第47話 かっこよすぎるだろ、お前

 ジャンから訓練を頼まれてから二日後。


 俺はジャンと一緒に訓練場に来ていた。


 ちなみに対抗戦のルールは少し特殊だ。


 点数で勝敗が決まる。


 試合時間は30分で7点先取したほうが勝ち。


 もしくは30分経った時点で点数が多いほうが勝ち。


 ヒットとクリティカルヒットがあり、ヒットの場合は1点、クリティカルヒットの場合は2点。


 30分以内に決着がつかない場合は、個人戦なら延長戦があり、団体戦なら引き分けになる。


 延長線は10分で2点先取したほうが勝ち。


 延長戦で決着がつかない場合は、クリティカルヒットの多さが勝敗を決める。


 それでも勝敗がつかない場合は、審判の判断となる。


 審判のさじ加減が試合に大きく影響を与えるらしい。


 簡単にクリティカルを出す審判もいれば、ヒットすらなかなか出さない審判もいる。


 審判が買収されて、明らかにクリティカルヒットなのにヒットすらつかないこともあったとか。


 近年、八百長が少なくなってきてるらしいが、貴族の子息令嬢が多く通う学校のため、いまだに八百長は存在する……とオリヴィアが言っていた。


 と、それはさておき。


 要は相手よりも先に7点を取ってしまえば、勝てるというわけだ。


 実戦ではどうにもならないような相手でも、試合なら勝てることもある。


 だが、やはり実力差はそうそう覆せるものではない。


「くっ……やはり勝てないか」


 ジャンが呼吸を荒くしながら呟く。


 俺とジャンは本番を意識しながら、模擬戦を行った。


 結果は俺の圧勝。


 ちなみに点数はお互いの判断でつけることにしてる。


 つまり、なんとなくってことだ。


「アランは強いな」


「ジャンもいい感じだったよ」


「お世辞はよせ。手加減されたのに完敗だ。何の言い訳もできない」


「ジャンは弱かったよ」


「ストレートにいうな……傷つくだろうが」


 じゃあどうすればいいんだよ。


「ジャンは良くも悪くもなかったよ」


「それが一番傷つく言い方だ。って、もういい。俺のどこがダメだった?」


「う~ん……」


 問題点はいくつかある。


 でもそもそもの話、力不足だ。


 もう少し魔力操作をレベルアップさせないと、何やっても付け焼き刃な気がする。


 ただ強いていうなら……


「予想外のことが起こると対応が遅れがちになる」


「それは俺もわかっているんだが……。どうしても体は固まっしてしまう」


 ジャンって柔軟性がないんだよな。


 とっさの判断とか苦手そうだし。


「そういうアランはあんまり動じなそうだな」


「そうか?」


「ああ。飄々としてるイメージだ」


 え、そうなの?


 結構、感情が出やすいと思ってたんだけど。


「あと、たまにおっかない」


 おっかなくはないでしょ。


 俺みたいな人畜無害なやつなんて、ほとんどいないと思う。


 地球平和ばんざ~い!


「なあアラン。このままで大会に間に合うのか?」


 ジャンが表情に焦りをにじませる。


 いやいやジャンくんよ。


 まだ訓練初めて一日目だよ?


 そんなに焦らなくてもいいんじゃない?


 って思ったけど、対抗戦までそんなに期間ないんだよなー。


「間に合うかどうかはわからんけど、地道にやっていくしかないんじゃない?」


 いきなり強くなるなんて、普通は無理だし。


 あ、でも俺はいきなり強くなってるな。


 やばっ。


 俺の言葉に、説得力が無いんだけど。


「地道にか……わかっていることだが、どうしても焦ってしまう。お前はどうやったんだ?」


「なにを?」


「どうやって短期間で強くなった?」


 無詠唱魔法のおかげかな?


 いやでも、あれは話したところで再現性ないしな。


 あとは魔力回路が開いたおかげだろうな。


「俺の場合はかなり特殊だぞ。ミーアの事件、覚えてるか?」


 ミーアの事件というと、ミーアが悪いことやったみたいで少し嫌なんだけど……。


 まあそう言うしかないから仕方ない。


「あ、ああ……故意に魔力暴走を引き起こされたというやつだな」


「あのときに死ぬほどの魔力出したんだ。もはや三途の川に片足突っ込んでたけどね」


「三途の川? なんだそれ?」


 そっか。


 三途の川は伝わらないのか。


 この世界、言葉が伝わったり、伝わらなかったりしてめんどくさい。


「一途の川のことか?」


 いや、なんだよそれ!?


 片思い中か何かですか?


 一途と三途じゃ、全然意味違いますからね!?


「いや、まあ死にかけたってことだ」


「えっと……それは大丈夫だったのか?」


「なんとか。でもそこで一気に魔力を放出したおかげで、魔力回路が開いたんだ。扱える魔力量も格段に増えた」


「……なるほど。それは俺もやれるものだろうか?」


「やめとけ。死ぬぞ?」


 冗談抜きで、マジで死ぬからな?


「大丈夫。覚悟の上だ」


「いや大丈夫じゃない」


「でも時間がないんだ」


 ジャンが切実にお願いしてくる。


 いや、そんなこと言われてもマジで危険なんだよ。


「こればっかりは無理だ」


「……そうか」


 すまんな。


 さすがにジャンに一途の川とやらを渡らせる気はない。


 てか、一途ってなんだよ。


「魔力回路を開く訓練なら、俺よりもミーアやオリヴィアのほうが向いてる。ジャンがもし本当に強くなりたいなら、彼女たちに頼むべきだ」


「……」


 オリヴィアはともかく、ミーアに頼むのは無理だろうな。


 ジャンって魔族のこと嫌いらしいし。


 それに関しては、もうしょうがないと思っている。


 価値観はそんな簡単に変わるものじゃないし。


 って、昔のジャンが自分で言ってたくらいだもんな。


「魔族……いや……ミーア様にお願いしても良いだろうか?」


 え?


 マジ?


 ジャンくん、本気で言ってます?


 頭おかしくなった?


「そんなに驚くこともないだろう」


「あ、ああ。すまん……え? 本気で言ってる?」


 頼むとしても、オリヴィアだと思った。


 魔法使いに二言はないんじゃなかったっけ?


「彼女には謝りたいこともある」


 謝りたいこと?


 それってミーアを侮辱したことを言ってるのか?


 あのときは俺もカチンと来たけど。


 マジで燃やしたろうか、と思った。


 てか、こいつカッコ良すぎるだろ。


 実はこの世界、ジャンが主人公だったりした!?


 俺の主人公の座を奪わないでくれ!


「わかった。じゃあまた今度……」


「今から会えないだろうか?」


 いや急過ぎるだろ!?

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