第19話 復讐

 ミーアは浮かれていた。


 アランと別れたミーアは女子寮に向かって歩く。


 彼女は最近の学園生活を楽しいと感じるようになっていた。


 こんなに楽しい時間を過ごすのは初めてだった。


 すべてはアランのおかげ。


 依然として周りから疎まれるミーアだが、アランが側にいてくれるだけで心強かった。


 アランに迷惑をかけてるかもしれないと思う一方、彼と過ごす時間を失いたくないと考えていた。


「こんにちは」


 夜の暗闇の中、突如、ミーアは後ろから声をかけられる。


 振り返るとそこには、黒いローブを着た男が立っていた。


 フードで顔を隠している。


 ミーアはフードの中の男の顔を見ようとするが、うまく認識・・・できない。


「そんなに警戒してないでください。あなたと仲良くしにきただけですよ」


 ミーアは聞き覚えのある声だと思った。


 だが思い出せない。


「認識阻害を使ってる相手に警戒しないほうが無理だと思います」


 おそらくローブに認識阻害の術式が組み込まれているのだろう。


 男の顔を認識できないようになっている。


 そもそもフード付きの黒いローブで顔を隠している男など、誰がみても怪しさ満点だ。


「それもそうですね」


「なにか用ですか?」


 ミーアはいつでも逃げられるように体制を整える。


「復讐したくありませんか?」


 復讐。


 それはかつてのミーアが望んでいたことだ。


 ミーアを化け物と罵ってくる父や祖父。


 暴言を浴びせてくる学園の生徒たち。


 見て見ぬふりをしていた人たちも同罪だ。


 誰も助けてはくれなかった。


 憎いと思った。


 彼女は何度も復讐を考えてきた。


 そのたびに思いとどまれたのは、母の影響が大きい。


 彼女の母は最期まで強く、凛々しく、そして優しい人だった。


 そんな母がいたからこそ、ミーアは本物の化け物にならずにすんだ。


 そして今の彼女にはアランがいる。


「……復讐などしたくありません。そんなこと今はもう望んでいません」


 この世界は彼女に優しくない。


 それはずっと昔からわかっていたことだ。


 それでもミーアは復讐する気にはなれなかった。


 大事なものがあるから。


今は・・・、ですか。それでは思い出させてあげましょう」


 男の口の端を吊り上げ、ミーアに近づく。


 ミーアは男への警戒を強め、牽制する。


「来ないでください。それ以上近づいたら容赦しません」


「わかりました。私・・もうこれ以上近づきません」


 男の言葉に引っかかりを感じる。


 しかし、次の瞬間――彼女は別のことで意識を奪われる。


「……ッ」


 へその上に強烈な違和感を覚えた。


――熱い。


 直後、腹が燃えるように熱を帯びた。


 ミーアは自分の腹の確認すると、短剣が突き刺さっていた。


「いつの間に……」


 男がいつの間にか短剣を投擲していたのだ。


「っ……!?」


 刺された箇所が疼く。


 傷口から何かがミーアの体に入り込んできた。


 ――なんですか。この、気持ちが悪いものは……。


 体に虫が入り込んできたような、そんな不快感を抱く。


 ミーアはとっさにナイフを引き抜こうとする。


「……抜けない」


 だが、ナイフを抜こうにも力が入らなかった。


「どうですか? 復讐する気になりましたか?」


「そんなこと私は――」


――望んでいない。


 そう言おうとしたが、声に出せなかかった。


 吐息が漏れる。


「くぅ……」


 ミーアの意識が混濁していく。


――憎い。


 頭の中で誰かがそう囁いた。


 過去が光景が脳裏によみがえる。


――殺してやる。


 ミーアの奥底に沈殿していた感情が溢れ出す。


 殺意が芽生えてくる。


――なんで私だけこんな目に遭うの?


 今までずっと虐げられてきた。


 魔族であるという、ただそれだけの理由で。


 復讐したいと思った。


 蓋をしていた感情がせきを切ったように流れ出す。


――憎い、殺したい、憎い、殺したい、憎い、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい。


「殺してやる。全部。私の手で――」


 彼女の赤い瞳が暗闇の中で爛々と光る。


◇ ◇ ◇


 ~アラン視点~


 今日も俺、頑張ったな!


 やっぱ運動って気持ちいいわ。


 魔法の訓練を運動というのかはわからんけど。


 まあでも汗かくし、運動のようなもんだろ。


 お腹の脂肪もだいぶなくなってきた気がする。


 これも全部ミーアのおかげだな。


 強化術の訓練は、魔力の出しすぎて最悪死ぬこともあるらしいし。


 教えてくれる人がいないとかなり危険なんだと。


 強化術の授業が二年生からなのも、魔力操作に慣れてない段階だと危ないからだ。


 たぶん俺ミーアに出会わなかったら自力で頑張って自信あるわ。


 あぶねぇ。


 ミーアさまさまだぜ。


「あっ、そういえばブレスレット、ミーアに返してなかったな……。これミーアの大切なものなんだよな」


 母親の形見なのに、俺の腕が太いせいで完全に形が変化しちゃってる。


 いやマジですまん。


 今度デラックスランチ奢ってあげるから、許してほしい。


 返すのは明日でも良さそうな気がするけど。


「今日中に返すべきだよなぁ……」


 こういうのはなるべく早く返したほうが良いと思っている。


 友達から借りたものって、その日に返さないと忘れちゃうんだよね。


 10年以上借りパクしてた、なんてこともよくある。


 それに相手の大事なものなら、なおさら早く返す必要があるしな。


 なくしたら取り返しがつかない。


「ミーアは今頃、女子寮かな?」


 なんか夜の女子寮ってドキドキする。


 今から何かが起こりそうな予感がしてきた。


 まさか女の子とのイベントとか!?


 俺はまだこの世界がギャルゲーである可能性を信じている。


 なんならエロゲーでも良い。


 いや、むしろエロゲーが良い!


 なんかテンション上がってきた!


 待ってろよ、俺のエロゲーイベント!

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