第55話『勇者迷宮2』

 京也は共にこれから歩むなら、知っておいてほしい内容だと考えて公表することにした。

 

「皆少し聞いてくれるか? 今後の課題について意見が欲しいんだ。先ほど施設の製作者である勇者から受け継いだ物がある」


 ルゥナは空に浮いてうつ伏せに寝そびりながら、相変わらず楽しそうに京也を茶化す。


「京也、随分と改まってどうしたの? もしやとうとう魔核喰らうの? イヒヒヒ」


 リムルは椅子に腰掛けて京也の方を膝をそろえて向きながらいう。

 

「もう、ルゥナったら……。キョウは真剣だよ?」


 アリッサは壁を背もたれにしながら、地べたに座り京の方へ顔を向けた。


「京、気にすることないぞ、遠慮なく言ってくれ、力になりたい」


 椅子に腰掛けてくつろいだ様子のかぐやは真剣そのものの表情を京也に向ける。


「わたくしもですわ。京也と共に生きると決めたのですもの」


 かぐやは、先々のことまで考えすぎな発言をしているけど重くないか? それは……。


 皆それぞれの反応をしめしてくれた。

 約一名何か大きな決意を聞いたような気がするのは、気のせいではなさそうだ……。

 

 どこまで話すか悩むところだ。

 先代勇者がどう思っていたのかを知る機会としては、いいかもしれない。


 女神を信仰している者には、不快な思いをさせてしまうかもしれないので言葉は選ばないといけない。


 かつてトレイシーとの件で、言葉選びにはしくじった。


 京也は女神を神として皆に伝えることにした。

 

「まずはかいつまんで話しておきたい。世界には女神以外に神が別にいる。そこで女神はどうしているのかというと、神に仕えている。簡潔にいうと、神がより上位の神に仕えているわけだ」


 勇者の言い回しでは到底納得しない者が出ると考えたからだ。

 アリッサは驚くというよりも、知らない未知の知識を得たように見えた。

 

「女神様より上位の神様がいるのか。それは私も初めて知ったぞ」


 京也は推察し、大雑把にはあっていると思い伝えた。


「探索者の先輩であるアリッサがいうなら、他の人では認知していないことかもしれないな」


 これだけのベテラン探索者でかつ女神に対して信仰心が強い者なら、裏情報として知っていて不思議ではないと考えたからだ。


 それでも知らないなら、よほどの秘密か誰も知らないかどちらかでしかない。

 

 なぜなら、比較的女神との接点が神託で多いアリッサが知らないなら、それ以下の人は知る機会が少ないから知らない可能性の方が高い。

 当然ながらアリッサ以上の人が知っているとなると、情報が今でてこないなら、それは秘密に値する。


 アリッサは謙遜していう。

 

「たまたま私だけが知らないことかもしれないぞ。すべてに詳しいというわけではないからな」


 京也の考えを皆に伝えた。


「それもあり得る可能性の内の一つだとしても、小耳にすら挟まないのは、女神様への信仰心が強い者で、知らないのは不自然だ。だからこそ、一般的には認知されていない話だとみている」


 アリッサは賛同をしてくれたようだ。


「たしかに、京のいう通りだな」


 続けて京也は話を伝えた。

 

「驚くことが、女神は過去勇者が命を救ったという事実がある」


 リムルは何か、おとぎ話の内容を語るようなそぶりでいう。


「あっ! 私、聞いたことがあるよ。妖精の里で、かつて勇者様が女神様をすくったという話は、小耳に挟んだことがあるかな」


 京也はここでも同じく推察を交えて伝えた。

 

「妖精の間では有名な話だったみたいだな。となると、人族のいる世界にまで広まらないのは意図的なのか、それともそうなった場所が人族の知らない場所で起きたのか、どちらかだろうな」


 リムルも同意していた。


「うん。そうね。妖精の里の近くで隣接する特別な場所だったから、人族は知らないかもしれないね」


 こうした話はかならず起源となる場所が存在する。

 その場所にいけば大抵何かしら、見つかる物がある。


 となると妖精の里の近郊だとまず人族は訪れること自体が難しいと聞く。

 ならば、もし人族が知る場合は、その起源で起きた話はなんらかしらの方法で妖精から人に伝わったことを意味する。


「今は女神を中心に世界を見守り、形作っているものの、世界には歪みがあり女神でも防ぐことが困難な事象は起きている。それは、他の世界がいずれ衝突するか、融合してしまう。ルゥナから以前聞いたことと同じ内容だ」


