獅子の傍系 短編集

風城国子智

残痕の先へ 1

 怒りを帯びた蒼い瞳が、ラウドをきっと見据える。


 全身の震えを感じながら、それでもラウドはなけなしの勇気をかき集め、その鋭い視線を見返した。


 逃げたい。しかし、背後で震えている、小柄なラウドよりも小さい影を見捨てるわけにはいかない。謝れば、この場を上手く収めることができるかもしれない。目の前で対峙している人物、ラウドの異母兄でもあるレーヴェは、この国の王太子なのだから、寛大さをみせてくれるかもしれない。いや、王太子だからこそ、まだ幼い者達を、武術訓練と称して容赦無く打ち据えるなど、許せない。ラウド自身、訓練の度にレーヴェに何度も、木製の模擬武器で怪我をさせられている。打ち据えられる痛みは、身を以て知っている。これ以上、レーヴェに虐められる者を増やすわけにはいかない。だからラウドは、謝るという選択肢を捨て、今度はしっかりと顔を上げ、縦も横もラウドの倍以上あるレーヴェを、その蒼い瞳を睨み付けた。


「ほう」


 そのラウドの態度で、レーヴェの怒りが倍増したことが、発せられる言葉で分かる。緩慢にも見える動きで、レーヴェは右手の模擬武器――王が持っている大剣を模した、固い木製の武器――を振り上げた。いけない。レーヴェが模擬武器を振り下ろすより先に、ラウドも手の中の模擬武器を掲げる。だがすぐに、無情にも、ラウドの模擬武器はレーヴェによって訓練場の木の床に叩き落とされた。ラウドの手の中に残ったのは、痛みと痺れ。そして、次の瞬間。横殴りの攻撃がラウドの鼻先に現れる。次にラウドが感じたのは、背中に当たる冷たい床の感覚と、ゆっくりと黒く塗り潰される意識。

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