第9話『本当の力』

 ――猫を助けだしてから二日後。


 まだ朝早く、やや曇り空になり辺りが薄暗くなる頃、俺とリムルはダンジョンに向かう。コア攻略を目指す2回目の今日は、ダンジョン最終日だ。

 

 前回特典箱から得たものの中に、魔導士用の装備一式などもあったため、リムルの装備として渡した。なんとなくとっておいたのが功を奏した。


 魔導装備でもあるので、着用者に合わせて形状も変化する優れものだ。当然ながらリムルの体に合わせて形は代わり、すっかりもともと自身用に採寸したかのようにピッタリだった。


 見た目以上に軽く感じるらしく、非常に気に入った様子でさまざまなところを目視で確認していた。俺の方はというと、身軽で動きやすい物をとなると今までと同じままだ。


 ――リムルは空を飛べる。


 だからこそ中層から前回同様飛び降りて、同じ場所を目指す。実はコアのある壁側は、魔力の渦以外は物理的に無事であった。なので、リムルが高濃度の魔力の渦に耐えられるなら半分成功だ。


 高濃度魔力といえば、妖精の卵はある意味高濃度魔力に晒されていたわけで、おそらく問題ないだろう……と思いたい。リムル自身も大丈夫といっていることから、あと気にするのは途中で出会う魔獣たちぐらいだ。


 とはいえ前回とは異なり、何かがあるのは当然だろう。最下層でボスクラスの魔獣に出会う可能性は捨てきれない。一度はクリアされたわけだから、何かしら変化があっても不思議ではないと考えていた。


 俺は上層からみよう見真似で、短剣を魔獣に繰り出す。一朝一夕でうまくいくとは思っていない。自分の能力を最大限活用するつもりだ。


「いたね」


「ああ。リムルすまない。少し待機していてくれ」


「わかった。気をつけてね」


「ああ……」


 正直なところ、少し緊張する。目の前にいるのは黒狼だ。狼といっても山岳にいる熊と同じぐらいの大きさの魔獣だ。毛並みは黒く艶やかで美しい。顔つきは精悍な顔つきをしていて一見して知性でもあるような目つきをしている。黒狼は群れをつくらず、一匹でいることが多い。


 俺が短剣を構えるとようやく、敵対者と認識してくれたようで構え出す。


 奴らは特性上、魔力の大小で判断しているきらいがある。つまり俺に限っていえば魔力はゼロだ。

 奴らにとっていないのと同じだ。リムルの場合は反対に魔力が膨大すぎて恐れをなして敵は逃げてしまうため、可能な限り魔力を隠し限りなくゼロに近づけてもらっている。


 魔力持ちの人らは、そんなことまでできるとは器用だと思う。


 狼の魔獣は姿勢を低くしてすぐにでも飛びつける体勢に移り変わっている。ダンジョン生まれだからなのか、敵対者については魔力の大小関係なく、油断はしないと決めているのかもしれない。


 不思議だ……。


 鼓動が聞こえてくるようで、魔獣の目を注意深く観察していると意外とよく動いているのが見える。真っすぐ見ているようで、わずかに俺の左右や足元なども見ている。


 つまりどのようにでも、対応できるようにしているのだろう。勇者たちの荷物持ちや雑用をしている時には気がつかなったことだ。


 ダンジョンから生成されたばかりなのに、経験を積んでいるとは思えない。となると、ダンジョンから今までの蓄積された経験を植えられているとするならば、かなりの熟達した戦闘経験を持つ相手かもしれない。


 初心者と熟練者ほどの差があるなら、俺の繰り出す短剣はまさに児戯に等しいだろう。ならばやることは1つだけだった。


 俺は自ら踏み込み真正面から駆け出す。意外だったのか一瞬面食らったような雰囲気を狼から感じ取る。すんなり懐へ入り込めた俺は、そのまま脇腹を狙い上段から剣を振り下ろしたつもりだった。


 どういう柔軟性なのかそのまま右横から咥えられた。腹と背中を犬歯が突き刺そうとして、顎の力で体をもちああげられる。


 くわえる動作こそ待ちに待った格好だ。短剣をそのまま口の隙間から差し込み、毒蛇を放つ。


「ゴアァ」


 なんともいえないうめき声をあげたかと思うと、そのまま毒蛇は口の中から喉に入り食道を通って内臓をズタズタに切り刻む。


 同時に魔獣の血が吹き上がり、消火栓の水のごとく勢いよく血とともに吐き出された。おかげで頭の上から足の先まで血だらけである。毒蛇の一撃に耐えられる者はまずおらず、ようやく一体目を倒した。

