かったな。」
「勝ったじぇねぇか、見てて面白かったぞ、」
「しっかし、はぁ、大したもんだなありゃ、」
「ん、組んだ『あれ』か、」
「ほう。どんなやつだったんだ?噂通り凄いのか?」
「凄いっつうか。」
彼は、ちょっと一考して。
「・・なんか、根本的に俺らと違う気がしたな」
「なんだそれ?」
「そんなんだったんだよ、正直な話、」
彼は疲れた身体をどっこいしょと座らせて休みに入る。
「自己紹介する時間も無かったからよ、さっき初めて名乗った。」
「つうか、名前も知らないのに普通に呼び合ってたよな」
「はは、それがさ、ミリアが――――――
クロには、ステージの奥、柵の向こうではあの『A』の子が掲示モニタを見ているのが見えていたけれど。
・・手元のPDAに視線を落として、少し指でいじっていても。
あまり頭の中に入ってきていない気がした・・・。
―――――・・動いた気配がしたのに気が付いたカオが振り向いたら、隣のお姉さんのクロが席から立ち上がっていた。
「じゃ、行くよ、」
と言いかけて、クロは1つ気が付いた。
「そういえば、ちゃんと自己紹介してなかったね。」
って。
「私はクロ。また会うかもね。」
「あ、ぼ、僕は、カオです。この子は、リコ。それと、」
「マキオです。」
「私はアーチャ、この子はミニーだよー」
「ど、どうも」
立ち上がってアーチャは、彼らにぱたぱたと手を振りながら。
「またね。ばいばい、」
「は、はい、」
傍で、お姉さん3人組が歩いて離れるのを見送る、他の仲間たちと一緒にClass - Cの子たちなのか、小さい子たちもいるグループは顔を見合わせて、またお喋りしていて。
「やっぱ負けたかー」
―――――って、隣であんまり悔しくはなさそうなガイが頭を掻いてる。
ミリアが掲示モニタを見ていたら、向こうのステージからガイはいつの間にか戻ってきたようで。
「さすがだな?」
ウィンクしてくるガイに。
「何とかうまくいったみたい」
ミリアは軽く肩を竦めて見せる。
「はは。まあ、でも面白かったかな?」
って、ガイはにっと笑って、やっぱり悔しがってはいないみたいだった。
でも確かに、こんなのはなかなか無い機会だ、ガイと違うチームで戦うことになるなんて。
「リザードマンが目の前に来るだけでビビるよな、はは、」
言われて思い出したけど、MRは確かに変な臨場感があったし、面白かったのかもしれない。
ガイなんて、今思い出しても可笑しいみたいだ。
さっきの激しい戦いが行われたフィールドを、白エイリアンを、ミリアも思い出したけど。
「あれはファンシー過ぎる。」
って、やっぱり、きっぱり言ってた。
「だよな。はっはっは、」
ガイが、やっぱり可笑しそうに笑ってた。
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