第39話 ペガサスとロリコンユニコーン
アルテ村で売るものを売ったので、そろそろ王都へ向けて出発しようと思ったものの、移動手段がないことに気が付いた。
歩くわけにもいかず、だからといって乗合馬車で行くわけにもいかない。
王都までは乗合馬車だと2週間くらいかかるらしい。
なので、ボクたちは自分たちで馬車を用意することにしたのだが……。
「青肌一族の村の時以来の登場ですね、白い馬さん」
目の前には翼の生えた白い馬が馬車の先頭を陣取っていた。
「飛ぶの?」
翼が生えてる白い馬を指しながらミレに聞く。
何やら「う~ん」と悩んでいるけどどうするんだろう。
「馬さんはどうしたいんですか」
伝わらないだろうけど伝わると信じて話しかけてみた。
なんか動く素振りだけでも見せてくれればもうそれにしちゃおうと思ってるんだけど……。
「私としましては重すぎなければ馬車ごと飛んでいくこともできますよ」
「ふえっ!? 誰!?」
突如響く見知らぬ男性の声。
周囲を見るものの男性らしき人影はどこにもいない。
「うん? どゆこと?」
「遥様、もしかしてこの白馬では?」
「いやいや、まさか」
「いえ、そのまさかですよ」
「「え!?」」
突如馬から聞こえる男性の声に、ボクと千早さんは同じような反応をしてしまった。
冗談だと思っていたのにまさか……。
「これは珍しい。ペガサスじゃないですか。なぜこのようなところに?」
ロッジの中から荷物を持って出て来たミリアムさんが、白馬に向かってそう声を掛けた。
知り合い?
「これはこれは、森と大地と地脈の精霊王殿」
「今は女神に昇格しました。我が主たる遥様のお力で」
「それはおめでとうございます」
「は、遥様。馬ってしゃべるんですね」
「ボクも知りませんでした」
なんだかこの二人、仲が良いなぁ。
「主、不思議そうな顔をしていますね」
「うん、ちょっとね。知り合い?」
「知り合いといいますか、私たちがいるこの森は聖域となっている場所も多いのですが、彼はそこの管理者の一頭です」
「へぇ~。管理者……」
馬と管理者ってなんか結びつかないなぁ……。
「基本的には巡回して汚染されていないか、悪い魔物が侵入していないかを確認しています。ゴブリンなどはどこにでも現れるのでなかなか駆除が大変ですが」
ため息を吐きながらそんなことを語るペガサスさん。
人が入れない場所にも侵入できるゴブリンって、実はすごいのでは?
ボクは訝しがった。
「最近の問題はユニコーンです。ハイゴブリンたちはご存じですか? この辺りだと青肌一族が有名ですが」
「はい、知っています」
「実はそのユニコーンがハイゴブリンの少女を狙う事案がありまして……」
「???」
ユニコーンとゴブリン? なんだかイメージに合わない……。
「ゴブリンといっても魔物化した【堕落した者】とは違いますよ。オークも同じです。本来の彼らは人間に近い姿をしています。そちらのフェアリーノームの女王と同じような見目麗しい姿をした者も多くいます」
そう言われたのでミレを見てみる。
するとミレは「てへへ」と言わんばかりに照れていた。
えっ!? 女王!?
「ミレ、そんな偉い人だったの?」
ミレに問いかけると、胸の前でバツ印を作る。
おや?
「じゃあフェアリーノームの中だと誰が偉いの?」
改めてミレに尋ねると、ボクのほうを手のひらを向けて示す。
「後ろ?」
示された方向を見るも誰もいない。
んん?
するとミレがボクの手を掴んで改めて手のひらで示した。
「フェアリーノームの女王は、貴女を一番偉い者として認識しているようです。どうやったかはわかりませんが、貴女がフェアリーノームたちの新しい女王となったということですね」
「え? えええええええ!?」
いつの間にかボクはミレたちに女王様扱いされていたようだ。
え、本当にいつの間に!?
「いやはや、こんなに面白い状況に出会えるとは思いもしませんでしたよ。呼ばれてよかったと思います」
そういうペガサスさんの表情は心なしかニコニコしていそうな気がする。
いや、顔は変わらないんだけどね……。
「ところでユニコーンとハイゴブリンがどうしたんですか?」
少し話を戻してみる。
気になるのは『少女を狙う』という点。
「はい。実はそのユニコーン、ひどい小児性愛者でして……。今は見目麗しいハイゴブリンの少女だけですが、フェアリーノームたちや遥様も狙われる可能性があります」
「えぇ!? そうなんですか!?」
「はい。ここ最近ですが、かのユニコーンは夜寝ずにこの辺りまで飛んでくることがあるそうなんです。なんでも絶景ポイントを見つけたとかで」
「この辺りに飛んでくる。絶景?」
何のことだろう? すごい景色なんてここにはないよね。
もしかしてアルテ村?
そんなことを考えていると、ミレが武器を取り出した。
その眼には殺意が宿っているように感じる。
「えっと、ミレさん? どうしたの?」
ミレに触発されたのかはわからないけど、ミカやミナ、そのほかの子たちも一斉にただならぬオーラを醸し出していた。
え、本当にみんなどうしたの?
ボクが困惑していると、ミレがボクに文字を書いて説明してくれた。
『私たちの入浴が覗かれているので、対策します。1時間ほど出発時間を伸ばしてください』
「入浴ねぇ。見られて困るものなんてあったっけ?」
ボクがそう言うと、ミレは少し残念そうな顔をするのだった。
「遥様って大胆ですね」
「えっ? 千早さんまで!?」
「主、もう少し慎みと羞恥を」
「ミリアムさん!?」
なんでどうして!?
ボクはこの後1時間に渡って良くわからない講義を受ける羽目になったのだった。
性差についての授業なんて小中学校以来だよ……。
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