3. 物語が始まる!

 ・・は頭の中に流れてくるフローラの記憶とともに大体の事情を理解した。


 ちなみに・・は日本で大学生をやっていた普通の青年だ。

 地元の国立大学に通って、そろそろ就職活動をしようと思っていた矢先だ。

 気づいたら、この世界で豚令嬢と呼ばれる少女になっていた。


 ――中世ヨーロッパ風のファンタジー世界か?


 ・・はそういった類のアニメを見たことがあるが、あまり詳しくはない。

 妹が異世界恋愛系に嵌っていたから、むりやり見させられたことがある。

 そのくらいだ。


 余談だが、妹が・・に勧めたアニメはボーイズラブというやつだ。

 もともとBLには全く興味がなかった・・だが、それを機会にBLに目覚めた!

 ……というわけはなく。


 男同士の際どいシーンを妹と見る羽目になった・・の気持ちは……なんとも言えないモノだった。

 ご愁傷さまである。


 そんなことはさておき、


「本当にどうしようかしら?」


 と、口に出した途端、・・は違和感を覚えた。

 口調が女っぽいことだ。

 ・・の口調がもとから女っぽかったわけではない。

 肉体に引きずられて女っぽい口調になっているのだ。


 これから女として生きていくのだから、むしろちょうど良いといえる。

 ・・……否、彼女・・・はすぐに納得した。

 もともと切り替えが早いことがその男の美徳だった。


 皮肉にも・・が女として生きていった場合、精神的なBLが完成してしまう!

 それは妹の喜ぶところであり……。

 さて、この話は一旦置いておこう。


 転生したことも彼が彼女になったことも、その男からしたら些細な問題だ。

 一番の問題は、


「この醜い体はなんなのよ! 他は許せてもこれだけは許せないわ!」


 どうしても体質的に太るのなら仕方ない。

 世の中にそういう人がいることは知っている。

 だが、フォーブズ家は彼女以外、全員スリムな体つきなのだ。

 フローラが体質的に太りやすいなんてことはない!


 これまでの彼女は好き勝手に食べて、ろくに運動をしなかった。

 太って当たり前の生活をしていた。

 デブが悪なのではない!

 デブから脱却しようとしないことが悪なのだ!

 ファット、イズ、ファック!

 と、男はよくわからない名言……否、迷言を生み出した。


「この体だけはどうにかしなきゃね」


 前世ではそれなりにスマートな体をしており、それが自慢だった。

 毎日欠かさずに筋トレやストレッチを行っていた。

 そんな男からすると、ぶくぶくに太った彼女の体が何よりも許せない。


「さっそく、今日からダイエットだわ!」


 フローラはそう決意を込めて言った。





 そうして四年が経った。

 フローラ、13歳となる年の春。


 お茶会や誕生日会に、フローラは一切呼ばれず。

 彼女はハブられていることも露知らず、呑気に面倒事がなくなって良いと考えていた。

 そして、武門の家として有名なフォーブズ侯爵家直伝の筋トレを施したフローラは無事にダイエットに成功していた。


 もとの素材が良かったことで痩せたフローラは絶世の美少女になっていた。

 しかし、当人は醜い頃の自分の外見を知っているため、自身の顔を見ても美しいとは思わず。

 さらに家族や使用人からも綺麗になったと言われるが……。

 それも全てお世辞だと捉えていた。

 こうして、世にも奇妙な無自覚TS転生美少女が誕生したのだ!

 略してM・T・B!


 シャングリア王国の最大の学園、シューベルト王立学院。

 王国の将来を担う貴族の子息、子女が集められる。

 さらには優秀な者であれば平民であっても入学可能なその学院は満13歳から入学が許されている。

 そこに絶世の美少女に生まれ変わったフローラが入学を果たそうとしていた。


 物語はここから始まる!

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