第33話『探索』
アリアナを保護するどこかの裏組織を探す日々が続く。
俺たちはまだ陽の高いうちに、宿の中で情報を整理していた。
おそらくまだ昼ごろだろう。
アルベベ王都でも朝6時と昼の12時、夕方の18時とそれぞれの時間で3回ずつ鐘がなる。
ちょうど2回目の鐘が3回鳴り終えたところだ。
整理をすると、情報屋に調べさせたところ当人の居場所はわからない代わりに、当人を保護している組織が存在するところまでを突き止めた。
組織が絡むとなると、裏で糸をひいいているやつがいる。
アリアナは、俺の知る限り目立って能力が高いわけでもないし、ある意味”ただの勇者”に何の価値があるのだろうと思ってしまう。
勇者は複数人存在しており、比較的替えが効く存在でもある。
中でも凡庸なのがアリアナだった。
保護の理由など当然、知る由もない。
人探しなどしたこともないし、する必要も今までなかったから、雲隠れした者を探すのは至難の業のはずだった。
ところがそのようなことは百も承知と言わんばかりに、意外にも闇精霊が他人に感知されないことを活かして動き周り、さらなる情報を見つけてくる。
探し方は独特なようで、彼女には一定以上の魔核の気配を追えるらしい。
意外な場所に潜り込んでいて、見つけるのに時間がかかったのは、教会だったからだ。
しかも教会には他の精霊がおり、さらに黒目の天使までもいる様子だ。
ますますよくわからない組み合わせの組織に、囲われていると思う。
「教会にいる精霊は、あたしの邪魔ばかりするのよね。消そうかしら?」
闇精霊は、ややご立腹の様子だ。精霊同士は仲が良くないのだろうか……。
「精霊同士って争いをするのか?」
「時と場合によるかな?」
なんともあっさりとした答えでそこら辺へ遊びに行く感覚のように感じた。
空中でうつ伏せに寝そべりながら、顔を左に向けて話ている。
「精霊に聞けば、アリアナの居場所がわかりそうか?」
「ん? 言っていなかったっけ?」
「何がだ?」
こいつはいつも言わないことの方が多い……。やれやれ……。
「アリアナは精霊が保護しているから、すぐに手を出すと戦場になるよ?」
「精霊が? 教会ではないのか?」
「ほら勇者の魔核がうまいと前から言ったでしょ? イヒヒヒ」
「まさか……。勇者の魔核を食うのか?」
「ん? 当然でしょ? 保護する意味は喰らう以外にある?」
さも当然のようにいってきたので、俺は肩をすぼめた。
精霊の食い意地で戦場になるなら、早々に王都も消えてしまう危機が訪れているかもしれない。
「まるで家畜だな……」
「そそ。人の魔核は体内に1個だけだから、貴重な勇者というより餌が奪われるとなれば、戦いが起きるよ?」
妙に今回は楽しそうにしているのは、自ら出張る気でいるんだろう。
「なんだか楽しそうで何よりだよ。お前なら余裕で勝てそうだな」
非常に楽しそうな感じで話をするあたり、本当にこいつらは魔核が好きなのかもしれない。
少しばかり勇者でなくてよかったとも思っていた。
「よくわかっているじゃない。もちろんよ。ただね……」
「どうした?」
「何か変なのよね。うまくいきすぎている」
突然、深刻な表情をしだす。
笑ったり真剣になったりと、表情がよく変わる闇精霊だ。
「何がだ?」
「精霊にとって、自らの存在を簡単に公にすることはないんだよね。あたしのように」
闇精霊はハッキリいうと、力を授けるだけあって強いのだろう。
ただし力をひけらかすこともせず、ひたすら他人からは徹底して見えないようにしていた。
リムル相手にですら最近になってようやく、見えるようにしてくれたぐらいだ。
「たしかにな、それで?」
「居場所を示しているだけじゃなくて、さらに勇者がいることまですんなり暴露するのって罠? と思うわけ」
「考えすぎじゃないか? うまく行く分には問題ないんじゃ?」
「何かわざと精霊であるあたしに、見つかりやすくしている感じもするんだよね。あたしらを使って何かするつもりなのかしら? それとも……何かの誘導? まさか黒目の天使が?」
独り言のようにいうと闇精霊は顎に手を当て、珍しく考え込んでしまう。
うまくいかない時は、とことん行かない時がある。
だからうまく行く時があっても不思議じゃないし、むしろ運が向いてきたとすら思うのは楽観的だろうか。
リムルは不思議そうに俺を見つめる。
「リムルはどう考える? 闇精霊が言うには、教会というより精霊がアリアナを保護していると。何か見つかりやすくして誘導しているんじゃないかと疑っているんだよな」
水を向けられたら、リムルも眉をハの字に折り曲げ口を開けた。
「そうね……。目的がわからないわね。保護していることと私たちをぶつけた時に何をさせたいのかしらね」
