光魔法の使い手は闇魔法の使い手を何とかしたい

ひよっと丸

第0話


「無駄だ」


 深い闇を纏った魔物は不敵な笑みを浮かべていた。深い洞窟の奥底、闇が集まり混沌が渦巻いていた。それを糧に魔物が潜んでいたのだ。


「光よ、闇を滅ぼし給え」


 光魔法が放たれ、渦巻く闇が消失する。だがしかし、魔物が消えることはなく先程以上に闇の濃さがましたような気がした。


「まだ耐えるのか」


 さらに光の魔法の出力をあげると、洞窟内の壁が漆黒の闇へと染まった。


「っな」


 光魔法を放った魔法使いが驚愕の声を上げる。なぜなら、彼を中心に光が溢れ、その周囲が恐ろしい闇になったからだ。


「クックック……光があれば闇が産まれる。そんなことも知らんのか」


 新たなる闇を纏い、魔物はうっそりと笑う。


「くそ、なんて忌々しい」


 どんなに光魔法を放っても、周囲の闇を打ち消すことができない。次第に魔法使いは焦りの表情をし始めた。


「そろそろ、選手交代だな」


 不意に闇の中から黒いローブの男が現れた。


「なっ、いつの間に」

「光じゃ闇を消すことは出来ねぇんだよ。永遠にな」


 そう言い放つと、黒いローブの男は魔物の前に立った。そうして不敵に微笑む。


「俺に……お前の光魔法を当てろ」

「っ…そんなことをしたら、あなたがっ」

「うるせーな、グダグダ言ってねーで言う通りにしろ」

「……は、い」


 黒いローブの背中を視界にとらえ、光魔法をそこに目掛けて放つ。激しい光を受けてその黒いローブが漆黒の闇へと溶けていくような錯覚を覚えた。


「おら、行くぜ。覚悟しな」


 黒いローブの闇が、周りの闇を飲み込んでいく。


「くそっ、貴様闇魔法の使い手かぁ」


 闇を纏う魔物が忌々しげに叫んだ。魔物が纏う闇が黒いローブの中に飲み込まれてどんどん小さくなっていく。


「させるかぁぁぁぁ」


 魔物が叫びながら黒いローブの闇を喰らい始めた。互いが互いの闇を飲み込もうと咆哮を上げるかのような得体の知れない音が洞窟内に響き渡った。

 互いの闇を喰らい合い、周りの闇が小さくなっていく。光魔法を放つ魔法使いは、目の前で起こることが理解しきれずに呆然と見ていた。


「あ、あ、あああ」


 自分の放つ光魔法によって、闇が濃くなり、集まった闇が互いを喰らい合うその光景は、得体がしれなかった。徐々に小さくなる闇を驚愕の目で見つめていたが、ようやく事態を理解し始め魔法使いは慌てた。


 このままでは闇が完全に消滅する。


 だが、光魔法を止めていいのか自分では判断ができない。今止めてしまって、魔物の闇が勝ってしまったら?


「あ、そん、な」


  自分の目の前で喰らい合う闇が小さくなり、遂に手のひらサイズまでになった時、ようやく気がついた。


 彼が消えてしまう。


 闇が喰らい合い、既に魔物も黒いローブの背中も、その原型を留めていない。小さく蠢き、喰らい合いながら小さくなりそうして魔法使いの放つ光魔法の中心で完全に消滅した。


「あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁ」


 魔法使いはその場で力なく崩れ落ちた。膝が地面に着いた時、なにかかフワリと動いたのが見えた。


「いかせないっ」


 消える闇の残骸に吸い込まれる寸前、細い光を当てて目一杯引き寄せた。フワリとしたものが弾けるように飛んだ。


「あ……終わった?」


 見渡せば、洞窟の中には闇が無くなっていた。魔物の気配も既にない。呆然と見渡せば、ヒカリゴケの淡い光が目に入った。


「い、急がなくては」


 魔法使いは立ち上がり、転移魔法で洞窟を後にした。

 その数刻後、魔法使いは王城のテラスに立ち集まる人々に闇が払われた事を宣言した。人々は歓喜の声を上げ魔法使いを褒め称える。

 だが、


「聞け、アラザムの民よ!渦巻く闇を打ち消したのは闇魔法の使い手。彼は己の身を捧げ蠢く闇を喰らい尽くした。私はそれを見届けた」


 信じられない事を宣言され、人々は静まり返る。


「私は彼の魂を引き止めた。これより闇を纏いし黒髪の赤子が生まれたならば、愛情を持って育てよ。そうして五年の後、私の元へと連れてくるのだ」


 その宣言を聞いて、人々は隣に立つものと顔を見合わせた。偉大なる光魔法の使い手がとんでもないことを言い出した。

 闇を纏うものを育てろ?

 しかも、愛情を持って?

 だが、五年後に偉大なる光魔法の使い手に差し出せと仰せである。

 人々は、浮き足立った。うちはもうすぐ臨月だ。あそこの新婚はどうだった?そんな話があちこちで上がる。


「五年後、彼の人の魂を受け継ぎし闇を纏いし子に会えることを楽しみにしいますよ」


 偉大なる光魔法の使い手は、そう言い残し姿を消した。


 

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