第216話 一人二役の傑作映画『戦慄の絆』

 ドラマ『大奥』を観ていて、頭を抱えてしまった。

 亀梨和也くんが、将軍と歌舞伎役者の一人二役を演じていたシーン。

 これは、彼には全く責任が無いことは断って置く。


 問題のシーンは……まず、横から見たアングル。

 画面右に将軍、画面左に歌舞伎役者を合成して配置。

 カットが変わって、歌舞伎役者の背中肩越しに将軍の正面バストアップ。

 次のカットは、その逆アングル。


 ……何だ、こりゃ。

 これって、再放送で観た『水戸黄門』の定番エピソード「ニセ黄門様と本物が対峙するシーン」そのまんまだよ!

 予算の関係もあるだろうし、凝った合成は出来ないとしても、半世紀前の作品と変わらぬ合成シーンにビックリだよ!

 CGは進化したのに、画面構成はそのまんま。

 これが日本のドラマの実力なのか……。


 

 ここで、思い出したのが映画『戦慄の絆』。

 深夜放送で観たのが相当に前なので、記憶が曖昧ながら、ラストの異様さは鮮明に覚えています。

 調べたら、去年にアメリカでリメイクドラマが作られています。

 主人公は性別変更されましたが、真紅の手術着などの小道具はそのままのよう。


 映画版は、実話を元にした双子の男性医師を描いたサイコスリラー。

 主演は、愛に破滅していく男を演じさせたら天下一品(個人の感想です)のジェレミー・アイアンズ。

 彼が、一卵性双生児の産婦人科医を二役で演じています。


 性格の異なる兄と弟は、共に患者だった女性と関係を持ってしまいます。

 彼女は、一人の男性と寝ていたと思っていたので、真相を知って去って行きます。

 結果、心のバランスを崩した兄弟は狂気の世界に入り、「シャム双生児を分離しなければ」と手術に踏み切ります……。


 監督は、デビッド・クローネンバーグ。

 もう、冒頭の手術器具からヤバすぎる。

 エイリアンの骨みたいな器具ですよ。

 どんな手術だよ、と突っ込まずにはいられません。


 そして兄と弟の合成がスゴイ。

 違和感なく見られます。

 

 ジェレミー・アイアンズは「兄と弟の二人分を控室を用意して欲しい」と希望したとか。

 そして兄弟の合成シーンは、「当時の主流は横合成だったのを、縦合成した」らしいです。

 合成については理解不能ですが、ジェレミー・アイアンズの繊細な演技に引き込まれました。


 ラストシーンの重なり合う兄弟の構図は、キリスト教の『ピエタ像』を彷彿させます。

 結局、兄弟は二人一役でしか生きられなかったのです。

 哀しくて恐ろしい物語でした。


 ジェレミー・アイアンズ出演の映画でお勧めなのは『Mバタフライ』。

 ジョン・ローンと共演してますが、これも深夜放送で観ました。

 調べたら……こっちもクローネンバーグ監督作だった……。

 クローネンバーグ監督は、破滅するアイアンズ様が好きなのか?


 ま、解りますけどね。

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