第4話 到着

「っ!! ……はぁはぁ」


 白い彼に弾き出された僕は、身体が焼かれるような感覚に恐怖し、汗だくで目を覚ましました。

 意識が徐々にはっきりとしてくると、騎士様が心配した様子で僕に声をかけて下さっていることに気付きました。


「キミ、大丈夫かい?! おい!! しっかり!!」


 僕の返事がないからでしょうか。

 騎士様はしきりに声をかけて下さいます。

 そんな様子に、ようやく声が出せるほどに落ち着いてきた僕は、急いで騎士様に返事をしました。


「はぁ……、んっ、くぅ……、だい、じょうぶ、です」

「どうしたんだい? 何か悪い夢でも見たのかい?」

「ゆ、め、ですか?」


 僕の返事を聞くと、騎士様は僕の背中を擦りながら心配そうに聞いてくださいます。

 

 ただ、僕は”夢”というものが分かりませんでした。

 定義的には分かっています。

 寝ているときに見るものだと……。

 でも、僕の夢というものは真っ暗で何も映さないのです。


 苦しくも疑問に思っている僕の様子に気付いておられるのか、騎士様は言葉を続けます。


「そう。 寝ているときに見ているものだ。君は忘れているのかもしれないが、その様子だとあまり良い物ではないだろう……。今は何も考えず、落ち着くように息を整えなさい」


 騎士様は気付いておられないかもしれないですが、ちょっとした言葉が僕に落ち着きをもたらします。

 

 ”何も考えず”、”~なさい”

 僕自身の思考を放棄するように勧め、更に命令形の言葉。

 騎士様は僕が落ち着くように気を遣ってくださっただけなのでしょうが、これらの言葉はお屋敷でよく聞いたもの。

 僕が落ち着くという意味では、騎士様は最適な言葉を選ばれたように思います。

 事実として、僕の頭の中は何もない真っ白な状態になり、息を整えることにのみ意識のほとんどが割かれています。


 僕が落ち着き始めたころ、どうやら僕らが乗っている馬車は目的地の近くに到着していたようです。

 騎士様は僕の様子を確認した後に、馬車内の奴隷の皆に聞こえるようにおっしゃいました。


「少年が落ち着いてきたようだし、皆も聞いてくれ。少年は寝ていたので聞いていないと思うが、馬車は既に王城内に入っている。我ら騎士たちの詰め所も、もうすぐだからそろそろ馬車から降りられると思っていてくれ」


 奴隷の皆はそれぞれ不安そうにしているものの、どこかホッとして落ち着いている様子。

 僕には不安しかないというのに、どうして奴隷の皆は落ち着いていられるのでしょうか。


 騎士様のおっしゃる通りに、馬車は数分のうちに停まった。

 そのあと、すぐに奴隷の皆と騎士様と共に馬車から降りました。

 これからの不安は大きいですが、感情を表に出さないように落ち着いて周りの景色を窺います。


 王城内の敷地ということで、大きな建物が視界に入ると思っていたのですが、僕たちが連れられたのは兵士の方々が訓練するような敷地のようです。

 お屋敷でお仕事をさせていただいていたときに見た兵士の訓練場に少し似ていたので、何となくですが、ここで訓練するのだろうなと推測しました。

 しばらく周りを観察していたのですが、注目するべきものはなく、すぐに観察を終えました。

 

 僕の観察を終えるころには、何やら立派な鎧を着ている大柄な騎士様がいらっしゃいました。

 僕たちと同乗していた騎士様が敬礼をしていたので、上司のような方なのだと思います。

 大柄な騎士様は僕たち奴隷の皆を視界に収めるほどの距離までいらっしゃり、おっしゃいました。


「諸君、私は第三騎士団のまとめ役である騎士団長だ。今から、諸君に風呂や着替えなどで身だしなみを整えたり、軽くリラックスしてもらいたい。それらが終わったのち、一人一人と今後の相談をする。どういった理由で奴隷となったのか、我らの保護を必要とするか。そういったことを相談する」


 そう団長様がおっしゃった後に、僕たち一人一人の表情を見ていきました。

 もちろん、僕のことも見ていらっしゃいました。

 団長様の表情が少し揺れたように見えましたが、気のせいでしょうか。

 全員の顔を見られた後、団長様は表情を緩めておっしゃいました。


「奴隷として働いていた期間、さまざまな辛い事があっただろう。我々の想像の出来ないような辛い事が。しかし、これからの人生はこれまでよりも幸せになるように歩んでくれ。そうなるよう我々騎士たちは協力を約束しよう」


 団長様の表情と言葉に奴隷の皆は、不安がなくなったように見えました。

 団長様が来られたとき、その厳めしい表情から奴隷の皆は緊張していたようだったのですが、団長様の言葉は奴隷の皆を安心させるのに十分だったようです。


 とにもかくにも、僕たちは騎士様方の案内のもと、身だしなみを整え、応接室と思われる部屋に案内されるのでした。

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