第62話 化け物

 アーノルドは決して実力がないわけではない。


 砂嵐サンド・ストームで視界を悪くし、砂撃サンド・ショットでヒットとクリティカルを狙う。


 これが彼の必勝法であった。


 砂に覆われた視界でも、魔力を目に集中させることで、魔力の流れを感知できるようになり、相手の場所を把握できる。


 この魔力操作は上級生でもできる者は少なく、アーノルドが得意げになるのも無理はなかった。


 加えて砂嵐サンド・ストームは難易度の高い魔法だ。


 土と風の複合魔法であり、効果が地味なわりに使用難易度が高く、中級魔法に分類される。


 ちなみに魔法には初級、中級、上級、特級、神級の5段階のレベルがあり、一年生のこの時期に中級魔法を会得している者は稀だ。


 つまり、アーノルドは一年生の中では、かなりの実力者であり、彼が傲慢になるのにも理由があったということだ。


 アーノルドは個人戦でも上位を狙える実力を備えていた。


 そして意気揚々と挑んだ新人戦。


 彼は絶望を味わうこととなる。


「ッ……当たらない」


 アーノルドは焦り始めていた。


 砂撃サンド・ショットがアランに当たらない。


 さすがに視界が悪い状況では、目に魔力を込めたところで、砂撃サンド・ショットの精度は低くなる。


 そもそも目に魔力を集中させながら詠唱魔法を使うのは、かなり難易度が高く、狙いが定まらないのも当然であった。


 しかし、何発か撃てば一発は当たると思っていた。


 だが、そのすべてを避けられていた。


「運だけは良いようだね。でも、次こそは当てるよ」


 アランに向けて砂撃サンド・ショットを放とうとする。


 しかし次の瞬間、アーノルドは違和感を覚えた。


 体が熱い。


「クリティカル!」


 審判の声が聞こえてきた。


 アーノルドは一瞬、理解が追いつかなかった。


 だが、直後に気づく。


 体が燃えていた。


 遅れて灼熱がアーノルドを襲った。


「うぐ……ああああァァァァ」


 アーノルドはあまりの熱さに悲鳴を上げる。


 だが、火は一瞬で消えた。


「ぐぅ……ふぅ、ふぅ……。なんだったんだ、今のは」


 アーノルドの疑問に答えを返してくれる者はいない。


 その代わりとして、真横から火球が飛んできた。


「があっ……!?」


 火球がアーノルドの腹に直撃する。


「クリティカル!」


 一気に4点を奪われた。


「何がどうなってんるんだ!」


 アーノルドは焦りと苛立ちを覚える。


――この視界の中、僕をピンポイントで狙ってくるだって? そんなの不可能に決まってる! そんな芸当、一年生でできるはずがない。


 そこでふと、アーノルドはジャンの言葉を思い出した。


『お前らはアランの強さを知らないようだな。こいつはバケモンだぞ?』


 あれはハッタリだと思っていた。


――だけど……もし本当に化け物並の強さだったら?


 前方から、火球が飛んできた。


 その大きさにアーノルドは目を見開く。


――でかいすぎる……!?


 アーノルドは大きく横に飛び、火球を避ける。


 しかし、その直後だ。


「ぐあっ」


 真後ろから飛んできた火球が、背中に被弾した。


「クリティカル!」


 三連続でクリティカルを与えてしまった。


 スコアは0-6だ。


 あと一点でも取られたら負ける。


 だが、アーノルドはすでに点数を気にしている余裕はなかった。


――どこだ! どこから来ている!?


 火球の飛んでくる方向が全部バラバラだ。


 まるで複数人を相手にしているようだった。


「――――」


 短い沈黙が落ちた。


 アーノルドは、どこから攻撃が来ても避けられるよう、全ての方向に意識を向ける。


 すると直後、足元から魔力を感知した。


「……ッ」


 アーノルドはとっさの判断で、横にジャンプする。


 次の瞬間、アーノルドの立っていた場所が燃えていた。


――危なかった。


 極限の状態の中、アーノルドは普段以上の力を発揮していた。


――僕はまだやれる。


 そう思った直後だ。


「やあ。アーノルド・シュタインガーデンくん」


 いつの間にか、アランが目の前に立っていた。


「………………は?」


 アーノルドは、接近されたことに全く気づけなかった。


「君もなかなか頑張ってるようだけど、ここまでだね」


 アランが笑う。


 アーノルドの表情が絶望に染まった。


 そして次の瞬間、


「……ごぶふっ」


 腹に衝撃が走った。


 アーノルドは痛みに耐えきれず、両膝を地面につけた。


 そして、


「クリティカル! 勝者! アラン・フォード!」


 審判の声が会場に響き渡った。

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