第77話 主演男優賞

 俺たちは正方形の部屋に案内された。


 薄暗い部屋で、八人もいるとかなり狭く感じる。


 床には紫色の魔法陣が刻まれていた。


 魔法陣の中央にはポッカリと穴が空いている。


「魔女の匂いがしますね」


「魔女? 魔人じゃなくて?」


 シャーロットが首をひねる。


「え、魔人ってなんです?」


 初めて聞く単語なんだけど。


「400年前に人々を苦しめた存在よ」


「魔法史の授業で習っただろうが」


 イアンに注意された。


 たぶんその授業、今の俺になる前に受けたから、覚えてないんだと思う。


 それより、俺ってイアンとどんな感じで接してたっけ?


 嫌われてたのだけは覚えてる。


 まあいいや。


 普通に、今の俺としてイアンに接していこう。


「へぇ、そうなんですね。知らなかったです。さすが兄上! 凄いです! センスありますね!」


 とりあえず、ゴマをすっておく。


 これが日本のときに習った、褒めの言葉の『さしすせそ』だ。


「貴様……気味が悪いぞ?」


 イアンに冷たくされた。


 やっぱり俺はイアンに嫌われているらしい。


「二人とも喧嘩しないで。楽しいバカンスが台なしよ?」


「い、いえ……これは喧嘩ではなくて……」


 ほほぅ、なるほど。


 イアンはシャーロットには弱いのか。


 いいこと知ったぜ。


 これは使わない手はない。


「うえーん、兄上にひどいこと言われたよー」


「おい、アラン。嘘泣きするにしても、もっとうまく泣け。さすがに棒読みすぎて気持ち悪い」


 オリヴィアに怒られた。


 え、なんで?


 主演男優賞級の演技だと思ったんだけど。


「わかりました。次は迫真の嘘泣き披露します」


「そんなことはせんでいい……。それよりシャーロット。さっさとプライベートビーチに行くぞ」


 なんかオリヴィア、めっちゃ乗り気じゃん。


 サングラスまでかけてきちゃってるし。


「そうね。じゃあみんな、この魔法陣の上に立ってね」


「はっ、まさか僕たちを実験台にしようと……!?」


「アラン。少しは黙ったほうが良いと思う」


 お、おう……。


 クラリスにも言われてしまった。


 まるで俺がおしゃべりみたいじゃないか!


「私はアランくんの話聞くの好きですよ?」


 ミーアがこそっと言ってくれた。


 この子、マジ天使。


「それじゃあ行くけど、一つだけ注意事項があるわ。魔法陣の中からは絶対に出ないでね。ここから出ると、変なところに飛ばされてしまうから」


 シャーロットはそう言うと、魔法陣の真ん中に立った。


 そして彼女は、服の中から魔石を取り出し、ぽっかり空いた穴に魔石を埋め込んだ。


 次の瞬間、魔法陣がまばゆい光を放った。


「……うっ」


 俺はとっさに目を閉じる。


 直後、気持ちさを覚えた。


 乗り物酔いのような感覚だ。


 頭がぐるんぐるんし、吐き気がする。


 しばらくすると、光が収まった。


「はい、到着」


 シャーロットがそういう同時に、俺はゆっくりと目を開けた。


「え? 変わっていませんけど」


 さっきと同じような部屋に見える。


「いえ。ここがプライベートビーチよ」


 シャーロットが、バンッ、と扉を開けた。


 扉の向こうには南国チックな部屋があった。


 そして、窓から青い海がみえた。


「まさかこれ……瞬間移動ってやつですか?」


「正確には空間転移ね。座標と座標を結び、その間を移動したの」


「なるほど」


 固有結界などの一部の結界魔法では、空間魔法が使われる。


 結界魔法を得意とするヒュター家なら、空間転移の魔術を使えても不思議じゃない。


 まあ、そんなこと今はどうでもいい。


 それよりも大事なことは、俺たちが海に来たってことだ。


 よっしゃあ!


 テンション上がってきたぁ!


 遊びまくるぜぇぇぇ!

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