IFルート2『願望機』
…新入りとストレロクは、なんとか第二防衛線にたどり着いた。
しかし東校の第二防衛線は、防衛線というよりも野戦病院といった状況だった。
「エレーナ」
ストレロクが言った
「ストレロク?」
「エレーナ、私は、"危険地帯"に行く。皆死んだ、私も死ぬんだ。
死に場所ぐらいは自分で決めてやる…」
「そんなの自暴自棄になってるだけじゃない…!」
「そうさ…だが他に希望なんて有るのか?
生徒会長の言う通りに戦って死ぬのか?
それともただ逃げて生きていくのか?
同じことじゃないか、逃げる先が違うだけだ。そして…最後には死ぬ。
部長たちと一緒の場所、それが私の居場所だったんだ。
今はもう、私の居場所は"危険地帯"にしかない」
「ストレロク…」
「もうたくさんだ。もう十分だ!殺すだけの能無しめ!」
ストレロクは踵を返して去っていった。
──東校臨時防衛司令部…裏山の防空壕
東校本校舎は西校の爆撃で廃墟同然の有様だった。
防衛司令部=生徒会はその機能を防空壕に移して最後の抵抗を行っていた。
「事前に用意した防衛線は、もう殆ど使い物になりません」
藤崎が山城生徒会長に報告した。
「……、その、E6ブロックの陣地はどうか?」
「相当手ひどくやられたようです。…佐藤も死にました。
それと、ストレロクが車を奪って逃走を図ったと聞いています」
藤崎は、生徒会長が一番知りたがっていたであろう事と、
もはやありふれた脱走事案を同時に報告した。
「…そうか…」
生徒会長は肩を落とした。
検問所に入ったストレロクをロゴ―ジン軍曹が出迎える。
「よう、また来たな。どうしたんだ、野良犬みたいに震えて」
ストレロクは出し抜けに兵士たちを撃った。
ロゴ―ジン軍曹は何が起きたのかわからないという顔で、力が抜けたように倒れ込む。
ストレロクは検問所を抜けて先へ進んだ。
──信じてもいないおとぎ話、"危険地帯"の最深部にいけば願いが叶う…
誰もたどり着いたことがないのに、よくもそんな事が言えるものだ。
最深部を目指すなんて正気じゃない。
ただいつも通りに、いつもの場所でアーティファクトを探せば、
それで金持ちになれるんだ、それだけで暮らしていけるんだ。
…今の私は正気じゃない。
だから、行くんだ…。
帰ることも、生きることも捨てた歩みで、ストレロクは危険地帯を進んだ。
人類がまだ足を踏み入れたことのない場所を目指して、ただひたすらに突き進んだ。
どれだけの時間が経ったのか、
ストレロクは場違いな庭園に着いた。
美しい草木に覆われていながら、そこはまったく生命を感じさせない。
奇妙な安堵感に包まれながら、ストレロクは突然、銃を投げ捨てたい衝動に襲われた。
本能も理性も「そんな物は捨ててしまえ」とささやく。
──まるで楽園だ。ここが最深部なのか?
私はたどり着いたのか?
まだだ、銃を捨てるな。何があるのかわからないんだ。
お前もエレーナと同じだ、ただの人殺しだ。
だから、銃は捨てるな。
「ここは安全だ」という衝動をねじ伏せて、庭園の中央に向かう。
西洋式の石造りのガゼボの中から光が漏れている。
ストレロクは中に入り、光を放つ小さな立方体に触れた…。
「これが願望機なのか?」
──さぁ、私の願いを叶えてみせろ!
心の中で強く念じる。
ふと何かの気配に、ストレロクは振り向いた。
一軒の小さな家が蜃気楼のように揺らめいて見える。
──…家だ。私の生まれた家だ。そうだ、父さん、母さん…。
母さん、私に友達ができたんだ、皆いい友達なんだ。
いつもあだ名で呼び合って、ちょっと危ないことをして…
あぁ…でも、酷いことを言っちゃった。
明日…謝らなきゃ…
いや違う…何かが違う…私は、どうして…
ストレロクは"危険地帯"の最深部にたどり着いて、
脳を焼かれて死んだ。
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