 ルゥナ以外の第三者が語ることで、接点のない二人が共通の話をすることで信憑性は増したことを皆に共有した。


 ルゥナはどちらかというと心配より気軽さが大きい。

 

「あたしとしては、もっと大っぴらにしてもいいんだけどね。今のままじゃ間違いなくエサにしかならないよ? イヒヒヒ」


 京也は本心を吐露していた。


「大襲撃に備えた方がいいというのもあるし、かといって俺の大事な仲間以外には、正直なところ興味もない。もし大事な者がいたらすまない」


 それに一番早く反応したのはかぐやで、京也以外にいらないとまで言い出す。


「問題ないですわ。ワタクシ京也が入れば他には何もいらないですわ」


 続いてリムルも近いとはいえ、他の皆と一緒ならとさらに付加された。


「私もキョウと今いるみんなと一緒なら他に問題ないよ?」


 アリッサもリムルと似た回答だ。


「私も同じような物だ。京と今いる仲間だけいれば問題ない」


 ルゥナはお気軽な感じで変わらずからかってくる。


「京也モテモテだね。あたしも京也がいれば大丈夫かな〜。イヒヒヒ」


 京也は念のため、変わらない事実をあらためて伝えた。

 希望的観測はいらない。

 必要なのは角度の高い事実だけで、あとは対策だけだった。


「そういってもらえると嬉しい。俺は、聖人君子というわけではないからな。それにどちらのケースでもこちらは、世界としては負ける。食われたりした方が圧倒的に劣勢になる」


 ルゥナの呑気な発言に一瞬京也は肝を冷やす。


「あたしと京也は闇の側の人間だから何も問題ないよ?」


 まずい発言かと思うものの、それに対してはとくに不満や不信がでることもなく、皆平然と受け入れられた。


「正確なことはまだわからないものの、世界が喰われても消えることはないんだ。単純に分けると、喰われた側は下位の世界となって力関係で絶対的に不利になる」


 これも大事な点だと京也は補足の説明を付け加えた。


「あたしから追加で説明すると、多分だけど食った側と喰われた側の力の比率は1対10ぐらいなんだよね。闇の世界での1の力がこちらの世界の10に相当する。つまり十倍ね。反対にこちら側が全力で力を使っても闇側の10分の1にしかならないというわけね。どう? 地獄でしょ?」


 ルゥナの説明で皆無言になるも、力が小さくなるだけで効き目がなくなるわけではないから、鍛錬でどうにかしましょうと皆意気込み出した。

 

「勇者は、世界の上位の神から望まれて、世界を維持していた。どうやっていたのかはわかない。ところが勇者が失われ、女神だけとなった以降は混迷を極めている」


 誰一人勇者が失われたことについて触れないのは、不自然な感じがした。

 普通、失われたのは何が起きてなのかを知りたくなるのは、当然だと思う。

 さらに、世界を維持とは具体的に何をして維持をしていたのか知りたいところだろう。

 ただこれについては聞かれても、俺も情報がないため何も答えられないのが現状だ。


 アリッサは他の神託を知っての発言なのだろう。

 

「女神様が非常に大変な状態なのは、神託からにも現れているぞ」


 一旦今は、深くは聞かないでおく。

 

 京也は神託のありがたさは、身にして理解していたつもりでいう。


「そうだよな。俺も神託に多くのことを救われているからな」


 アリッサはまるで自分自身のことのように誇らしげにいう。


「女神様はよほど、京也のことが気になるみたいだな。私も自分のことのように嬉しいし、喜ばしいことだと思うぞ」

 

 そう思ってくれているのは嬉しいことだ。

 

 女神が大変そうなのは、信仰心とは別に事実として多忙を極める状態なのだろう。

 

「その厳しい状態で女神を手助けしてくれている者へは、聖なる使徒の証として、手のこうに女神の象徴となるようなマークがあるらしい。そしてそれを身につけている者は、女神の信徒と言われている」


 アリッサにあるのではないかと思っての発言を京也はしていた。

 ところがどうやら違う様子だ。


 リムルもアリッサならありそうだと思うような発言をした。


「アリッサは関わりが深そうだけど無いの? 妖精だと関わるのは精霊王さまだけなので」


 アリッサの残念そうで元気のない発言から、どうやら少し予想が少し外れていたようだ。


「そうだな、残念なことに私の甲には何も現れていないんだ」


 アリッサあたりは、個人的に神託を受けるならば、手の甲に現れていても不思議ではないと考えていた。


 俺はまだ話を続けた。

 

