第82話 完成度高くね?

 砂浜に戻ると、テトラがものすごいものを作っていた。


 砂で作られたお城だ。


 お城作りって砂遊びの定番だよね。


 でも一ついい?


「完成度高すぎじゃね?」


 俺が持っていた砂の城のイメージは、砂の山作って、中開けて、トンネル作って完成だ。


 だが、テトラの作った城は完成度が異様に高かった。


 塔が3つ並んでおり、真ん中の塔が最も高く、1.5メートルくらいもある。


 ミーアよりも高そうな塔だ。


 大きいだけでなく、隅々まで丁寧に作られている。


 各部屋にはしっかりと窓が作られており、塔と塔をつなぐ通路もある。


 城の横には、小さな銅像があり、英雄のような格好を立っている。


 なんとなくそいつの顔が俺に似てる気がするけど……。


 気のせいだよね?


「これどうやって作ったんだ?」


「土魔法の石化を使いながら作りました。城は本で得た知識をもとにしています」


 いや、すげーな。


「意外な才能があるんだな」


「そうですか?」


「うん。これはお金の匂いがプンプンする」


 テトラと手を組んで、金儲けでもしようかな?


 この完成度なら普通に稼げる気がする。


 動画配信なんかにアップロードすれば、かなりの視聴回数が稼げそうだ。


 まあ、この世界には動画配信はないんだけどね。


 それに稼げたとしても、魔法の研究と比べると微々たるものだ。


 魔法の研究では、一つの魔法を開発しただけで、運が良ければ一生食べていける。


「お金には興味ありませんが、こういうの作るのは楽しかったです」


「そうか。じゃあテトラは芸術肌なんだな」


「……? そうでしょうか?」


「少なくとも俺よりは得意だよ」


「ありがとうございます」


 テトラが無表情ながら嬉しそうにする。


 最近、テトラの気持ちがわかるようになってきた。


 テトラ検定があれば、一級を取れる気がする。


 と、その瞬間だ。


 ビーチボールが飛んできた。


 ひゅーん、どんっ。


 城に当たった。


「………………」


 空気が凍りつく。


 テトラの肩がプルプルと震えている。


 無表情で怒りを顕にしている。


 君、さっきから無表情なのに器用だね?


 って、冗談言える状況じゃないな。


 城がぶち壊されたんだし、怒るのも当然だよな。


 テトラがゆっくりと振り返る。


「なにを、やっているのでしょうか?」


 ビーチボールで遊んでいたミーア、クラリス、ジャンが顔面蒼白になっている。


 特にミーアの顔がヤバイ。


 真っ青だ。


 あ、これ犯人はミーアなんだ。


「ご、ご、ご、ごめんなさい!」


 ミーアが頭をバサッと下げる。


「謝ってすむなら、騎士団はいりませんよね?」


 謝ってすむなら警察はいらないってこと言いたいの?


 てかテトラさん、こわいです。


 無表情なのが、余計こわいです。


「すみませんでした!」


 ジャンが土下座をする。


 君、土下座がキレイだね。


 もしかして、土下座慣れとかしてる?


 貴族なのに?


「だから謝って済むなら――」


 シャーロットが現れて、テトラの肩をポンポンと叩いた。


「まあまあ怒る気持ちもわかるけど、一旦落ち着いて。彼らも悪気があったわけじゃないもの」


 さすがは生徒会長。


 こういう事態を収めるのが上手そうだ。


 ていうか、テトラがこんなに感情を表に出すなんて珍しいな。


 最近少しずつだけど、感情が豊かになってきている気がする。


 相変わらず無表情だけど。


 やっぱり周りに人が増えたからかな?


 他人と関わるって大事だね。


「怒る? 私は怒っていませんよ?」


 え、テトラさん自覚ないの?


 めちゃめちゃ怒った雰囲気出してるじゃん。


 周囲の温度を二、三度くらい下げるからね?


「じゃあいま、どんな気持ちなのかしら?」


「モヤモヤします。腹の底から、何かが湧き出るような……そんな気持ちです」


 すごい詩的な表現だね。


 怒りをそうやって表現する人、初めて見たわ。


「それが怒りよ」


「……」


 テトラが黙る。


 シャーロットがぽんと手を叩いた。


「こういうときは仲直りが必要よね。というわけで、みんなでビーチバレー対決しましょう!」


「対決? それは負けられんな。今度こそ勝てせてもらうぞ、アラン」


 オリヴィアが首をポキポキ鳴らしがながら現れた。


 どうやらオリヴィアは、さっき俺に負けたことを気にしているようだ。


 負けず嫌いなんだな。


 まあ俺も負けるのは嫌だけど。


 ビーチバレー対決、全力でやらしてもらおう!

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