第106話 連行


「アランくん。この人、どうします?」


 ミーアが意識を失ってる男を見て言った。


「まあこのまま放置でいいんじゃない?」


「ねえ、アラン様。こいつの首に首輪付けちゃわない?」


 シャーロットが狼男から奪った首輪くるくると回しながら、ニコッと笑っている。


 ……その笑顔、ちょっと怖いんだけど。


「でも、その首輪所有権こいつじゃないですか?」


 奴隷の首輪には、もちろん所有権がある。


 さっきの爆発も所有者の意志で、発動できるものだ。


 所有権は魔術によって定められており、簡単には変えることはできない。


「残念」


 シャーロットががっくりと肩を落とす。


 それよりも、だ。


「君、名前は?」


 俺は猫耳少女に尋ねる。


「……え?」


 少女がビクッと肩を震わす。


「アラン様。顔に血が付いてますよ?」


「あ、まじか」


 きっと男の返り血だろう。


 ちょっと怖がれせちゃったかな?


 俺はふきふきと顔を拭う。


「……キリア」


 少女がポツリと言った。


「キリアちゃんね」


 シャーロットが目線を合わせるようにしゃがみ込む。


「お、おねえちゃんたちは?」


「私たちは通りすがりの旅人よ」


「たびびとさん……つよかったです」


「ふふ。ありがとう」


 シャーロットがぽんぽんと少女の頭を軽く叩く。


 少女はすっかりシャーロットに気を許しているようだ。


 さすがシャーロット。


 人心掌握術が半端ない。


 俺なんて怖がられたのに……。


「あの! わたし、おうちに帰りたいです!」


 シャーロットが俺をちらっと見た。


 俺は頷き、しゃがみ込んで答える。


「ごめんな。俺たち、実は迷子なんだ」


「……おうちに帰れないの?」


 キリアが泣きそうな顔をする。


 シャーロットが責めるような目で見てくる。


「いや帰れるよ。うん、大丈夫。お兄さんに任せなさい」


「ホント!」


 キリアがパーっと表情を明るくする。


 そんな顔されると、困るな。


 俺たちも迷子だから、迷子が迷子拾った状況だ。


 でも、小さな子を不安がらせるのは良くないしな。


「まあ……今日はひとまず、ここで寝るとしようか」


 ちょうど屋敷もある。


 明日のことは明日の朝、色々考えよう。


 もう今日一日色々ありすぎて疲れたしな。


◇ ◇ ◇


 翌朝。


 起きたら、屋敷がヤバイことになっていた。


 騎士服を着た人たちに屋敷を囲まれていたのだ。


「どうしましょう……?」


 ミーアが不安そうな顔をする。


「ここは抵抗しないほうが良さそうね」


 シャーロットが答えた。


 俺もそれに同意だ。


 相手が賊だったら燃やして終わりなんだけど……どうやら相手は賊ではないようだし。


 服装からして、おそらく騎士団だろう。


 下手に抵抗して騎士団員を傷つけてしまったら、大きな問題に発展する可能性がある。


 ていうか、俺たちの立場が曖昧だから、正直どう動くのが正解かわからん。


 そういえば、でっぷりとした男が「騎士団員を三人も殺した!」とか言ってたな。


 きっと、その調査に来たんだろう。


 部屋の扉ががバンっと開く。


「動くなっ!」


 騎士服を来た青年が、俺たちを威圧しながら入ってきた。


 直後、騎士服の連中がぞろぞろと部屋に侵入し、占領してきた。


 逃げるつもりはないけど、つい逃げ出したくなる。


 これは、あれだ。


 何も悪いことしてないのに、警察に呼び止められたときと同じ感じだ。


「君たち、一緒に来てもらおうか」


 青年が有無を言わさぬ口調で告げてきた。


「……わかりました」


 こうして俺たちは騎士団に連行される羽目になった。

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