第18話 魔族とは

 夜の風が涼しい。


 体の熱を冷ましてくれる。


 ミーアも手でパタパタとやってくれる。


 なにこの子、かわいいんだけど。


 先輩だけど、どうみても年下にしか見えない。


 癒される。


 魔力を出す訓練は体からエネルギーがごっそり持っていかれた感じがして、かなり疲れた。


 まあこのおかげで痩せられるんだけどね。


「相変わらず、とんでもない魔力量ですね」


 ミーアがつぶやく。


「そう?」


「はい。私も多少は魔力量に自信がありましたが、アランくんと比べたら全然です。これでまだ余力があるのだから恐ろしい限りです」


「へぇ。俺ってそんなに魔力が多いんだ」


 自分では気づかなかった。


「ちょっと異常なくらいです」


「まじか」


 やっぱりアランってすごかったりする?


 一応、ゲーム主人公の一人だしな。


 マジで他のキャラよりもスペック高いんじゃね?


 いや、そういう期待を持つのはやめよう。


 でも嬉しい。


 ダメダメなキャラだと思ってたけど、意外と悪くないじゃん。


 最近少しずつ痩せて、見た目も良い感じになってきている。


 育成しがいのあるキャラっていいよな。


 ついでにこのままハーレムルートに突き進みたい。


 そんなルートはないんだろうけど。


「そういえば魔力を見る方法ってあったりする?」


「どうしてですか?」


「さっきのミーア、魔力の流れがみえてるみたいに指導してくれたから。てっきり魔力を見る方法があるんじゃないかと思って」


「そうですね。これは今度教えようと思っていたのですが、魔力を見るのは誰にでもできることですよ。もちろん、魔力を扱えることが前提にありますけど」


「え、ホントに!?」


「本当ですよ」


「俺も魔力見えるようになりたい」


「まだアランくんには早いと思います」


 まじか。


 しょぼーん。


 魔力見たかったな。


「あっ、でもやり方なら教えますよ!」


 がっくりとした俺を見かねたのか、ミーアがそう提案してくれた。


 さすが師匠。


 そういうところ好きです。


 一生ついていきます。


「へ? 好き?」


「ん?」


 もしかして思ってたことが口に出てた?


 しまったな。


 お口にチャックし忘れた。


 まあ社会の窓をチャックし忘れるよりはマシか。


「すみません。邪念が入っていました。無視してください」


「邪念? ……え~と、それで……なんの話でしたか?」


「魔力を見るって話でした」


「あっ、そうでしたね」


 心なしかミーアの顔が赤くなってる。


 もしかして好きって言葉に反応した?


 え、なにそれかわいい。


 いや待てよ。


 俺のようなデブに好きと言われても嬉しいはずがない。


 ふぅ、危なかった。


 勘違いするところだった。


 冷静になれて良かったぜ。


「えーと、それで魔力を見るということですが、これは強化術の応用になります。体内の魔力を目に集中させれば、魔力を見れるようになります」


「そんな簡単にできるんだ」


 なんだ思ったより全然簡単じゃん。


「意外とこれが難しいんですよ」


 そうなのか?


 でもミーアが難しいっていうなら、そうなんだろうな。


「でも、魔力がみえると色々と便利そうだな」


「そうですね。相手の攻撃を事前に察知できたり、魔力の流れから問題点を見つけたりと、できることが増えるのは確かです」


「問題点?」


「はい。たとえば誰かを指導する際も、魔力の流れが見えている方が指導も簡単にできます。どこにどういう問題点があるのかを把握しやすいので」


「たしかに。じゃあミーアも魔力を目に込めて、俺の指導をしてくれてたってこと?」


「いえ。私はそういうことをしなくても魔力の流れがわかります」


「すごいな」


「……ありがとうございます」


 ミーアは微妙な顔をする。


 こういう反応したミーアが何を考えているか、大体わかる。


「それもやっぱり魔族の血のおかげ?」


「……そう、ですね」


 ミーアは魔族のことを言われると、顔を曇らせる傾向がある。


 魔族として差別されてきたからだろう。


 最近思うんだけど、人族が魔族を差別する理由に、妬みも入ってる気がする。


 魔族は優秀すぎる。


 魔力操作が格段に優れており、知能も優れている。


 容姿端麗で寿命も長い。


 かなりハイスペックだ。


 人族の上位互換と言い換えても良い。


 ちなみに一点だけ、人族が確実に魔族よりも優れているところがある。


 それは繁殖能力だ。


 魔族の女性は生涯一人の相手としか子供を産まないとされ、長寿にも関わらず子供の数が少ない。


 逆に人族は魔族と比べると圧倒的に数が多い。


 かつて行われた人魔大戦では、個人の能力で圧倒的に劣る人類が魔族に勝利した。


 それも数の力があってこそだ。


 人族は魔族の100倍近くの人がいたからだ。


 魔族が人族と同程度の繁殖能力を備えていたら、人族は確実に敗北していたと言える。


 それだけ魔族の力は抜きん出ている。


 そんな魔族の血を引く少女ミーアも、魔族としての優秀さを十分備えていた。


 と、それはさておき。


 俺は話題選びをミスったと思った。


 あんまり魔族の話をされたくはないよな。


「そろそろ訓練を再開しますか?」


 ミーアにそう促され、俺はうなずく。


 少し休んだら、だいぶ体力が回復してきた。


「さっき言ってた目に魔力を込めるってやつ、一回やってみてもいい?」


 ミーアに提案してみる。


 やっぱりこういうのは一度やってみないとな。


 ダメ元ってやつだ。


「え? まあ大丈夫ですけど……。でも無理はしないでくださいね。下手すると失明しますから」


 え、こわっ。


 やっぱりやめとこっかな。


 俺のチキンな心がやめとけと警鐘を鳴らしてくる。


 いやでも、魔力見てみたいし。


 きっとなんとかなるだろう。


 ここは育成ゲームの世界だ。


 運命ゲームが俺の成長を手助けしてくれるはず!


「大丈夫。やってみるよ」


「わかりました。危ないと思ったら私が止めますので、アランくんはやりたいようにやってください」


 なんて良い師匠なんだ。


 ありがとう、ミーア。


「あと念のためこちらお渡ししますね」


 ミーアが銀色のブレスレットを差し出してくる。


「ん? なにこれ?」


「魔力制御をスムーズに行える魔法道具マジックアイテムです」


 ほうほう、なるほど。


「ありがとうございます」


 渡されたブレスレットを腕にはめる。


 ミーアの手が細いから、結構キツキツになる。


 ちょっとブレスレットの形が歪んだ気がする。


 まあ大丈夫か。


「ちなみにそれ母の形見です」


 おいいいい!


 それ先に言えよ。


 なんだよ、母の形見って。


 結構、重いんだけど。


 形歪ませちゃったんだけど。


「じゃあ頑張ってくださいね」


「……はい、師匠」


 俺は体内の魔力に意識を向ける。


 魔力はドロドロとした液体のようなものだ。


 ぐぐぐっと動かし、目の方に持ってきた。


 ん、なんか世界が色づいてみえるぞ。


 ミーアの体から、湯気のような白い光がシュワシュワ~と出ている。


 え、もしかしてこれが魔力?


「ん? こんな感じでどう? できてる?」


「え……? できてますね」


「まじか」


 普通にやれてしまったんだが。


 アランってマジでハイスペックなんじゃね?

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