第54話『勇者迷宮』
それにしても託されまくったな。
俺じゃない俺に……。
一体伝えられた内容はどこまで事実なのか、今の俺にはわからない。
ただ言えるのは、武器防具は見繕ってもらえるし、勇者がすでに調べてくれたことが書物になっているのでその分調べる手間が減りありがたい。
生体兵器ラキアの存在を、なんでルゥナが知るのかも謎だけど、勇者の闇レベルが尋常でないことから、呼び出したとでもいうのかもしれない。
そうなると経緯はともかくとして、闇レベルも信憑性があるのかもしれない。
後は受け継いだ言葉とやらが、かぐやが聞いたらどのような顔をするのか……。
今度、落ち着いたときに聞いて見るとしよう。
先代勇者から詳細まで話を聞いてしまうと、竜禅が知る召喚の話は、少し規模が小さくなるかもしれない。
とはいえ話としては外せない内容なので、竜禅のことも同時に進行しておきたい。
何だか一気に検討すべきことが多すぎてしまい、まずは目先の装備から取り掛かるとしよう……。
京也は一度消えてしまったホーリーを呼び出すべく、なんとなくタッチパネルに向かって声をかけた。
「ホーリーいるか?」
瞬時にホーリーは口を開いた。
「はい。何なりとお申し付けください」
「施設にある装備は、俺以外にも扱えるのか?」
「申し訳ございません。あなた様だけの専用装備でございます」
「わかった。ちょっと待っていてな」
「承知しました」
京也はまだ怪物の前で立ち尽くすルゥナに声をかけると、ルゥナは涙目で振り向く。
「ルゥナ?」
ルゥナはよほど思い入れのある仲間だったのか、泣いたまま京也の名と怪物の名前をいう。
「京也……。ラキアが……」
京也は先の話をルゥナに伝える。
「何がいいたいかはわかる、なんとかしたいんだろ? さっき、元の持ち主が言っていた。闇レベルがいくつか知らないけど呼び寄せて使ったと。だから闇レベルがそこまで至れば稼働できると言ってたぞ?」
ルゥナはまるで180度方向転換したかのように、打って変わって元気になりだした。
「そうだったのか! どうりであのとき、急に消えたわけだな……」
何か一人で納得した様子を見せているし、期待に満ち溢れた顔つきだ。
続けて俺は伝える。
「今の俺では、まだ闇レベルが低くて今すぐではどうにもならないけど、いつかはな……」
よほど心配だったんだろう。ルゥナは眉毛の両端を下げて、目を細めていう。
「京也ありがとう。こいつはさ、あたしが闇世界にいたときに、よく連んでいた奴でさ、突然消えたからどうしたのかと思っていたんだ。まさか、このような形で遭遇するとはさ……」
京也はルゥナの気持ちを汲み取り、言葉をかけた。
「見つかって、よかったな」
居場所がわかり、解決方法もなんとなくわかった所で落ち着きを取り戻したのか、ルゥナは穏やかにいう。
「ほんとだよ、京也のおかげ。ヘンテコな扉が開かなかったら、永遠に会えないところだったよ。闇レベルか……。京也頑張ってよね?」
たまたま運がよかったのと、闇レベルはもちろん上げていくことだけを京也はルゥナ伝えた。
ルゥナと話をしているとちょうど皆がこの怪物のラキアの前に集まっていたので、京也は武具のことについて話た。
「施設を作った勇者から聞いた話だ。施設にある武具は俺専用らしく、皆に分けられない。すまない」
リムルは問題ないよという気持ちを全面に出してくれた。
「キョウ心配しないで、私は氷結魔法があるし」
アリッサも自分の鎧があるからと誇らしく、鎧の胸部を軽く叩くようにしていう。
「問題ないぞ、私も自前の愛用たる鎧があるからな」
かぐやは、豪奢な十二単と羽衣に自信があるようで問題ないというのと同時に、京也のことが心配でならないという。
「ワタクシも問題ないと思いますわ。十二単と天の羽衣に勝るものはないですし。それより、薄手の京也が充実してくれないとワタクシ心配で、心配で……」
京也は皆に軽く礼を伝えた。
「ありがとな。今回を機会にいいものを手に入れておくよ」
一旦落ち着いたところでアリッサは、本が読めないと京也に伝えた。
「京、並んでいる本は、見たこともない文字で私は読めないぞ?」
リムルも同様にいってきた。
「キョウ私もです」
ただ、本が読めたら逆にすごいとしか言いようがない。
京也は申し訳なさそうにいう。
「そっか、すまない。翻訳ができなければムリだよな。俺の故郷の言葉だから、わかったら逆に驚くよ」
アリッサはそれなら仕方ないという感じだ。
「分かった。私はもう少し何かヒントがあるかも知れないから挿絵だけでも眺めておくよ」
リムルも同じくいう。
「うん。私も何か役に立つ絵があるかも知れないから見てみるね」
かぐやは少し疲労があるのか少ししんどそうにしている。
「ワタクシは少し休ませてもらいますわ。あまり調子がよくなくて……」
京也は心情を気づかうように皆へ伝えた。
「あまりムリしなくていいからな。今回は付き合わせてしまっているから、適当に休んでいてくれて構わない。俺は少し武具を揃えてくる」