 

 あとは魔石の回収だ。魔石は心臓の付近にあるとのことから、仰向けになった黒狼の胸を短剣で切り裂き探す。

 しばらく苦戦してどうにか見つけた物は、紫色をしていた。拳よりひとまわり小さく、表面が滑らかな真珠に近い球体の魔石を手に入れた。

 思ったより柔らかくグミに近い弾力がある。毛皮と肉体も保管箱に収めて、次へ向かう。


 血糊は、飲水を使い洗い落とした。ダンジョンでの初陣は意外とあっけなく終わる。俺の能力を生かした方法だとまずは食いつかれる必要がある。持ち前の耐久で耐えながら隙をついて毒蛇を放つ戦法だ。


 耐えられるのはいいとして、耐久はするのであっても傷は絶えないことを今更ながら気がついた。能力を活かす作戦は、血反吐を吐くような血みどろの状態になるのが今のところ確定だ……。


 ただし、今の俺にとって最も有効打を取りやすく確実な攻め方だ。肉体をある程度犠牲にする方法以外は、残念ながら技術力の差でかすりもしないのが現状だ。


 またすぐに次の魔獣が現れると思っていたところ、まったく現れない。深奥コアへ行くついでに魔獣と戦闘訓練などと思っていた過去の俺はどこに行ったのやら。


「ねえ、京也……」


「ん? どうした?」


「見た感じ、あまり大丈夫ではなさそうだから、気になって」

 

 中層に向かって進んでいると不意にリムルは声をかけてきた。どこか言いにくそうな雰囲気を見せるは仕方ない。言いたいことは、俺の戦法のことだろう。


 たしかに味方にとってみれば、俺の動きは本当に大丈夫と見えもするし、危険な状態とも言える。非常に判断がつきずらい行動だ。理解していたつもりではあっても日の浅い味方側からしたら、どう対応するか迷いが生じてしまう。時として一瞬の迷いが命取りになるように、やりずらさは当然あるだろう……。


 理解してあえてとるのは、選択肢が1つだけだからだ。


「……そうだよな。対応しづらくさせて、すまない」


 するとリムルは首を左右に振ると、少し困った表情をしながら切り出した。


「ちょっとね、心配だったんだ。どこまでが余裕なのか、今本当に危機なのかまだ見分けがつかないの」


「たしかにな。まだ日は浅いし、戦闘経験は少ないしとない物が多いからな、俺たちは」


「そうね。今目の前のことが必死だし、何か特別なことをして合図するのは難しいものね」


 だよな。やはり困惑するのは当たり前だと思う。ただ今の俺には他に方法がないんだな……。


「今俺がわかっていることは、千切れないし切断も絶え切れる。貫通すらしないし、押しつぶされることもないというところか……」


「どれもギリギリの状態ね……。はあ、まあいいわ。私もそれとなく感覚を掴んでみるから」


「すまない」


「大丈夫よ。少しずつ感覚を掴んでいきましょ」


「そうだな」


 俺たちは再び歩みを進めた。変わらず洞窟内は壁面が光石でぼんやりと光を放ち、全体的に視界を確保できる。ちょうど夕暮れ程度の明るさだ。気温は暑さや寒もないという快適さを維持している。魔獣さえいなければ横穴でも掘って住み着きたくなるぐらいの快適さはある。


 黒狼を倒してから、数時間は経過している。誰とも会わずに進むのは、珍しいことではなかった。あまりにも横空間が広いのと、地面には土や草木が生えているため、実質地上と変わらない環境だ。洞窟内で反響音が響くこともない。地面や草木が吸音してしまうからだ。


 勇者ときた時は、魔獣だらけでここまで歩みを進めるのに、二日間ほどかかっていた。ところが今回は、わずか一日目の数時間で辿り着いてしまったわけだ。半分程度と想定はしていたもののそれ以上に早いペースだ。


「一体何が起きているんだ?」

 

 俺は思わず言葉が口をついて出た。ただリムルは初めてなため、何が当たり前かはわからない。そのため首を傾げていた。


「普段はこんな感じじゃないってこと?」


「ああ。そうだ。この辺りまでは魔獣でひしめき合っているし、倒しても数分で新しい魔獣が生成されていく。最悪なのは、生成された魔獣は今までの戦闘知識を得て蘇る」


「初見のスキルではなくなるわけね」


「その通りだ。当時俺は荷物持ちだから対して気にも止めていなかったけど、実際に自分が戦闘で対処する時は、知識を引き継いで復活してくるのは驚異だな」


「そういうことなのね。気配は今のところ感じないね……」


「ダンジョンといっても生きているような物だからな。毎回同じとは限らないかもしれないな」


「油断は禁物よ?」


「ああ。わかっている」


 結局、以前落ちた地割れの目の前まできても、魔獣に遭遇しなかった。何が起きているのか皆目検討がつかない。


 当初の予定通り、俺が先行して落下しその後でリムルがやってくる。途中リムルは羽を使いゆっくりと降下する予定だ。


「大丈夫?」


「ああ。問題ない。いくぞ!」


 京也は前回と同様に思い切って地面を蹴りあがった。瞬く間に重力へ導かれ落ちていく。リムルも後からついてきた。


 風が体を切り、目尻には風圧で涙が溜まっていく。髪を後ろになびかせて真っすぐに地面へ向かう。まるで自身がヤリにでもなったかのように、垂直状態で不動のままだ。


 少しずつ見えてくる遠くの地表には、何か蠢くものが見え隠れしはじめた。ようやくかという覚悟に似たような何かを覚えた。


 半分まできた頃だろうか、待ちに待った魔獣たちと会えそうだ。地面が見えないほど密になって俺たちを待ち構えている。


「京也は人気者ね」


 ふと地面に視線を向けてリムルは呟く。


「それをいったらリムルもだろ?」


「そうかしら?」


 互いに顔を見合わせて、リムルはどこか含み笑いをし京也はニヤリとする。これが二人の戦闘開始の合図となった。


 表情とは裏腹に、現実は魔獣が蠢く地獄絵図にしか見えない。それなのに京也たちはどこか、冗談が言えるほど気持ちは軽かった。まるで溜まっていたウップンを晴らすかのように、二人は早々に掃討を開始した。


「闇レベルが1上がりました。闇レベルが1上がりました。闇レベルが……」


 少ない数ではあるものの次々に倒していくため、異常なほど上がる速度が早い。


 リムルは両腕を地面にむけて押し出すようにして、氷結魔法を放つ。生成された氷の粒の一つひとつは、まるで回転する弾丸のごとく鋭利であり、射出される様相は正にマシンガンといったところだ。


 京也もリムルの攻撃に合わせて毒蛇を繰り出す。とくに氷結魔法は、相手の動きを鈍らせたり、その場に固定させたりと足止めには非常に有用だ。今回はすでに待ち構えているところから、積極的な撃破にうつる。


 遠目から見てもわかるほど、リムルの攻撃は緻密で次々と魔獣をムダなく撃ち抜く。一方京也の毒蛇は、一気に丸呑みする大雑把なほどの力の津波を食らわせて、壊滅していく。対照的な両者の力で瞬く間に殲滅していく姿は正に爽快とまで言えるだろう。


「地表へ激突する。衝撃波に巻き込まれないよう離れていてくれ」


「うん。気をつけて」


 リムルは頷くと自らの羽を使い減速していった。京也はそのままの速度で地面に向かい、リムルと加速度的に距離が離れていく。


 間もなく地表だ。前回同様に、足から着地するつもりでいた。タイミングよく両足を手前に振り下ろし膝を抱えてそのまま回転する勢いで、地面側に足を向けて体勢を変える。


 着地と同時に横に転げながら、衝撃を逃す。砂塵が舞い上がりながら転がりつつ、魔獣の遺体にはぶつからずに止まった。


 体の方は、本来は耐えられるはずもない身体構造なのに、京也は耐久能力で骨肉は損壊せず耐え切ってしまう。さらに、着地前にすでに殲滅していたため辺りには死骸しかなかった。


 生存している魔獣がいないことを確認し終えた矢先に、リムルがちょうど到着した。


「なんだか凄いよな」


「ええ。この数を私たちがしたんだよね」


「ちょっと闇レベルを見てるか……。おっこれは……」


【名前】九条鳥 京也

【性別】男

【種族】……

【年齢】16

【レベル】0

【闇レベル】8

【状態】耐久中

【能力】完全耐久

【特殊】言語理解

【闇スキル】……


「結構上がった?」


「ああ。凄いな……。レベル8まで到達したぞ」


「やっぱり! キョウはすごい!」


「レベル3から8だとさ、なんか変な感じだけどありがとな!」

 

