【1シチュエーションノベル】私の腕の中だけ、いればいい【ヤンデレ】

雪月華月

第1話 私の腕の中だけでいればいい

 ああ、やっと起きたのね


 どうしたの、そんなびっくりした顔をして


 そっか、変な気分になったんだ


 きっと怖い夢を見てたのよ。あなた、さっきまで、だいぶうなされてた。とても辛そうだったわ……


 彼女は、ぎゅっと僕を抱きしめた。

 甘い香りとともに、柔らかい温もりがつたわって、僕はぐっと

拳を握る。怖い夢を見ていたのか……僕は深くため息をついた。


 怖かったでしょ、ゆっくり休んで……ふふ、私を気遣わなくていいから……あなただったら、大歓迎


 ……そんな怖い夢を思い出さなくていいのよ、ほら、頭痛だってしてるし……


 僕は目を強くつむった。確かに彼女の言う通り、頭痛はしていたのだが、何も言っていないのに、僕の状況を察する彼女は、すごいと思った。


 まあ、私はあなたをずっと見ていたから……あなたの辛さが手にとるようにわかるわ……記憶がないから、きっとピンとこないでしょうね……


 僕はこくりと頷いた


 人はとてもつらいと、記憶を失うと言うの……あなたはまさにその類……だから、もう幸せになっていいのよ


 そうだ、この後、どうする? またお庭を散歩しましょうか、それとも一緒にごはんでもつくる? あなたを傷つけるものはなにもないのだから、自由にしていいのよ


 僕は、とても大変な目にあったらしい。

 しかし記憶がないからというのもあるだろうが、実感が持てない。

 さっき、夢を見ていたと言われたが、確かにそうらしい。少し内容が思い出せてきた。

 その夢だけが急に生々しい、本物感がある。

 僕は彼女に、夢を深堀りしたいとつたえた。


 夢の話がしたいの? ええ……話したいのなら、どうぞ……あなたが辛くならないことだけを祈るわ


 ……そう、あなたは家庭教師で、教え子に国語を教えているのね。一人暮らしで大変だったけど、なんとかやっている。


 ……でもある日、どうなったの?


 どうなった……僕は教え子にお茶を出されたのだ。不憫な子だった。大人びた風貌をしていて、しっかりもしていたが、親もなく、孤独に満ちた少女で……。


 それで少女は、こう言ったのでしょう……?


 先生、私とずっといっしょにいましょう。


 永遠に……離さない。


 ハッとした。ああ、そうだ、そうだ、そんな言葉をかけられてと思った瞬間、彼女は僕を引き寄せて、唇を重ねた。驚いた瞬間、深く口付けられ、何かを飲まされた。ごくりと喉が鳴る。


 夢は、夢なんです……それは、悪い、夢


 私との今こそが、本物……


 もう先生は、私以外なにもしらなくていい……


 彼女はぎゅっと僕を抱き寄せた。意識が急速に遠くなる。

 頭の芯が鈍り、彼女の甘い香りが、かすむ意識の中でぐるぐると回る。やがてストンと、僕の意識は堕ちていった。


 可愛い人、悪い過去(ゆめ)を見てしまったのね。


 もっとお薬、増やしましょ……悪い夢を、二度と見れないように。

徹底的に潰さなきゃ。


 私、本当にあなたが、大好きよ。


 だから私の中だけで、溺れて、沈んで、おかしくなって……。

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【1シチュエーションノベル】私の腕の中だけ、いればいい【ヤンデレ】 雪月華月 @hujiiroame

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