京也は新たな装備調達のため、展示してある防具の前にきた。
赤い騎士が今の所すこぶる相性はいいものの、ルゥナ頼みの力であることには変わりない。
基本的に京也の場合、武装などで強化していく以外は、とくに手段はなさそうだ。
その代わり、大抵のことは耐久してしまうのでデメリットのある防具の方が能力を活かせる期待値が高い。
今回もそうした物があればと京也は考えていた。
京也はさっそくデメリット満載の分、強い物を要求してみた。
「ホーリー、俺の能力は魔力もレベルも共にゼロで、代わりに耐久能力をもっているんだ。装着することでのデバフは大抵問題ないから、そうした制限や一般的には不利になるものがある武具で強力な物ってないか?」
「承知しました。それでしたら、かつての勇者様ですら困難な物がございます」
ホーリーから案内された物は、先ほど少し気になったウェットスーツ型のものだ。
展示した状態だと全身フルで防御しており、頭は顔にフィットしているものの顔は、フルフェイスヘルメットのシールドのような物で覆われている感じだ。
体は、時折赤黒くうっすら光る線が入る。位置は、腕と足、他には大胸筋の位置と肩甲骨あたりだ。
京也は興味津々でホーリーに聞く。
「どのような能力があるんだ?」
「はい。かなり特異なデバフでございます。肉体限界を超えて破損するまで際限なく力が上昇します。基準値としては無制限です。京也様の耐久能力があれば、着用時間が長くなるほど、驚異的な力を発揮するかと存じます」
まさに京也の耐久能力にピッタリの物だ。
「すごいな……。ただ毎回きたり脱いだりは時間がかかるな」
京也の心配をよそに、解決方法をホーリーはすぐに提示してくる。
「脱着の心配についてはご無用です。一度着用すれば、解除の一言で特別な空間に収納され修復されます。また着装の一言で瞬時に装備されます。言葉に出さなくても念じるだけでもよい品です」
かなり便利で緊急時にも役立つし、何より京也の能力とすこぶる相性がいい。
まさに京也のために作られた物のようだ。
「ただ、着装したばかりだとまだ弱い状態だな」
ホーリーも弱点を把握しており同意していた。
「ええ、唯一の弱点でございます」
「日常的に着込んで、顔だけ解除も可能か? そうすれば常に上昇した状態で即時動けるな」
「はい、耐久能力があれば仰る方法も可能です。寒暖差は、体温に合わせて調整されますので問題ないかと存じます。他の注意点としては、この装備をつけているときは、別の装備は装着できなくなりますのでご留意ください」
再びホーリーが回答してくれた内容なら、日常的に着装していれば際限なく、上昇していくのはいい。
それにどうせ、防具はこれだけであとは大剣だけだろう。
「わかった。防具はいいとして、武器はどうするか……」
「どのような物をお望みですか?」
ホーリーの質問に京也の期待が躍る。
京也は自身の技術を心配していた。
「まだ数か月程度の経験しかないから、今は力任せで叩き潰す感覚で大剣を使うことが多い。後短剣は、毒蛇を使うばかりからな……」
「承知しました。でしたら闇そのものでもある『闇をもたらす者』と呼ばれる大剣はいかがでしょうか?」
ホーリーから勧められた大剣は、艶消しの黒色をしておりわずかに何かを纏っているのか、闇が漏れ出しているような気さえする。
展示してある大剣の柄を握り掲げると、あまりの軽さで力加減を間違えてしまう。まあすぐになれるだろう。
厚みと幅がある両刃の大剣だ。見た目もさることながら、軽さによってより取り回しやすい。
「見た目と違いほとんど重さを感じないな」
「はい。持ち主には重量の負荷はほぼゼロです。ただし他の者は本来の重さ以上になります。重さの例として、エンシェントドラゴン一体分の重量を持っています」
なんともデタラメな仕様だ。
「となると、俺は重量を感じなくとも相手に当たるインパクトの瞬間、相手にはエンシェントドラゴンの重さがのしかかると考えればいいのか?」
ホーリーはなんでも知っている感じで使い方の提案までしてくれる。
「仰る通りでございます。他には特徴として、羽ほどの重さに加えて、帰属性があり離れていても本人の手へ瞬時に戻ります。京也様の保管箱に収めて、呼び出し使うのも方法としては、よいかもしれません」
防具とこの大剣を組み合わせれば、赤い騎士並みの力が京也の任意のタイミングで発揮できる。
常にルゥナがそばにいるとは限らないし、合意がなければ京也の意志では、赤い騎士は呼び出せない物なので、その弱点を今回の武器と防具で補えるのはかなり助かる品だ。
京也は、気になっていた本のことを訊ねてみた。
「たしかに! 保管箱の利用方法はいいな。武器はそれぐらにしておいて、本は持ち出せるのか?」
これだけの数の書物が持ち出せたらよいけど、後輩のためにというぐらいならムリかもな……。