「女神が管理できないダンジョンは、入場制限があるかもしれない。まだこのことは未知数で、入ってからでないと判明できないんだ」


 今後、管理していないダンジョンへ入ることを伝えた。


 かぐや姫がいの一番で声を上げた。

 

「ワタクシの力で京也を導いてあげますわ」


 京也はかぐやの言葉に感謝すれど否定はしない。

 

「かぐや、ありがとう」


 残りの大事なことを皆に告げ共有はこれで完了だ。


「今言えるのはこんな所だ。そこでこの国での目標は、いくつかある女神が関与できないダンジョンの制覇をしたい。ついでに勇者の竜禅にもあって召喚について話を聞きたい。目先としてはそんな所だ」


 ルゥナは何を知っているのか、お任せコースのように発言する。


「京也の好きな方向でいいよ。その方が強くなるし、イヒヒヒ」


 リムルは積極的な賛成でありがたい。


「私もキョウといる場所が私の居場所とはいえ、やはり強くなった方が手助けできるので未知なダンジョンは賛成!」


 アリッサも成長意欲は高い様子だ。


「そうだな。ここには魔族もいないし、黒目の天使たちもいない。ならば力試しと成長を兼ねていくのはいいと思うぞ」


 かぐやも意気込んでいる。


「ワタクシ、京也にとって役立つ力がありますのよ? ぜひご一緒したいですわ」

 

 思った以上に、女神のことでリスクがない者ばかりで少し安心した。

 皆、ダンジョンには前向きだし、やる気満々といった所だろう。


 であるならば、連携も意識しながらの戦闘訓練にすればいいとも考えていた。


 実際の所、勇者から話を聞いた時に悩んだ。

 女神の立ち位置がこの世界では比較的大きいと感じていたからだ。

 しかもその女神をけなすことしか言わない勇者の話を聞く限り、一時的には、碌な人物としては映らない。


 反面、俺は女神から何度も救われているし、恩義も感じている。

 さらにいうなら、女神の困ったことがあれば手助けをしたいとすら思っていたのを、根本的に覆す内容だからまだ悩む所もある。


 だからといって女神のことを悪くいうだけで、どうしろこうしろと言ってはこなかったところを見ると、実は仲がよかったのかもしれないとも思えた。


 本当に憎かったりした場合、トレシーの事例でいうなら憎いや殺すなど怨嗟に近いことも言ってのける。

 そのことが今回一切でないこともあり、言葉額面どおりのクソ女=女神でもなさそうだとみている。


 実際に世界を歪めたのが女神なのかは、誰も知らないし知る由もない。本当に女神が歪めたとしても自分が歪めましたとも言わないだろうし、立場上も言えないのだろう。

 

 どうしてここまで悩んだのに結果として、勇者の示す道標を選んだのか。


 実際として先代勇者の言った通りでもあるし、ルゥナが言ったことと一致していることが大きい。

 だからこそ近くの他人(仲間)より、遠い親戚(先代勇者)の言葉を選んだことになる。


 今はそれでいいと思う。


 不確かなら裏どりをしていけばいいだけで、時間ならいくらでもある。

 世界が衝突するのか融合してしまうのかは、数千年前から言われていてまだ起きないなら、今日明日に起きることでもないだろう。


 いや……。ないよな?


 唯一検知できるのは、ルゥナの感覚からしてもまだ先だろうと思っているなら、まだ大丈夫だろうと思うからだ。


 ならば今は少しでも力をつけて、情報も得て強固にしていけばいいと思っている。


 それにまだこの町の名物である、日本食を満喫していないから、可能な限り滞在は長くしたいとも思っていた。


 あとは、そろそろリムルやアリッサの髪が傷んでいるため、綺麗にしてあげたいのもある。


 昔、少しばかりかじった程度の技量しかないけど、この世界の技術よりは上だろうと、ハサミとクシを探しに町へ繰り出したかった。


「リムルとアリッサ、髪を少し綺麗にしてあげたいんだけど、少しばかり切ったりしてもいいか? 損はさせないつもりなんだけどな」


 京也は唐突にリムルとアリッサへ髪のカットについて誘ってみた。


 リムルはとびっきりの笑顔で答えてくれた。


「え! キョウは髪結いができるの? ぜひお願い!」


 アリッサも勢いよく待っていましたと言わんばかりの勢いだ。


「京はなんでもできるんだな。願ってもない申し出だ。ぜひ頼みたい」


 二人とも、そのような目を輝かせて言われるほど期待されても困ると思う反面、何がなんでも成功させなければと意気込んでしまう俺がいた。


 さて明日は、ハサミとクシを用意してさっそく試してみるかと俺もどこか楽しみでならなかった。


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