夜明けの騎士団 ―獅子の傍系 if―
風城国子智
小さな背中と 1
冷たい床に尻餅をついてしまったカレルと、そのカレルを鋭く見つめる蒼い瞳との間に、小柄な影が割って入る。その小さな背中が誰のものなのか、カレルが気付くより先に、そのカレルと小柄な背の持ち主に対峙する、蒼い瞳の持ち主の怒りに満ちた罵声が、カレルの耳を震えさせた。
全身を震わせながら、それでも何とか顔を上げ、そしてあっと小さい声を上げる。カレルの前で震える背中は、カレルより少しだけ年下の少年、第二王子ラウドのもの。自分と同じくらいの背格好の少年が、自分よりも年齢も身体も倍以上ある恐ろしい主君、王太子レーヴェに対峙している。そのことが、カレルの震えを半分だけ、止めた。そのカレルの耳のすぐ横で、模擬武器の打ち合う音が鋭く響く。次に響いた、模擬武器が一つだけ落ちる音に、カレルは殆ど無意識に、目の前の人物の服の裾を掴んで強く引いた。次の瞬間、カレルと、カレルの膝の上に落ちたラウドの目の前の空間を、レーヴェが持つ模擬武器が鋭く薙ぐ。
「ふん。……弱い者同士、仲良しだな」
次に聞こえてきたのは、二人をその蒼い瞳で鋭く見下ろし、鼻を鳴らしたレーヴェの声。
「床を掃除しておけ、カレル」
レーヴェと、王太子に仕える身体の大きい従者達が次々と修練場を去る足音に、ほっと息を吐く。その時になって初めて、カレルとラウドが尻餅をついている場所だけ、床が濡れていることにカレルは気付いた。
「あ……」
カレルの膝からようやく立ち上がり、カレルと同様に息を吐いた、第二王子ラウドが、カレルに向かってその華奢な腕を伸ばす。
「ありがとう、カレル」
次に言われた、お礼の意味が分からず、カレルはただじっと、ラウドの柔らかに微笑む灰色の瞳を見つめていた。
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