「申し訳ございません。書物は持ち出しができません。代わり希望するページのコピーをお渡しできます。すべてのページのコピーはできませんのでご容赦願います」
ホーリーからは残念なお知らせではあるものの、コピーができるなら問題ない。
「だよな。先人が後輩のために残したものを俺が独占してしまっては、貴重な知識が失われるもんな。ごめん俺のわがままだった。後で気になるページのコピーを頼みたい」
「承知しました。聡明な方がお越しくださって、先人も喜んでいるかと存じます」
ホーリーは知的で口がうまい。
京也にとって本の話は、ダメ元で聞いたからとくに思うところはない。
「防具は一度装着が必要か?」
「はい。着装時に、持ち主として登録されます。今のお召し物の上からで問題ございません。鏡がございますので、どうぞご覧ください」
ホーリーからは、さっそく試着を勧めらる。
書物はダメでも武器や防具なら、貰い受けるのは問題ない。
だとしたら、各施設にいくらかストックがあるのかもしれない。
俺は、さっそくウェットスーツもどきを着てみた。
グローブとブーツも一体型で、頭部は密着タイプのフルフェイスのヘルメットに近い。
フルフェイスヘルメットのシールドは、顎まであり近未来的な感じがかっこい。
ただこの世界でかぶり、着ると相当浮くのは間違いない……。
難なく着ると、全身が蠢くように細かな動きを見せると、何か合点行ったかのようで急に体に吸着するかのようにフィットし出した。
装着感については、違和感なくスムーズに動ける。暑くもないし、寒さは当然感じない。常にちょうどいい感じがする。
ヘルメットは、SF風な感じがしてシャープな感じがする。目の位置が赤く光る状態になっているところは、正直かっこいいと思う。
「解除」
京也は口にすると途端に、すべてが一瞬にして消えた。今の状態で武器の取り回しを試してみると、なんら問題ない。
「着装」
これもまた、京也が口にすると一瞬にして装着する。
武器を振り回しても違和感はなかった。
「解除」
今度は口に出さず、念じてみるとすべてを収め通常の姿に戻る。
問題ないな。後は得た情報をどうするかだな……。
ただ一方的な見解を勇者から聞いたに過ぎない。裏付けもなければ、検証もできない。だからこそ、慎重さが必要だ。
情報の中から何を選択するかを考えなくてはならないのかも知れないけど、勇者が女神に対しての懸念が本当は何なのか知りたい。
残念ながら答え合わせは難しい……。
言われたことを真に受けることはないし、かといって無かったことにも出来ない。
世界が衝突するといっても、言い始めて数千年経っているなら、実際いつになるかなんてわからないだろう。
唯一、ルゥナが体感的にわかるだけであとは手がかりがない。
女神のことについては、あえて話す必要はないと思っていた。
なぜなら、ある日信じていた物が違うと言われてはいそうですかとは普通はならない。そこは信じていた人への配慮が必要だ。
知らなくていいことも、世の中にはよくあることだ。
手の甲にでる印のことは、 タイミングを見て必要なら伝えよう。
女神については恐らく双方で方向性と認識の相違があってうまくいかなかったんではないかと思っている。
目を付けられているのか、目を掛けてもらっているのかは、当人の取り方次第にも思える。果たして……。
最も気になるのは、ダンジョンだ。
女神の関与はできない意味の方が、恐らくは近い表現のような気がする。そのダンジョンで得られる物が多いのならぜひ行きたい。
場所は書物で調べるか、ホーリーに聞くのが早そうだ。
あとは、月の民か……。
受け継いだ言葉をかぐやに伝えてみて、どのような反応を示すかだな……。
『汝光と共に生き、高みへはまた光と共にあらんことを』
高みといってもな……。イマイチわからんし、言葉の価値もわからない。
施設はすべてまわれるだけ回った方がいいな。
もちろん勇者のこともあるので、施設とダンジョンがメインで勇者がついでになってしまう。
なんだか大げさにいうなら、当初の予定と異なって、得体のしれない運命の歯車が、大きく動き始めたような気がしてならない。
もしくは、大きく巻き込まれたかだな。
とは言えルゥナとの約束もあるし、闇世界とは融合かもしくは行き来でもして、肉体を取り戻すことは手伝いたい。
今回の件を整理すると以下だ。
1 女神が管理できないダンジョン探索。
2 他の勇者の施設探索。
3 施設内書庫の調査とコピー。
4 闇レベル上げ。
5 月の民の言葉。
6 ルゥナの肉体奪還。
それと忘れちゃいけない勇者殲滅だ。
やることがかなり盛りだくさんだ……。
ルゥナの肉体奪還以外は、道中平行に進められる物ばかりだ。
肉体については、世界が繋がらないとどうにもならないとみている。
難題が山積みだ。
さて、これらをどうするか……。
俺は皆と相談することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます