第48話 ストーカーはやめとけ

「というわけでミーア。ジャンをよろしく」


「というわけってどういうわけですか? ちゃんと説明してください」


 ミーアがジト目で見てくる。


 俺の後ろではジャンが所在なさげに立っている。


「ミーア塾に通いたい人がいたので連れてきました」


「ミーア塾ってなんですか? 勝手に塾開かないでください」


「弟子一号として塾を広げるため尽力していたきたいです」


「もっと意味がわからないです。アランくんってたまにわかりにくいこと言いますよね?」


 え、そう?


「まあそれもいいところなんですけど」


 え、褒められた?


 やった。


 俺、褒められて伸びる子なんだよね。


 もっと俺に褒め成分をくれ!


「ジャンが魔力操作を習いたいらしいんだけど、俺よりもミーアのほうがそういうの上手いだろ? だからミーアに教師役をお願いしたい」


 ミーアがちらっとジャンを見てから、俺のほうに視線を戻す。


「そういうことですか……。それなら私は構いませんが」


 良かった。


 ミーアがダメだと言ったら、ジャンがなんと言おうが突っぱねるつもりだったから。


「彼は良いのですか? 私なんかに教えられるのはイヤじゃありません?」


「大丈夫だよな? ジャン」


 ジャンがミーアを見る。


「今まで本当にすみませんでした」


 まず謝罪か……。


 そのストーレートさは大事だよ、ジャンくん。


 まあそれが短所でもあるんだけど。


「……なにを謝っているのですか?」


「ミーア様の風紀委員での活動をずっと見ておりました」


 おい、ジャン。


 お前、ミーアもストーカーしてたのか。


 さすがに女の子を追いかけるのは犯罪だろ。


 燃やしたろか?


「アランくん。ちょっと冷静になってください」


「え、なにが?」


「彼が怯えています」


 ジャンが俺から距離を取っていた。


 なんで?


 とりあえず鏡の前で練習したスマイルでもするか。


「はあ……まあいいです」


 ミーアが呆れたようにため息をつく。


 ふむふむ、まだ笑顔の練習不足かもな。


「それで……なぜ私を見ていたのですか?」


「風紀委員の活動にケチをつけようと思い、あなたの姿を目で追っていました」


 あなたの姿を目で追う?


 それって、もっとロマンティックな状況でいう言葉じゃない?


 間違ってもストーキングのときに使う言葉じゃない。


 てか、足引っ張ろうとしてたの?


 お前、嫌な奴だな。


「でも、ミーア様の働きをみて、足を引っ張ろうとする自分が恥ずかしく思えてきました」


「……」


 ミーアが黙ってジャンの話を聞く。


 うんうん、ジャンくん。


 改心するのは良いことだけど、やっぱりストーカーは良くないよ?


 あと君、もしかして隠密行動とか得意?


 アサシンの素質あるかもね。


 俺だって、ジャンのストーキングに全然気づかなかったし。


 ジャンの独白が続く。


「魔族だからと言って、ミーア様のことを最初から否定していました。私は何も見えていませんでした」


 ふむふむ。


 やっぱりジャンって、この世界の主人公だったりする?


 ちゃんと成長してるところとか、自分の非を認めて素直に謝る姿勢とか、主人公感があるんだけど。


 俺のポジション奪わないで。


 いや、むしろ主人公にジャンにやらせて、俺は悠々自適な生活を送るのもありかもしれない。


 スローライフ万歳!


「魔族というだけでミーア様を蔑んでいたのは、私の過ちです。今まで本当にすみませんでした」


 ジャンが深く頭を下げた。


 45度くらいか……。


 それは最敬礼ってやつだな。


 俺も会社員時代にヘマしたときは、頑張って頭下げてたな。


 懐かしい。


「変わっていくのですね」


 ミーアがしみじみと言った。


 そして彼女は続けて言う。


「ずっと変わらないものだと思っていました。私は魔族だから、ずっと差別され続けていくものだと。しかし、それは間違いだったようです」


 ミーアが俺のほうを向いた。


「すべてアランくんのおかげです。本当にありがとうございます」


 え?


 なんで俺?


 別に大したことやってないけど。


 むしろ俺のほうがミーアにお世話になっている。


 ミーアがジャンを見て、優しく微笑んだ。


「ジャンくんもありがとうございます」


「……」


 ジャンがゆっくりと顔をあげる。


 ジャンとミーアの目が合った。


 すると、ジャンが顔を赤くして言った。


「……こちらこそありがとう」


 ん?


 あれれ?


 その反応はなにかな?


 もしかしてジャン……ミーアに惚れちゃった?


 お前クラリスが好きなんじゃないの?


 まさか相手が美少女ならなんでもいいのか!?


 そういう節操なしのところ良くないと思うよ!


 ミーアの笑った顔は可愛いけどさ!


 お前、ミーアに手出したら燃やすからな?


 覚悟しとけよ?


「アランくん。そんな怖い顔しないでください」


「あ、はい。ごめんなさい」


 俺、そんな怖い顔してた?


 怖がられないように、変顔の練習でもしよう。

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