第40話 遥の問題点

 今回の旅はちょっと変わった旅を予定している。

 まず最初に、ある程度まで進んで転移ポイントを作成したい。

 進む距離は街もしくは村、もしくは日が暮れるまでで、その時点で人除けの結界を設置した転移水晶をその場に設置してここ自宅に戻る予定だ。

 道中なにがあるかわからないけど、衛生面は完璧な旅になることと思う。


「というわけで、さっそく出発します」

 今回はペガサスさん2頭という豪華仕様で牽いてもらうことになった。

 道中は普通の馬に擬態するので訝しがられることはないはず。

 馬車は腰が痛くならないように設計されているらしいけど、一応クッションを持っていくことにした。


「車輪周りはゴムでコーティングされているということなので、多少の石で痛めることはないと思います。ある程度快適な旅をお約束しますよ」

 木除けのお守りで守られた馬車を牽きながらペガサスさんはそう話す。


「隣のペガサスさんはお友達ですか?」

「妻です」

「なんと!?」

 このペガサスさん、なんと妻帯者でした。

 マジですか……。


「旦那がお世話になっています。誰かを乗せて旅をするなんて初めての経験なので、よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ、よろしく、お願いします」

 丁寧にそう言われ、ボクもついつい恐縮してしまう。


「そういえば、大丈夫でしたか?」

「? 何がでしょうか」

 ペガサスさんの奥さんにそう聞かれるが、何のことだかわからない。


「例のユニコーンのことです。最近遥様の周囲を飛び回っているそうです。フェアリーノームたちも一緒にいるということでだいぶ目が血走ってましたよ」

「目が血走る……?」

「えぇ。何かに耐えるように鼻息を荒くしてましたね」

「うわぁ……」

 ここでボクは余計なことは言えない。

 言えばまた「自覚がないんですか? では授業を開始します」とミレたちに怒られて授業を始められてしまうのだ。

 

「特に遥様に執着しているようですので、ご注意ください」

「ちょ、なんでボク!?」

 ターゲットイズボクなんで?


「あのユニコーン、羞恥心が薄く純粋な幼子が大好きなようで、最近減っていると言って嘆いていると聞きました。そこに遥様です。あとはわかりますね?」

「???」

 ペガサスさんの奥さんは何を言っているのだろう。

 さっぱりわからない。

 あ、ちょ、ミレさん? 引っ張らないで……。


 ペガサスさんの奥さんの言葉に返事することもできず、ボクはミレによって馬車の中に引きずり込まれた。

 待っていたのは教科書と小さい黒板のようなものだった。

 しまった、これは罠だったのか……。


『いいですか? 主様はただでさえ可愛らしいのです。無暗に男性にくっついたり着崩してはいけません』

 身振り手振りと黒板への板書によってボクの危険性について熱く語るミレ。

 周囲はこくこくと頷きながらボクたちの様子を見守っている。


『では問題です。仲の良い男の子が突然手を繋いできました。どうしますか?』

「えっと、何かあるのかな? と思います」

 途端にミレの顔は残念な子を見るような表情になってしまった。


『恋人でもない限り簡単に繋いではいけません。幼児であれば迷子防止にはなりますが、主様の場合は必要ありません。同性は繋ぎたい子もいるので臨機応変に対応しましょう』

「は、はい……」

 妖狐になってからはなぜか方向感覚に優れているので、簡単に迷子になることはないと思う。

 ミレの言うことももっともか。


『男の子が突然抱き着いてきました。どうしますか?』

「じゃれ合ってるのかなと思います。ボクも前はそうでしたから」

 ミレため息。同じくミカもミナもため息を吐き、千早さんは苦笑い。

 ミリアムさんに至ってたは無表情だった。


「え? もしかしてだめ?」

『だめです。離れるかガードしましょう』

「わ、わかりました」


『次の問題です。共同浴場に行きました。女湯には人が多くは入れない様子、男湯は空いている状況でした。お風呂に入りたい主様はどうしますか? 1.女湯が空くのをを待つ。2.ほかの共同浴場を探す。3.我慢する。4.男湯に入る』

「うーん……。そもそも女湯は緊張するんですよね。ここは無難に男湯かな。あ、ミレさん? ちょっと顔が怖いです……」

『この辺りは出発前に教えましたよね』

「はい……」

『どうして覚えてなかったんですか?』

「えっと、空いてるならそんなに気にされないかと思いました……」

『主様は街の共同浴場の利用は禁止します』

「えぇ!?」

 まさかの利用禁止宣言である。


「主。主は自分の全裸を他人に見られても平気なのですか?」

「う~ん。見ても面白くないし普通じゃないかと思いますけど」

「その時点でダメです。主がどうこうではなく、見られる状況なら注目して見られますし興味も持たれます」

「は、はい」

「主はゴブリンに襲われたことありますよね」

「あ、はい……」

「最悪ああなりますよ?」

「ひぃ!?」

 言われて恐怖の思い出が蘇ってくる。

 そうだ、あの時すごく怖かったんだ。

 なのになんで忘れてたんだろう……。


「遥様は羞恥心が足りないようですから、まずそこでしょうか」

 千早さんからもダメ出しを受ける羽目に。


「恥ずかしい。隠さなきゃ。見せちゃダメとかそのあたりの感情を育てましょう。過去に実害があったようですがちょっと特殊すぎますからね」

「うぅ……。申し訳ないです……」

 羞恥心と距離感かぁ。

 怖い思い出は教訓として心の奥底に残ってるけど、それと羞恥心が結びついてなかったと思う。

 む、難しい……。

 

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