コント水戸黄門

田澤 邑

コント水戸黄門

 その日も悪代官の悪事を突き止めた黄門一行は代官屋敷に乗り込み黄門一行と悪代官が呼んだ手下たちとの大立ち回りが始まっていた。


「静まれー!」

 そろそろいつものように印籠を見せてやろうと格さんが声をあげる。

「静まれー!」

 それを聞いた助さんも同じように声をあげる。

 だが、手下たちに静まる様子はなく、続けて黄門一行に襲いかかる。


「し……静まれー!」


「静まれ! 静まれー!」


 そんな手下たちに苛立ちながら格さんと助さんは叫び続ける。


「ちょっ! 今格さんが静まれって!」


 そんな声が聞こえ格さんが声のした方を振り返ると御老公が手下たちの攻撃から必死に逃れようと惨めに隅を這い回っていた。


「御老公⁉」


 格さんは慌てて御老公を助けに行くと、格さんが相手をしていた手下たちはすべて助さんに襲いかかり、いつまで経っても手下たちが静まる事はなかった。


 十分後。


「こっ……ぜぇ……この紋所が……ぜぇ……目に……」

 格さんは息を切らしながら印籠を構える。

「いや、格さん……はぁ……もう誰も……はぁ……聞いてないって」


 疲れて身動きができない御老公を同じように疲れはて息を切らしながら解放する助さんに言われ、格さんが周りを見渡すと悪代官と手下たちは全員気絶しており誰も聞いてはいなかった。


