生まれながらの奴隷は演じてる

ソラゴリ

1章 始まり

プロローグ1 牢獄

 酷く暗い地下空間。

 そこには一直線に伸びた廊下があり、その左右には、ウサギ小屋を連想させるかのように、小さな箱のような部屋が等間隔に並んでいる。

 空間全体の雰囲気は陰鬱なもので、廊下の端には蜘蛛の巣がそこかしこに仕掛けられ、肌寒い室温が不気味な印象を強めている。

 この地下空間は、とある牢獄だった。

 

 牢獄と聞き、良い印象を思い浮かべられる者はいないだろう。

 ここの牢獄には、さらに印象を悪化させる要因がある

 その要因とは……。


「……ッツァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!!」

「ウゥゥ、ッググガァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!!」

「殺セェェェェェェェェェェエエエエエエエエエエ!!!! 殺シテクレヨォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!」


 牢獄の最奥の部屋から、定期的に悲鳴や死を乞う声が聞こえてくるからだ。


 それらの声の理由を、この場に囚われた者たちは嫌というほど知っている。

 この牢獄に囚われた者たちは、必ず一度は牢獄の最奥に連れていかれるからだ。

 その部屋で何が行われているのか……。

 最奥の部屋の主たちが”しつけ”や”遊び”と称しているものだ。


 その“しつけ”、あるいは“遊び”とは一般的な観点から見たら”拷問”と呼ばれる行い。


 牢獄に囚われている者たちは、みな最奥の主たち、つまりは拷問官たちに目を付けられないように、拷問での傷跡の痛みを耐え、息を潜め、ただ死んでいるかのように気配を消し、毎日を生きながらえている。

 そんな状況だからか、牢獄に収監されている者に、健全な状態を保っている人間は一人もいなかった。

 そして、拷問官もまたおかしくなり、狂っていた。

 他人に痛みを与え、他人の悲鳴を聞き、他者の苦しみを見て楽しむ者たちが、正気を保てるわけがない。


 この牢獄は誰もが苦痛を味わい、正気な者が誰もいない地獄と例えられるような場所だった。


 そんな悪夢のような場にとある少年がいた。

 少年もこれまで何度かの拷問を経験していた。

 だが、拷問での反応が他者と異なるばかりに、執拗なまでに責め苦を味わっていた。

 狂った拷問官にとって、少年は良いおもちゃだった。


 少年は今日もまた絶望の根源へと送られる。




「ぅぁぁ……。きょ、今日もまた痛いことされるのかなぁ……」


 泣きそうな声で少年は呟く。

 その言葉に返事をする人間はいない。

 そのはずが……。


「されるだろうなァ! あいつらは、俺たちを泣かせてぇんだろうよォ!!」


 発せられた声は、少年のものだった。

 だが、先ほどの少年からは考えられないような荒々しい口調が、彼から発せられたのだ。

 まるで、少年が一人二役で会話しているように見える。

 

 少年の一人芝居は終わらない。


 「あらぁぁんっ……。声を出してもいいのならぁ~、淫らにぃ! 誰もが興奮するような声で鳴いてあげるわよぉ~?」


 更に、少年の口調から新しいキャラクターが登場したことが分かった。

 女性のような口調ながら、嫌悪感を覚えるような間延びした言葉遣いだった。

 その後も、少年は一人で三役を演じ続ける。


「お前の”なく”は意味がちげぇだろうが!! 気色悪ぃんだよ、黙ってろや変態ッ。

 やぁん♡ そんな乱暴な言葉はだ・め・よぉ? 興奮しちゃうわぁんっ。

 マジできめェ……。ってかよォ、俺らは全員で一人だろうが! 誰が泣こうが一緒だろうがッ!!

 まぁ~、そうだけどぉ~。でもぉんっ、声の出し方で印象は変わるものよぉ~?

 チッ、きめぇなァ。まぁ、俺とメインは苦痛が嫌いだからよ……。テメェに任せるわ。

 やぁんっ! 痛みの快楽が分からないなんて、もったいないわぁ♡

 うるせェ!! そんなもん、分かりたくもねぇわ。オラ! そろそろ遊び部屋だ。変態、いつも通りに我慢してろよ?

 分かっているわよぉ~。任せておきなさいっ。あぁ……、今日はどれくらい気持ちよくさせてくれるのかしらぁ、た・の・し・み♪

 じゃ、じゃあ、僕も引っ込むね……。

 はいはい、早く引っ込みなさいよ。あんた、そろそろシャキッとしなきゃメインの座、奪うわよ。

 う、うん。

 チッ」


 少年は、ぼそぼそと複数人が会話をしているかのように言葉を発している。

 そこにいるのは彼一人のはずなのに……。

 

 少年は拷問部屋に連れていかれている最中だった。

 不気味な彼を連れているのは、拷問を施す拷問官だった。

 当然のことだが、少年の近くを歩いている拷問官には、彼の言葉が微かながらも聞こえている。


「……ったく、今日も長い独り言だったな。気持ちわりぃなぁコイツ」


 狂っていると思われる拷問官でも、少年に対して嫌悪感を覚えるようだった。

 それだけでなく、拷問官は少年のことを不気味に感じていた。


「……つぅか、コイツだけ傷が治るのが早いんだよな。な~んかスキルでも持ってんのかねぇ。何にしても気持ち悪いなぁ、コイツ」


 拷問官が思わず言葉をこぼすほどに、少年は異質だった。

 さらには、これから拷問を受けるというのに、少年からは悲壮感や拷問への拒否感というものが全く感じられなかった。

 苦痛を与える側からしたら不気味で仕方ないだろう。


 だが、この牢獄の拷問官たちも狂ってしまっているが故に、心底からの拒否感を少年に抱いていないようだった。

 その証拠に、部屋に近づくにつれて、拷問官の頬には隠しきれない笑みが浮かび始めているのだから……。

 そうして、地獄の入り口に着くころには、拷問官の表情は人間と思えないような恐怖を覚える笑顔になっていた……。


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