第44話『勇者』
――合同魔法。
教会騎士たちが得意とする10人一組で行われる中規模魔法だ。
光の槍や光の剣と異なり、特定の空間を爆破してくる。しかも1回だけでなく、何度も瞬時に繰り返され事実上足止めの状態だ。
近づけば爆破され吹き飛ぶ。
体制を立て直して攻めにいくも、同様に爆破が起き再び吹き飛ばされる。
まるで壁に球を打ち付けて、跳ね返るタイミングをみて再度打ち返す。
それを繰り返すかのように、何度も空間爆破は繰り返された。
耐久するとはいえ、体力の損耗が激しい。
損傷はせずとも、これだけ体力を奪われてくると、体の動きにキレがなく動きも緩慢になってくる。
あとどれぐらい撃てるのか……。
感覚的には、無理矢理俺は力を使った。
「黒の閃光!」
胸部中心へ一瞬にして集約し凝縮する黒い光の塊は、教会騎士の集団へ撃つ。
何の断末魔を上げることもなく、瞬時に蒸発し消えてしまう。
俺は目につくまま、四方八方にいる教会騎士団へ向けて撃ちまくり、誰も残さず余さずに、完全に殲滅をした。
魔人以外に残るのは、天使と熾天使たちだ。
感覚的に撃ちまくったせいか、次に撃つまで多少時間は必要なことが、体感として理解ができた。
俺は天使たちに向けて跳躍して、上段から一気に大剣を振り下ろす。
とくに技などなく、純粋な力任せによる一太刀だ。
天使はいとも簡単に切り伏せ、両断する。あとは魔獣の時と同じく蹂躙を開始した。
どのぐらい時間が経過しただろうか。
足元には天使の遺体が転がり、踏み場のないほどにまで至る。
横一文字に切り伏せたのは、目先にいた最後の天使に対してだ。
ようやく熾天使とアリアナを追い詰められたと思った時、突然アリアナは叫び出した。
「京也ァァアア! これで勇者をやめるぞォォォオオオ!」
なんだ? 何を言い出すんだ。
アリアナは小瓶の栓を口にくわて外し、中の液体流し込むようにして、喉を鳴らしながら一気に飲み干す。
一体何をしようとしているのか、その隙に攻めようとしてもどこから湧いて出てきたのか、わずかな人数の教会騎士たちが俺の進行を阻む。
もう何度も食らっている爆破に再び巻き込まれて、吹き飛ぶ。
地面を転がり続け、衝撃を逃している内に、アリアナには変化が訪れた。
「おいおい。――変身か?」
背丈は1.5倍ぐらいまで伸びたかと思うと肌は青黒くなり、筋骨隆々な姿に生まれ変わっていた。
顔つきは魔人の特徴あるイカツイ顔つきとなり、犬歯が大人の親指ぐらいありそうに見えるほど大きくなり、口から飛び出す。
以前の姿の面影すら存在せず、まるで別の何かに完全に作り変わってしまったかのような様相だ。
これがやつの望んでいたことなのか?
あまりにも粗暴で、かつ品がない。しかも見た目は不細工だ。
見た目以上の変化として、魔力が俺ですらわかるぐらいに、肌が痺れるような波動として伝わるほど強い。かつ肉体的にも分厚く見える筋肉から、強固になったとも言える。
異常な感じがする魔力は、すでに無数の弾丸のごとく無差別に放ち殺戮を始めた。
甲冑で弾くものの数が膨大なので、身動きが取れず一方的に攻撃を喰らうばかりになってしまう。
騎士団や残りの熾天使も含めて被弾し、アリアナが魔人になった最初の無差別攻撃で半数近くは壊滅したように見えた。
俺の方は、何度も被弾している内に、ようやく撃てるような感覚に戻ってきた。
「黒の閃光!」
胸部で黒い光が一瞬弾けたような様子を見せると、一瞬の内に黒い閃光が真っすぐ町を貫く。
もう一度間髪入れずに放ち合計3回放つと、あたりにいた教会騎士団や天使たちは1体も残らず、すべて消滅してしまう。
熾天使の方が頭は回るのか、まだわずか数体の残存熾天使が空中を舞う。
方や魔人と化したアリアナは何か、雄叫びをあげて叫んでいる。
異様に興奮した状態で、自分自身をうまく制御できていないようにも見えた。
状況が目まぐるしく変化していく中、今度は熾天使の猛攻が続く。
――逃がすかっ!
熾天使も同じく黒い目をしていて、感情が掴みづらい。
とはいえ、どの者も顔がある以上基本は人と同じなんだろう。
魔人は味方だと考えたものの背後を狙われ、やけに人らしい怯えた表情をする。
熾天使は口を一文字に開き、表情筋が上がっているにもかかわらず、眉と目尻が下がり目の奥は光る。まるでそこにあるのは、狂気だと俺は感じた。
目線があったと同時に、袈裟斬りにして体を両断する。
変わらず黒い血が噴き出し、さながら墨汁を撒きちらかしたかのような惨劇だ。
俺はふくらはぎに伝わる異常なほどの力みを感じたのは、すでにかかとを挙げて上空にいる熾天使たちへ向けて、跳躍しようとした時だった。
どこか肉を手で無理矢理ちぎるような変な感覚を覚えつつも、一瞬にして五メートルはくだらないと言える高さを跳躍し、そのまま勢いをつけて上段から大剣を振り下ろす。
分厚いゴム板の上でナイフを叩きつけたような先とは違う感覚を覚えた。
ところが、感覚とは異なり目の前の熾天使も黒い血飛沫を挙げて頭から落下していく。
完全に切り裂けず、中途半端な状態であったため、まだ胴体に体がついたままだった。
俺も着地と同時に駆け寄り、瀕死で息も絶え絶えのところを真上から垂直に大剣の切っ先を首の真上に落として切断した。
――まただ。
俺の意識に関係なく、甲冑が強引に動き出す感覚がある。
意志があるというより、本能に近い物だろう。とはいえ誰が敵かの認識は俺の見立て基準でいてくれているので助かる。
いよいよ舞台は整った。あとは、アリアナへ挑むのみだ。
リムルとアリッサのため、死んでもらおう!
俺は、アリアナへ向けて駆け出した。
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