「……はぁ……どうする?」


「……どうするって……ぜぇ……この状況じゃ……御老公も裁きは下せないし」


 言いながら助さんは、いまだに疲れて身動きのできない御老公の様子を窺う。


「ふう……、じゃ後は遠山の金さんに任せるとか?」


 ようやく呼吸が整うと格さんは少し考えながら言う。


「いやいや、遠山の金さんって時代が違うだろ」


「えっ⁉ そうなの?」


 助さんの言葉に格さんは目を見開きながら驚いた。


 数日後。


 今日も悪代官の悪事を突き止めた黄門一行は代官屋敷に乗り込み黄門一行と悪代官が呼んだ手下たちとの大立ち回りが始まっていた。


「静まれー!」


 そろそろいつものように印籠を見せてやろうと格さんが声をあげる。


「静まれー!」


 それを聞いた助さんも同じように声をあげる。


 その声に悪代官や手下たちは狼狽え手下たちは刀を身構え悪代官を囲むように一ヶ所に集まる。


「この紋所が目に入らぬかー!」


 格さんと助さんは御老公を真ん中に悪代官たちに対峙すると格さんは懐から印籠を出し悪代官たちに見えるように掲げて叫ぶ。


 だが、その格さんの声を聞いた悪代官や手下たちの様子が何かおかしい。


 みんなざわつきながら近くのものと目を見合わせたり格さんを指差して笑うものもいる。


 その悪代官たちの様子に格さんが狼狽えていると。


「……どう見ても目には入らないだろ」


 手下たちの中の一人のその一言で悪代官と手下たちは一斉に笑い出す。


 予想外の事態に格さんは横にいる御老公や助さんを見ると御老公と助さんも笑いを必死にこらえ肩を震わせていた。


「ちょっ………、御老公や助さんまで!」


「………いや、私も前からそこは目に入らぬかーじゃなくて視界に入らぬかーとか目に見えぬかーじゃないかなと思ってたけど格さんの見せ場だし言ったら悪いかなって」


 助さんは笑いを堪えながら言う。


「儂もそう思っとった」


 御老公は頷きながら同調する。


「そう思ってたなら早く言って下さいよ!」


「いや、格さん生真面目じゃから言ったら傷ついちゃうんじゃないかな~って」


 言うと御老公は哀れみの目で格さんを見る。


「あの、内輪揉めなら他でやってくれる?」


 黄門一行のやり取りに取り残された悪代官が不機嫌になりながら言うと。


「うるさい! お前らもういいから帰れ!」


 格さんが苛立ちをあらわに悪代官たちに悪態をつく。


「帰れってここは私の屋敷だぞ!」


 格さんの態度に悪代官は苛立ち怒鳴る。


「あー、今こっちはそれどころじゃないから、お前ら邪魔だからしばらく他で時間潰してこい」


 悪代官が怒鳴っても格さんは見ようともせず御老公と助さんを見たまままるで犬猫を追い払うかのようにしっしっと手を振る。


「やってられるか! みんな行こ行こ!」


 その格さんの態度に悪代官や手下たちは文句を言いながら屋敷の敷地から出て行った。


「これはお互い納得するまでとことん話しましょう」


 そう言うと格さんはその場にあぐらをかいて座り御老公と助さんにも座るように促した。


 更に数日後。


 今日も悪代官の悪事を突き止めた黄門一行は代官屋敷に乗り込み黄門一行と悪代官が呼んだ手下たちとの大立ち回りが始まっていた。


「静まれー!」


 そろそろいつものように印籠を見せてやろうと格さんが声をあげる。


「静まれー!」


 それを聞いた助さんも同じように声をあげる。


 その声に悪代官や手下たちは狼狽え手下たちは刀を身構え悪代官を囲むように一ヶ所に集まる。


「この紋所が目に入らぬかー!」


 格さんと助さんは御老公を真ん中に悪代官たちに対峙すると格さんは懐から印籠を出し悪代官たちに見えるように掲げて叫ぶ。


 印籠の紋所を目にした悪代官一行は途端に狼狽え始める。


「こちらにおわそう方をどなたと心得る、恐れ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ!」


 格さんの言葉を聞いた悪代官と手下たちは目を見開き御老公の顔を見た。


「一同、御老公の御前である、頭が高い、控えおろう!」


 続けて助さんが一歩前に出て言うが悪代官や手下たちは首をひねって考えるものや御老公を指差し何やら話し込んでいるものもいた。


「どうした⁉ 御老公の御前だ! 控えよ!」


 悪代官たちの反応に今度は黄門一行が狼狽え始める。


「知らん」


 すると、手下の中の一人が徐ろに発言する。


「えっ?」


 その手下の言葉に助さんは思わず反応する。


「いや、そもそも一代官が副将軍の顔なんて知るわけ無いだろ」


 悪代官はふてぶてしい顔をしながら御老公を指差して言う。


「お代官様も知らないのに俺たちが知るわけ無いだろ!」


「ぞうだ! そうだ!」


 手下たちも悪代官の発言に同調して御老公に指を指しながら黄門一行に詰め寄っていく。


「本当に光圀だって言うなら証拠を出せ! 証拠を!」


 そう言って手下たちは今度は助さんに詰め寄り始める。


「だっ! だから、証拠はあの印籠がっ!」


 手下たちに詰め寄られた助さんは格さんが持つ印籠を指差しながら言い、言われた格さんも手を動かしながら印籠を手下たち全員によく見せていく。


「そんなの証拠になるか! そんなもの作ろうと思えばすぐに作れるだろ!」


「そっ、それは……」


 悪代官の言葉に格さんは言い返す事ができずに狼狽えながら後ろにいる御老公を見ると、助さんも気づいたように御老公に視線を送る。


「御老公! 言ってやって下さい!」


「ええ、こいつらがあっと驚く証拠を!」


「……いや、証拠って、その印籠が証拠じゃから、だって葵の御紋じゃよ?」


 格さんと助さんに言われ御老公は二人の顔を交互に見ながら身振り手振りを交えて説明する。


「だから、そんなのいくらでも作れるだろ!」


「それがあれば徳川家の人間だって言うなら、俺も作れば徳川家の人間でいいんだな!」


「じゃ、俺も! 俺も作る! これで贅沢三昧だぜ!」


 御老公の説明を聞いた手下たちは興奮しながら一斉に騒ぎ立てる。


「……御老公、これはどうすれば」


「……もう、こいつら収まりませんよ」


「……帰ろう」


 格さんと助さんに言われた御老公は少し考えるとそう言って騒ぎ立てる悪代官や手下たちに背を向けて足早に代官屋敷の出口に向かって歩き出す。


「……えっ! ちょっ! 御老公!」


「……いいんですか、このまま帰って⁉」


 格さんと助さんは慌てながら駆け足で先を行く御老公に追いつくと、同じように早足で歩きながら御老公を両脇から挟むようにして聞く。


「おっ? なんだ! 帰るのか?」


「今度来る時はちゃんと証拠を持ってこいよ!」


 手下たちは立ち去る御老公たちの背に向かってそう言い放つと一斉に笑い声を上げ、その笑い声を聞いた格さんと助さんは振り向きざまに悪代官たちを悔しそうに睨みつけ拳を握りしめた。

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