華斬 轢


みんなは知ってる?人を呑む路地の噂……


 「なにそれ?」


私達は首を傾げた。


「だから、人を呑む路地だよぉ!」


マキは声を低くしておばけのようなポーズをした。


「人を呑む路地はね、通った人を呑み込んで異世界に連れてっちゃうんだってぇ!」


「へぇー」


スマホをいじるリサは興味なさそうに相槌をうった。


「みんなぁ、ちゃんと聞いてよぉ……」


マキは半泣き状態で私達の前に飛び出した。


「その路地はあの時の路地なんだよ!?」


一人だけ学校の帰り道で大声を出すマキにユウカはキレた。


「マキうるさい!!ちょっと黙ってて頭に響く」


頭痛持ちでいつもイライラしているユウカは普段よりもイラ立っていた。怒鳴られたマキはしょんぼりしてボソっと呟いた。


「こんなんだからナナちゃんは消えちゃったんだよ…………」


黙る二人。重い空気が私達を包み込む。気まずい……。私は沈黙を破った。


「そ、それはみんなのせいじゃないよ。だから大丈夫だって……。だから仲良くしよ?」


ずっと黙って空を見ていたヒナが口を開いた。


「あの時……。あれは確か」


「もうやめましょ。この話は」


リサはヒナの話をさえぎった。スマホから顔を上げると全員の顔を順に見た。


「あれは、私達のせいじゃない」


言い聞かせるように繰り返した。私達はそれから一言も喋らずそれぞれの家路についた。


 次の日、リサが行方不明になった。どうやら昨日私達と別れてから家に帰らず行方不明になったらしい。リサの両親と警察と私達で家の周辺を探すことになった。この街は川が多いので何かが起きて落ちて流されたのでは?と警察は考えたのだ。だが、なかなか見つからない。やっと半分、川を探した所で、空が暗くなってきたので捜索は一旦打ち切りとなった。


「ど、どこ行ったのぉ……」


マキは泣いていた。いつもイライラしているユウカも顔を青くしてリサに電話をかけていた。ヒナはリサの好きな本を抱いて静かに地面を見ていた。


「うるさい!マキ!泣くなよ…!」


流石のユウカも焦っているらしい。体を小刻みに震わして落ち着きがない。


「リサ!!どこなの!!?」


私も声が枯れるまでリサを呼んだ。駄目だ。見つからない…………。結局見つからず諦めて帰ることにした。


「チッッ」


ユウカは舌打ちをして帰っていった。マキは声をだして泣きながら帰っていった。ヒナは自分の影を少し眺めて帰っていった。私は三人の背中をしばらく眺めて家に帰った。


 次の日、今度はユウカが消えた。ユウカもやはり私達と別れてから消えたらしい。親が心配して夜中探したが見つからずリサの事もあったので警察に連絡したそうだ。


「二人とも、どこ行っちゃったのぉ……」


マキは涙をボロボロと流してヒナに縋りついていた。


「大丈夫。大丈夫だよ……。すぐに見つかるって!ちゃんと帰ってくるよ!!ね?そう信じよう?」


励ましの言葉を言うがマキは泣きやまない。マキはヒナの服に顔を埋めてマキは何かを叫んだ。

聞こえなかった。ヒナがなんて言ったか聞くとマキは深呼吸して言った。


「帰ってこない…!帰ってこないよぉ!」


…………は?帰って……こない…?視界がグラッと揺れた。ヒナは顔をしかめた。


「私見たの。ユウカちゃんがあの時の路地に入って行くのを。止めようとしたけど、そこは人を呑む路地だから怖くて、ユウカちゃんスマホ持ってた。そこから、な…ナナちゃんの声がして、て……」


マキはそう言うとまたヒナの服に顔を埋めて泣きじゃくった。私は二人が帰ってこないという事実が受け止められなかった。そして、ヒナが初めて口を開けた


「……マキ」


「んぇ?…。」


「行こう。助けに」


 復讐が始まる。私達は、私は絶対に二人を取り戻してみせる。

 深夜一時、私達は親に黙って人を呑む路地に向かった。冷たい風が頬を撫でる。


「ね、ねぇ怖いよぉ……」


マキは先頭を歩く私達に必死になってついていった。そして因縁の路地についた。見た目はただの路地。人気は少なく私達以外の人の声は聞こえない。怖い……。怖がる私達をよそにヒナは堂々と入っていった。


「ヒナちゃん!?」


「ヒナ!?」


私達は焦って路地に入っていった。薄暗く生ゴミの臭いがする。気持ち悪い。ヒナはキラキラ光る物の前でしゃがんだ。スマホだ。画面には白い画面に黒い文字でこう書いてあった。


「またみんなであそぼうね」


ヒナは振り返って私を視た。私はニコっと笑うとヒナはやっぱりねと言った。マキは私が視えてないらしい。怯えた顔でヒナを見ていた。


「マキ、私達の目の前にいるのって誰だかわかる?」


「え、だ、誰もいないよ…………ヒュッ」


どうやら私の事が視えたようだ。


「な、ナナちゃん……!?」


「うん。ずっと一緒にいたんだよ」


嬉しい。ヒナはずっと視えていたんだね。


「ど、どうして……?なんで死んだナナちゃんがいるの!!??」


私はまだ皆と遊びたかったから。化けて出てきちゃった


残り二人。四人は私を殺した。そして四人は私の世界から消えた。だから取り戻さないと。まずはマキから。


「ナナ、私は今日謝りに来た。ごめん!あの時、私がナナを誘ってこの路地で遊んだからナナは死んだ。だから連れてくなら私だけにして……。二人を返して……」


自分から来たの?ヒナって優しいね。でもなんでマキまで連れてきたの?


「マキには真実を見せたかった。それだけ」 


そっか。謝ってくれるのは嬉しい。でもね?私は君たちを恨んでなんかないよ。私はただ、また五人で遊びたかっただけ……


「っ!だめ!!!」


まずは一人。私は、怖すぎて腰が抜けていたマキを呑みこんだ。


「ぁあ、あぁ…!」


ごめんねヒナ。でも私の中に三人は生きてる。だからおいで。一緒にまた皆で遊ぼ!!



 …………なんだ?なんか物音が。

仕事帰りの通行人は路地をのぞき込んだ。

そこには一匹の猫と四つの人形が落ちていた。猫は嬉しそうに、にゃーんと鳴くと器用に四つの人形を咥えて闇に消えていった。次の日、少女達の捜索が打ち切られた。なんでも四人の少女達の親が口を揃えて自分に子供はいないと答えたそうだ。今日もこの路地には人形を持った猫が現れる。


 にゃーん







 









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る