 今まで上がることのなかったレベルが、闇レベルとはいえ異常なほどの上がりっぷりに思わず、ほくそ笑む。あと残すのは、この残骸整理だ。

 

 目の前にある山となった魔獣の死骸から、魔石を取り出すのも一苦労しそうだ。今は時間的に余裕があるとはいえ、目的はコアなので先を急ぐことにした。異変があるなら、コアに向かう道も何か変化があるかもしれないと思ったからだ。


「以前と違いが明確だな……。慎重さは必要だけど、急ごう」


「うん。わかった」


 京也たちは、コアに続く道を急いだ。構造は以前とは変わらず光石で明るい方の出入り口の方へ進む。ところが、先の場所だけで再び魔獣が現れるかと思いきや、何も現れない。


 何もなくコアでも大丈夫だろうと、少し前までは頭の片隅で京也は思っていた。残念ながら願望は叶わずに、前回ただ広かったコアの間には、巨大な魔獣が鎮座している。


 貴族の屋敷を五個ほど連ねても余裕があるほどの広さだ。天井は見えないほど高く、横に広がる空間が目の前にある。


 台座に乗る巨大な球体の真っ白いコアは、変わらず健在だ。今回新しく現れた魔獣は、空間の中央で佇むという状態だ。


「やはり、こうなったか……」


「アレは何かしら……。魔人?」


「恐らくな。奴はここを守る守護者かもしれないな」


 目の前に不動の状態で、鎮座しているのは筋骨隆々の背丈五メートルは越す人型の何かだ。肌は焦茶色の上に薄らと柔らかそうな毛で覆われており上質なビロードを思わせる。頭部はどうみても闘牛のような顔つきで、厳つさを持ちつ。左右のこめかみ付近から、人の胴体ほどもある角が上向きに生えている。


 角の先端は非常に鋭利で、先で貫かれたらさすがに京也でも耐久力を超えて貫通しそうなほどだ。


 手には両手剣に近い物があり、手前へ付き立てたまま地面に先端を突き刺して、柄に手を兼ねている。目はどこか遠くを見ており、まだ京也たちを認知していない。


 今のままの状態だと精巧な剥製にも見える作りだ。今いるのは、当然コアを守護しているのは明白だ。空間に一歩でも踏み込めば、瞬く間に目覚めて京也たちを襲うのは、火を見るよりも明らかだといえる。


 1つだけ救いと言えるのは、空間に入りさえしなけば準備まではできる。そうした意味ではある意味良心的とも言える。


 とはいえ準備などなく、京也が攻撃にひたすら耐えながらリムルに攻撃がいかないよう、攻撃し続ける必要がある。毒蛇は魔力不要の半永久的に使える技なので、ひたすら力で攻撃をしていく。


「やはり、あの戦法で行くの?」


「正に肉を切らせて骨を絶つ。それを愚直に実行していくのみだ」


 京也に残された唯一の選択肢である。


「わかっているとはいえ、素直に送り出せないのよね……」


「ありがとな。たしかに、いくら耐えきれて致命的な損壊がないとはいえ、多少痛みはあるし流血も少しはする」


「でしょ? 辛い思いをさせないといけないことが辛い……」


 リムルのいう通りだと思う。誰だって、自爆に近い行為を前提に戦うのはよしとしない。事前にわかっているとはいえ、選択肢がないのも現実だ。


「俺の能力の特徴だからな……。ただ切られても一定以上は切り裂かれないし、刺されても一定以上は奥に入らない。毒は未知数だけど同じだろう。あとは、押し潰されようとも一定以上は推し潰れない」


「”耐久”ってあくまでも長い間、耐えられるだけよね……」


 リムルは、辛く悲しそうな表情で京也を見る。


「ああ。正に言葉の通りだな」


 ただれなりに痛みはあるし、苦しむのは変わりないないことを認めているのと同じだった。


「今は選択肢がないのよね? わかったわ……。私も全力で援護する」


 少しの諦めと覚悟の入り混じった気持ちなのだろう。目に力が入り、思わず腕を曲げて拳にも力を入れているのが見えた。


「ああ頼む。前回の黒狼と同様に、”肉を切らせて骨を絶つ”その戦法でいく」


「わかったわ」


「――頼んだ」


 京也は、たった一振りの剣と己の肉体を信じて正面から突っ込んでいく。空間に足を踏み入れた瞬間、予想通り今まで遠くを見ていた目がハッキリと京也を捉えて顔ごと動かし、姿を捉えていた。


