第37話 夢?

 オリヴィアと一緒に風紀委員の部屋でゆっくりしている。


 いや、ゆっくりはしてないか。


 仕事してる。


 マジでこの学園、事件が多すぎる……。


 最近は魔導部の騒ぎがあった。


 魔法道具マジック・アイテムに刻まれてる魔法陣をイジったらしく、アイテムが暴走して大変なことになった。


 マジで死者が出るかと思ったわ。


 危険な魔法道具なんか作るなよ、魔導部め。


 あと学校側も、もう少ししっかりと取り締まれよ。


 それと魔導部の連中、囚人用に使われる特殊な手錠を保管してたらしい。


 手錠は使用者の魔力を封じるもので、一般人が所持するためには許可が必要な魔法道具マジック・アイテムだ。


 手錠をなくしたとか言って騒いでた。


 なんてもの持ってるんだよ。


 あとなくすなよ。


 はあ……もう帰りたい。


「そういえばミーアの件、調査は進んでいるんですか?」


 俺は事務処理をしながら、オリヴィアに尋ねる。


「まだだ」


 まだなんかい。


 もう一ヶ月以上も経つやん。


 犯罪者が学園内にいるとなると、夜もこわくて眠れんわ。


 最近は毎日8時間寝てるけど。


 寝る子はよく育つ!


「そもそも認識阻害のローブって、そんなに簡単に手に入るもんなんですか?」


「いや。認識阻害は干渉系の中でも高度な魔法だ。当然、術式も複雑になる。ミーアの目を欺くほどの認識阻害ともなれば、そう簡単には手に入れまい」


 なるほどね。


 認識阻害って、地味な魔法の割に難しいんだ。


 あ、でも認識阻害って極めれば幻術とかできるんじゃね?


 幻術とか夢が広がる。


 俺も万華鏡写○眼やってみたい。


「オリヴィアさんも干渉魔法得意なんですよね? 認識阻害使えるんですか?」


「一応はな」


「なんか悪巧みとかできちゃいそうですね」


 女子風呂の覗きとかできるんじゃね?


 認識阻害で自分を女に見せるとかやれば、イケそうな気がする。


 いやオリヴィアは女子だから、覗いても意味ないか。


「私を犯人だと疑ってるのか?」


「え、ぜんぜん思ってませんけど」


 まったく一ミリもそんなこと思ってない。


 オリヴィアが犯人?


 ありえんでしょ。


「ならいいが」


「思ったんですけど、魔術師が犯人なんじゃないですか? 黒ローブも短剣も魔術が施されていたわけですし」


「もちろん、その線もある。だが魔術に明るくなくても魔法道具マジック・アイテムを使うくらいなら誰にでもできるからな。下手に犯人を絞り込まないほうが良い」


「……そうですね」


 はあ……。


 結局手がかりはなしか。


 はやく犯人捕まってくれんかなー。


 ミーアにあんなことした野郎をぶん殴りたいし。


「早めに捕まると良いですね」


「そうだな」


 もしそいつと出くわしたら、誤って燃やしてしまうかもしれない。


 だからなるべく出会いたくない。


◇ ◇ ◇


 寮に帰ってきた。


 ふっ、疲れたぜ。


 でも、今日はなんと金曜日!


 花金ってやつだ!


 イエア!


 花金かぁ。


 前世でサラリーマンだった頃が懐かしい……。


 仕事終わりのビールは美味かったな。


 ビールでも飲めたら最高なんだけど、この国、18歳からじゃないとお酒飲めないんだよな。


 はあ……お酒が欲しい。


 他の国なら、もっと早く飲めるらしいし、いっそ移住でもしよっかな。


 いやそれなら18歳まで待ったほうが楽か。


 てか、社会人でもないのに、こんな労働してる時点でおかしい。


「あ~。もう風紀委員辞めてぇ」


 ベッドでごろんとなる。


 布団が気持ちいい。


 疲れたぁ。


 お風呂入らないと……って、まあいっか。


 一眠りしよう。


◇ ◇ ◇


 ぽたぽたと水滴が落ちる音がする。


 ……ここはどこだ?


 薄暗く、じめじめした場所に俺は立っていた。


 ん?


 なんだ?


 体が勝手に動くぞ。


 足音を立てないようゆっくりと進んでいく。


 夢か?


 それにしてはかなり現実味がある。


 階段を下ると、その先に扉があった。


 静かに扉を開ける。


 室内には黒ローブの男がいた。


「あぅ……あっ」


 少女の苦しそうな声が聞こえてくる。


 男が少女の首を握りしめていた。


「下手な真似はするなよ? 間違って殺してしまうといかんからな」


 男の低く冷たい声が暗い室内に響いた。


◇ ◇ ◇


 パッと目が覚めた。


「はあはあ……」


 体中がベタベタだ。


 すごい量の汗を掻いている。


 なんだったんだ、今のは……。


「夢……なのか?」


 夢にしては、かなり鮮明に覚えている。


 まるで、すでにアランが体験してきた記憶を見せられているかのような感じだった。


「ゲームの力か?」


 主人公である俺に、運命ゲームが見せてきた夢の可能性がある。


 だとしたら、なんのために?


 原作通りに生きろ、というメッセージなのか?


 わからない。


 だが、夢の光景は現実に起こり得る。


 もしくは、すでに起こっている可能性がある。


「テトラ……」


 夢で出てきた少女は俺の妹だった。


「誰かに話すべきか? ……いや止めよう」


 なんとなくだが、そんな悠長なことをしていられない気がする。


 島は広い。


 短時間で妹を探し出すのは、かなり骨の折れる作業だ。


 でも、なぜか妹の場所がわかるような感じがした。


 理由はわからない。


 強いて言うなら、アランの体が覚えているということだ。


「なんなんだよ、ホントに」


 わからないことだらけだ。


 でもいまは動くしかない。


 俺は寮を飛び出し、夢で見た場所へと向かった。

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