第253話 『嫁』と云う言葉の功罪

 執筆中に気になった言葉が『嫁』である。


 『嫁』、『よめ』。

 この柔らかい発音は美しく、『ねずみの嫁入り』なる童話や、『狐の嫁入り』のような神事もある。

 白無垢姿の狐面の花嫁は不思議な恐ろしさをもたたえており、異界の息吹を感じさせる。


 しかし、『嫁』なる言葉を使うのは、現代では注意が必要だろう。


 『嫁』は、自分の息子の妻を指す言葉である。

 が、夫が自分の伴侶を『嫁』と呼ぶ誤用もある。

 検索すると、この誤用は「芸人が使い始めた説」が出てきた。

 コントの中で「うちの嫁が……」と喋ったと云うことか。


 が、今では『嫁』呼びを使うと、「なに、この人」と思われる場合もある。

 誤用もさることながら、ジェンダー視点を意識する傾向が広まった故と見た。

 結婚式での『花嫁』『花婿』はともかく、日常会話では禁句だろうか。


 私自身は、『嫁』呼びは好きだ。

 『魔法使いの嫁』と云う作品もあるし、何より『嫁』と同等のニュアンスを持つ言葉が見つからない。

 『妻』や『奥さま』では、語感が違うのだ。


 自作の小説でも『嫁さん候補』と言う言葉を一箇所だけ使っている。

 代替台詞が思い付かなかった結果である。

 過去と現在を行き来する話だし、時代を考慮すれば『嫁』の使用も許される筈だ。


 が、海外では女性に対して『Mrs.』『Miss』を使わず、既婚・未婚両方に使える『Ms.』が一般的になっていると聞く。

 これは好ましいことだが、文学的に『嫁』は生き残って欲しい。


 さて、これを書くにあたって『ねずみの嫁入り』を検索したら、江戸時代に描かれた『赤本』が見られた。

 ねずみの結婚式で終わると記憶していたけど、『赤本』ではねずみの赤ちゃんが産まれ、お宮参りをしている所で終わっていた。

 生き生きと描かれた絵が素晴らしいので、ぜひ見ていただきたい。

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