 牛頭の魔獣は、突き刺していた剣を引き抜くと、腕をだらりと下げた状態で剣をもつ。


 剣の長さから射程に入った瞬間、目にも留まらぬ速さで横なぎに剣を振るうと、京也は壁まで吹き飛び背中から激突をした。


 リムルが魔法を放つすきもなく、体に見合わず圧倒的な剣速で度肝を抜かれた。京也をやらせまいとして、リムルは両腕を高く掲げ足止めの氷結魔法を放つ。


「氷華!」


 膝から下を氷で覆い尽くす。身動きが取れなくなった牛頭魔獣は、慌てることなくそのまま構えた。潔いのか諦めが早いのか、わからない。


 動けない状態とはいえ、氷の状態を維持するため、常に魔法を維持し続ける必要があり、リムルもまた身動きが取れない状態に陥った。


 今ので自由に動けるのは京也だけとなり、意識を取り戻すと変わらず正面に向けて駆け出す。射程外から京也は毒蛇を放つ。巨大な二匹の大蛇は絡み合いながら牛頭の正面から迫る。


 今回も見えぬ速さで振り落とされると、大蛇を素通りして地面に切先が突き刺さり大蛇に噛みつかれてしまう。当然猛毒があり、毒は体を侵食しはじめると大蛇は消える。


 消えたことで牛頭が少し安堵した瞬間、再び大蛇が迫り来る。京也の毒蛇は、消滅するたびに何度でも放てるのが特徴だ。全身至る所を噛みつかレルと、毒を体内に注入されてしまい明らかにわかるほど、弱ってくるのがわかる。


 手からは剣を落としてしまい拾うこともできない状態に陥る。


 さらに全身から滝のように汗が滴り落ち耳や鼻、目からも血を流しはじめた。当然口からも血を吐き出しむせかえる。足は変わらず動かないため、ついには仰向けに倒れてしまう。


 そのまま京也は駆け寄り、瀕死状態の牛頭の口に剣を突っ込むと毒蛇を放つ。途端に腹が内側から膨れ上がると、内側から爆発して臓器を撒き散らした。


「レベルが1上がりました」


 これでレベルは9に到達した。残念ながらまだ勇者たちの足元にも及ばない。


「レベルが9になったぞ。リムルは?」


「キョウおめでとう! 私はねレベル1,105だよ」


「リムルも千こえていたのに結構上がるんだな。おめでとう!」


「ありがとー」

 

 二人とも大幅なレベルアップができただけでなく、体が軽く感じる。

 今回は、さほど大きな負傷をすることもなく、リムルの氷結魔法で足止めができた。毒蛇が非常によく活躍して、比較的楽に倒せたことは大きい。


「リムルこっちだ」


「うん」


 京也はリムルを呼び寄せ、白い球体であるコアに近寄る。以前掘り込んだ京也の名前がまだ残っており、隣にリムルの名前も刻んだ。


「これで俺とリムルの名前がコアに刻まれたな」


「不思議な感じね。こうして名前を刻むと特別な感じがするのね」


「だろ? あの時は生き残れると思わなかったから、最後の生きた証のつもりだったんだけどな」


「ねぇ、ここの周辺にある箱は何かしら?」


「あっそうだよな。特典箱だ。お宝を忘れずに得ておこうぜ」


「何が出るのかしら?」


「あけてみてのお楽しみだな」


 京也は討伐した魔獣を保管箱に納め、あらためて見渡す。前回よりも多く、コア付近に無造作に置かれたかのように特典箱は存在した。


 おそらくざっと見渡して、二十〜三十ほどありそうだ。すべて開け終わると高濃度魔力がタイミングよく溢れ出し充満していく。ダンジョンに入る時はすでに再構築開始前のギリギリの時間だったからだ。


 リムルは平然としており、京也もまた前回とは異なり何とも無い状態でいた。数分後にはついに崩壊が始まる。


 とはいえ京也とリムルは耐久できるため、コアを背にして比較的押しつぶされることのない場所に移った。リムルと京也は、ただただ再構築が終わるのをひたすら待った。


 リムルが張り巡らせてくれた氷結結界のおかげで、砂埃まみれにならなくて済んだ。頑丈さに安堵してしまったのか、無防備にもいつの間にか二人して眠ってしまい気がついたら終わっていた。


 そしてログにはこう記されていた。


「レベル10に到達。闇スキル”闇闘気”を解放しました」


 そしてレベル10になると同時に種族が変わった。


 理人りじん”理外の人”。


 どうやら京也は新たな力を得たようだ。

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