第2章 風紀委員編

第28話 風紀委員

 2週間が経過した。


 ミーアの謹慎が無事解けた。


 でも以前より、ミーアに対するあたりが強くなっているような気がする。


 もしかして風紀委員入っても意味なかった?


 風紀委員ってやつに、ちょっと期待しすぎてたわ。


 現実はそんなに上手くいかないらしい。


 ミーアは気にしてないようだし、俺が気にしても仕方ない。


 てか、ミーアのメンタルが羨ましい。


 俺みたいな豆腐メンタルは、一人ぼっちというだけで恐怖を覚えるのに……。


 この世界にステータスがあったら、俺の精神は多分マイナスだと思う。


 なんならミーアさん、謹慎が解けてからメンタル強くなってません?


 前は何か言われたらビクビクしてたのに、今はまるで気にしてないようだ。


 と、それはさておき。


 俺はミーアと一緒に、風紀委員に充てがわれた部屋でぼけっと立っていた。


 いや、ぼけっとしてるのは俺だけか。


 執務机には、天秤が置かれている。


 オリヴィアが高級そうな椅子に座り、肘を執務机に載せながら両手を組んでいる。


 うむ。


 なかなか様になっている。


 俺が同じことやっても小悪党が出るだけだ。


 そんなオリヴィアに噛みつくように、ジャンが吠える。


「なんでこんなやつらが風紀委員なんですか!」


 ジャン頑張ってるなぁ。


 ていうか、ジャンも風紀委員だったんだな……。


 知らんかったわ。


 まあでも、ジャンって一応優秀らしいし、風紀委員に選ばれていてもおかしくないか。


 むしろ俺のほうが違和感がある。


「こんなやつらとは、どんな奴らだ?」


「落ちこぼれと……人食いです」


 おい、ミーアは良いけど俺を馬鹿にするな!


 あっ、逆だった。


 俺は良いけど、ミーアを馬鹿にするなよ!


 って思ったけど、言われた当の本人はまったく気にしてないふうだった。


 俺がミーアを見ると、ニコニコした笑顔を向けられる。


 最近、この子の笑顔が増えた気がする。


 この状況で笑ってると、逆に不気味だよ?


 よっぽど風紀委員に入れたのが嬉しかったのか?


「ほぅ。ではアランとミーア・・・よりも自分のほうが優秀だと?」


「当然です!」


 ジャンが胸を張るって答える。


 うん、やる気があって良いことだね。


 俺とは正反対だ。


 実は俺、別に風紀委員とかあんまり興味ないんだよね。


 ミーアの退学を止めるために、風紀委員に入っただけだし。


 でもよくよく考えたら、ミーアって風紀委員に入らなくても退学しなかった気がする。


 ……俺が勝手に迷走して、勝手にミーアを風紀委員に入れちゃったってことか?


 いやでも、あれだ。


 風紀委員にいたほうがきっとミーアのためになる。


 うん、そう思っておくことにしよう。


「お前の言いたいことはわかる。しかし、今の風紀委員は人手不足でな。知っているだろ?」


「知っています。ですが、落ちこぼれのアランと穢らわしい魔族を入れるなんて、どうかしてます!」


 おいおいジャンくんよ。


 ミーアを穢らわしい魔族と言うのはやめてくれない?


 ミーアはあんまり気にしてなくても、俺が気にするよ?


 あとでお前、燃やすからな。


 覚悟しとけよ。


 って思ってたら、ミーアが俺の横腹をツンツンとしてきた。


 ん? なにかな?


「アランくん。ちょっと怖いです」


 え? マジで?


 いや~、しまった、しまった。


 笑顔って大事だよな。


 口の端をニィーッと釣り上げてみる。


「やめてください。余計こわいです」


 ミーアに引かれてしまった。


 今度、鏡の前で笑顔の練習でもしておこう。


「風紀委員がどうやって選ばれるかは理解してるな?」


「実力です」


「ではなぜ実力が重視されてると思う?」


「一般生徒に負けてしまっては風紀を守ることなどできませんので」


「それが答えだ」


 たしかになー。


 いくら口でとやかく言っても、実力がなければ鼻で笑われるだけだもんな。


「私よりもこの二人のほうが実力があると言うのですか?」


「なぜ比較する? お前も風紀委員だろう」


 オリヴィアが呆れたようにため息をつく。


 ジャンよ、冷静になれ。


 別に君が使えないとは誰も言ってないぞ。


「納得ができないのです。この栄ある魔法学園の風紀委員に、この二人がふさわしいとは思えません」


「私が指名した。それでも納得できないか?」


「……はい」


 ジャンも強情なやつだな。


「千歩譲ってアランなら許せます」


 千歩譲るってなんだよ。


 せめて百歩にしとけよ。


 譲りすぎだろ。


 そんだけ譲る精神があるなら、ここも譲歩しとけ。


「ですが、魔族はダメです」


 まあそうくるよな。


「……わかった。お前がそこまで言うなら、私にも考えがある」


 オリヴィアがパンと手を叩いた。


 あ~、なんか面倒な予感がする……。


 オリヴィアが俺たちのほうみてくるし。


 目を合わさないように、顔を背けてみる。


 まあムダな抵抗なんだろうけど。


「ではジャン。アラン、ミーアの両方と戦い、彼らの実力をお前自身で確かめてみろ」


「私が二人に勝った場合、彼らを風紀委員から追い出してくれますか?」


「そうだな。その代わり――」


「もしも私が負けた場合、風紀委員を辞めます」


 オリヴィアが「はあ、なんでそうなる」と呟く。


 ジャンって、そんなに俺らと一緒に働きたくないの?


「それは許さん」


 オリヴィアがきっぱりと否定する。


 だが、ジャンの決心は固いようだ。


「なぜですか? 条件は等しくするあるべきです。風紀委員なら、なおさら」


「はっきりと言おう。お前では勝てん」


 おいおい、オリヴィアさん。


 そんなにジャン少年を煽らないで。


 彼、まだ若くて青いんだから。


 あとそんなこと言われたら、俺へのプレッシャーがすごいんだけど。


「……ッ」


 ジャンが悔しそうに顔を歪めた。


 まあ尊敬している人からそんなこと言われたらショックだよな。


 気持ちはわかるが、ジャンよ。


 ここで引き下がっておくべきだぞ。


 千歩譲る気持ちで、ぐっと堪えるんだ。


 俺ならともかく、ミーアには絶対に勝てないから。


「それがオリヴィア様の評価ですか……。わかりました。その評価が間違っていることを、証明してみせましょう」


 ジャンが俺とミーアを強く睨んでくる。


 なんでこういうことになるかな?


「と、いうことだ。アランもミーアも頑張れよ」


 オリヴィアがため息交じりに言ってきた。


 この人も苦労してるんだな。


 なんか俺たちのせいでごめん。

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