第105話 我慢しよう

 一つわかったことがある。


 オリヴィアの身体能力は、ハイオークを上回る。


 まあ身体強化フィジカル・エンチャントありの話だけど。


 あの人ゴリラだと思っていたけど、やっぱりゴリラだった。


「ぐぎぎぎぎぎ」


 ハイオークが後退りする。


「ど、どうした……ハイオーク……あいつを始末しろ」


 ハイオークと目が合う。


 やつは体をプルプルと震わせた。


 どちらのほうが強いのか、ちゃんと理解しているようだ。


 生物としての本能には逆らえないらしい。


「グがっ!」


 ハイオークが背中をみせて逃げ出した。


 まあハイオークなんてどうでもいいけど、このまま逃したら周りに迷惑かけるだろうな。


 俺は右手に魔力を込め、逃げるハイオークに照準を合わせた。


 そして――


――火球ファイア・ボール


 火球がハイオークに向かってまっすぐに飛んでいく。


「ぐがっ……!」


 火球がハイオークに胸を貫いた。


 そしてハイオークが倒れる。


 あとでこいつ食えるかな?


「残りはあんただけだけど、どうする?」


「貴様……私のもとで働く気はないか?」


「は?」


 こいつ、頭湧いてんの?


「金ならある! 貴様らだって金が欲しいだろ?」


「いや、いらんけど」


 実家に帰れば、たくさん金あるし。


 ……て、そういえば俺、実家に帰れなくね?


 帰ったら殺される気がしてきた。


 だって、父上が敵なんだし。


 つまり俺、いま実家と絶縁中?


 やべっ。


 やっぱ金ほしくなってきたわ。


「じゃあ、奴隷はどうだ? 私は奴隷商人だ。新鮮な奴隷ならたくさん持ってる! 貴様の好みの奴隷をくれてやろう!」


 こいつ、奴隷商人だったんだな。


 まあ、そんな気はしてたけど。


「あ、じゃあ一匹欲しい奴隷がいる」


 男がニヤリと笑った。


「なんだ? なんであるぞ? 人族、魔族、亜人。屈強な者から、子供までなんでも揃ってる。美しい娘がいいか? それなら――」


 俺は男を指さした。


「あんたを奴隷にしたい」


「…………は?」


「ダメなのか?」


「だ、ダメに決まってるであろう!」


 まあ、ぶっちゃけいらないんだけどね。


 だってこいつ、いたところで役に立たなそうだし。


「なら、仕方ないよな」


 俺は男に右手を向けた。


 いつでも魔法放てますよっていうアピールだ。


 こんなことしなくても魔法放てるんだけどね。


「くっ……私にそんなことすれば、どうなるかわかっておるのか?」


「え、どうなるの?」


「あの猫人族ワーキャットをころすぞ?」


 俺はちらっと周りを見る。


 ミーア、テトラ、そしていつの間にか現れたシャーロットがいた。


 シャーロットがウィンクしてきた。


 よし、大丈夫か。


「やってみろよ」


「いいだろう」


 でっぷりとした男が少女を見る。


「恨むならこやつらを恨むんだな、小娘」


 少女がちいさく悲鳴をあげる。


「やっ……」


解放リベラシオン!」


「い、や――」


――ドンッ


 猫人族の首輪が爆発した。


 だが……。


「な、なぜだ!?」


 少女は無傷だった。


「うちには優秀な結界使いがいてね」


 事前に、狼男から奴隷の首輪の効果を聞いていて良かった。


 じゃなかったら、今頃少女の首が飛んでいた。


 物理的に。


「馬鹿な! 奴隷の首輪だぞ!?」


「うちには優秀な結界使いがいてね……って、このくだり二回もやらせるなよ」


「くっ……」


「つーわけで、一発ぶん殴らせろや」


 俺は男に向かってゆっくりとあるき出す。


 右腕をぐるぐると回す。


 そういえば、ハンターハ〇ターの世界に腕をぐるぐる回すと、パンチの威力が上がるやついたな。


 俺も同じことできるかな?


 ひとまず右腕に魔力を込めてみる。


「や、やめろ! 来るな!」


 男の顔が恐怖に染まる。


「なあ? 一つ教えてくれよ」


「な、なんだ……?」


「いままでにそう言ってきた子たちを、お前はどうした?」


 こいつの悪行はすでに狼男から聞いている。


 最低最悪の所業だ。


 子どもたちを捕まえ、魔物に襲わせるなんて、聞いただけでも反吐が出る。


「はっ。絶望した顔を楽しませて――ぶぼごへっ!」


 俺は男の顔を思いっきり殴った。


 男が後ろに飛んでいく。


 でっぷりとした男の顔が、不自然に歪んだ。


 顔の骨が折れてるだろうな。


 正直、もう10発くらい殴っときたいけど、それじゃあ死にかねんからな。


 我慢しよう。

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