第29話『coup d'état』

西高生徒会長直属の非公式特殊部隊であるフォーカスチームの面々は、郊外にある訓練場で戦闘訓練を行っていた。

「アクチュアル、訓練を中止したほうが良いかもしれません」

訓練場内外の情報収集を行っていた白井が、横にいる隊長の美城に耳打ちした。

「どうした?」

訓練の状況を確認していた美城が聞き返す。

「生徒会でクーデターです。放送が流れています」


「訓練中止!訓練中止!フォーカスチームは全員指揮所に集合!」


指揮所に整列したチームの一同に、美城はノートPCの画面を見せた。

「つい先程、これが生徒会の持つ各通信網で一斉放送された。

現在も周期的に同じものが放送されている」

モニターの中では、前生徒会長が逮捕されたこと、東高との融和路線の否定、新生徒会体制への協力の呼びかけが繰り返されている。


「その…アクチュアル…我々はどうしますか?」

「我々は生徒会長直属の特殊部隊だ…生徒会長を奪還しクーデターを阻止する」

美城は断固として宣言した。



「クーデター前後の生徒会本部への車両の出入りはそれほどではありません、戦力自体は普段と同じか、あるいは普段より少ないかもしれません」

白井が言った。

一面では良い知らせとも言えるが、クーデターが周到に用意されていた証とも言える情報だった。

「会長はまだ中にいると思うか?」

美城が画面を覗き込みながら言った。


「まだ本部にいるみたいだけど、急いだほうが良いよ。

クーデター派の戦力抽出が始まってるみたいだから」

情報分析担当の高美が言った。

「わかった。会長の居場所を探し出せ。

他に拘束されている生徒会役員はいないかも調べろ」

「会長を狙い撃ちにしてるね、他の役員とは結託してるのか、これから説得する気なのかは知らないけど。

はい、カードキーの入出記録」

高美が美城にタブレット端末を手渡す。


「ん?高美、いま本部を出たバン、確認できる?」

白井が言った。

「ははぁ、全面スモークガラスのバンなんて移送にうってつけですなぁ」

高美が監視カメラの映像記録を探し出す。

「ビンゴ、会長はあのバンに乗ってる」


「移動ルートを割り出せ。目的地に着く前に襲撃するぞ」

「了解」「りょーかい」



嶋倉"元"生徒会長は、手を硬く握りしめて、バンの後部座席で揺られていた。

普段より車通りの少ない道路をバンは迷いなく進んでいたが、不意に速度を落とした。


「とまれ!風紀委員だ!」

簡素なバリケード封鎖を背にした風紀委員が、手を上げてバンを制止する。

もう一人の風紀委員は油断なくバンにM4カービンを構えている。


「我々は生徒会の命令を受けている。すぐにバリケードをどけて通せ。

風紀委員長に確認しろ」

バンの助手席から降りてきた生徒が要求する。


突然、2人の風紀委員のM4カービンが、降りてきた生徒と運転席の生徒を撃った。

忍び寄っていたフォーカスチームの仲間がバンの後部を開け放ち、素早く制圧した。


「生徒会長、お怪我は?」

「あなたは、フォーカスチームの…」

「すぐに移動します、こちらの車に乗り換えてください」



「生徒会長が移送中に?」

「"元"生徒会長。風紀の格好したやつに奇襲されたんだって」

西校風紀委員たちはロッカールームで出動準備を整えていた。

風紀委員の川島は携帯電話の振動に気づき、他の風紀委員と少し離れてから通話操作をした。

「美城さん?今はちょっと立て込んでて電話は…えっ、カウンタークーデター?

…無理だよ。風紀ウチの上の方も前々から参加してたみたいで、とてもそんな雰囲気じゃないよ。

悪いことは言わないから、しばらく大人しくしてたほうが良いって。

あぁ、もう切るから。とにかく気をつけてね」


──フォーカスチームのセーフハウス

「ありがとう。

…そっちはどうだ?」

通話を終えた美城が他のメンバーに尋ねる。

「ダメです、どこもクーデター派に取り込まれるか、先手を打たれて行動不能です」

「穏健派の役職持ちはほとんどマークされてたみたいだね」

「風紀も抱き込まれてる。反撃は厳しそうだな」


「やっとわかった。強硬派には企業から大金が流れ込んでる、たぶん、装備も」

白井がノートPCから振り返って言った。

「確かなのか?」

「クーデターに成功して、管理が雑になった。

そこを辿っていくと…ここ数ヶ月に集中してかなりの資金が流れてる」

「なるほど、あっさりクーデターに賛同したわけだ」

「東校の学区内で、こっちの企業は活動が制限される。

東校がなくなればその制限がなくなるってわけね」

「そんな!」

嶋倉生徒会長が声を上げる、彼女は自分を追い落とした者の正体を知った。


「よしセーフハウスを移動するぞ、残念ながら今の西校で我々にできることはない。

境界線近くでしばらくは潜伏する」

「先程の証拠を提出すれば、生徒たちの支持を得られるはずです!」

「いや、この証拠は正規軍に渡すしかない。

クーデター体制が完成した以上、迂闊に動いても犠牲が増えるだけだ」

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