「そうした観点だと、アリアナはとくに能力が秀でているわけでもなく、レベルが異常に高いわけでもないからな……。単に守りが緩いだけという、可能性はどうだ?」
「だといいんだけど……」
二人の話を聞いていると、たしかに緩すぎると思っても仕方ないのかもしれない。
とはいえ、もう目と鼻の先にいて明確に居場所がわかるなら、さっさと行ってしまった方が早く片付くような気もしていた。
今更悩んでも始まらないけど、最善のタイミングを探すのもたしかに大事だ。
俺は目の前に獲物がいるなら、さっさと捕まえてしまおうと考えているぐらいだ。
なぜなら、俺たちが探していることは既知のとおりだし、向こう側も待ち構えている。
相手は魔族でないことからも十分に勝機は掴めると、町中で起きた戦いを思い起こしていた。
あの四騎士の内の一人である戦争を司る赤い騎士ならば、勝てると思ってしまうほどの強さだ。
「アハッ! いけるとか思ってたりするんでしょ?」
「そういう理由は?」
「え〜。顔に書いてあるよ。赤いヤツならいけるって。イヒヒヒ」
「えっ? そんなに表情に出ていたか?」
俺は思わず顔に手を当てて、意味もなく顔の感触を確認してしまう。
「出過ぎだよ〜。まぁあの力を味わった後じゃ仕方ないよね」
楽しそうに腹を抱えながら、京也の焦る顔を見て笑う。
それほど俺の態度がおかしかったのか、涙を流してまでして笑ったままだ。
「闇精霊さん。赤い騎士の力は使いすぎると何か影響するのではないですか?」
「おっ! ヒロイン登場だよ京也。イカれた仮面女よりよほどいいと思うけどな」
まるで答えるきなしの態度は、影響あると言っているような物だ。
「赤い騎士の状態になると、俺でいて俺でない感覚なんだよな……」
「キョウ大丈夫なの? 大きな力を使って……」
「耐久があるからな……。なければ着たまま死んでいるぜ赤い鎧は」
「アハッ! よくわかっているじゃん京也は」
京也は使ったことで理解したことが一つあった。
体が別物に変わる。
つまり耐久しなくても済むように、肉体自体が戦闘をしていた短時間だけで強化されているのだ。
どこか生きたまま肉体をいじられて、改造されている感じすらあり、なんとも不気味な甲冑だ。
とはいえ、恩恵はかなり受けている。
デタラメな強さだからだ。
白いヤツはどこかスマートさを優先しているようにすら感じる。
赤いヤツは、力まかせのゴリ押しでいく戦い方は、驚異的でもあるし、極め付きはあの黒い閃光だ。
町をくり抜いてしまうデタラメな破壊力は、なんなのかと思ってしまう。
しかも一度放つと、何度も使い破壊したくなる衝動に襲われる。
白いヤツでは起きなかった現象だ。
肉体自身も、それほど簡単に変化させることはありえないはずなのに、現に起きている。
魔法でもないし、超常現象でもないし、ましてや科学の力でもない。
異常なのは、闇の力なのかと自身の変化に慄いてしまう。
試してみようと足下にある小石を拾い、人差し指と親指で軽くつまみ力を入れると小石が簡単に砕けた。
もしステータスがあってみれたなら比較しやすいけど、残念ながらない。
恐らく力の上昇は、装着するたびに強化されていき、際限なく強化され続ける気がする。
ある意味で人を止めるための道具みたいなもので呪具と言っても差し支えない。
とはいえ、強さと引き換えならなんら文句もないし、むしろ感謝したいぐらいだ。
ただし心配だった破壊衝動は、甲冑が解除され消えたと同時に、一緒に持って行かれた感覚だ。
ひとまずは、解除して衝動がリセットできるなら恐らくはまだ大丈夫だろうと思っている。
「キョウ……。ほんとに大丈夫?」
リムルが目を細める。
自身の左手で右手を掴み胸の前で祈るようにしている姿は、京也もいたたまれなくなってくる。
だからといって、やっと抵抗できるほどの新たな力を手にいれたなら、ダンジョン攻略も少数で可能になるはずだと京也は思っていた。
それに、勇者へのお礼参りはまだ始まったばかりで、立ち止まっている暇も時間も勿体無い。
「俺は大丈夫だ。俺たちは互いに耐久の力を得ているだろ?」
「ええ。そうだけど……」
「なら大丈夫さ。リムルの体も耐久を得て大丈夫になっただろ?」
「そうね……。うん、キョウのいう通りね」
幾分ムリしているのか、笑顔がぎこちない。
「今夜決行ね、案内するわ。まず精霊にご挨拶かな? イヒヒヒ」
悩んでいたかと思ったら唐突に決めてきやがった。
本人的に問題なしと判断したんだろう。
俺としては、何も問題はないけど切り替わりの早さでは、さほど考えてもいなさそうだ。
「さっきの悩みは大丈夫なのか?」
「アハッ! あたしのこと心配してくれるの? 京也大好き!」
どうやらまた、何も話す気がないようだ……。
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