第18話『空き缶を撃つ』
部室棟の校庭に銃声が響く。
退屈を持て余した部長がガレージの脇で、
並べた空き缶を狙って拳銃を撃っているのだった。
「部長ってリボルバーなんだ」
6発分を撃ち終わった部長に新入りが声をかける。
「ん?あぁ、趣味だ。格好いいだろ」
空薬莢を排莢しながら部長が言った。
「部長は西部劇とか好きだからな」
ガレージにもたれ掛かって順番を待っていたストレロクが言った。
「格好いいだろ。ああいうのって」
部長は空き缶を台の上に並べ直しながら、少し気恥ずかしそうに言った。
「そうなんだ。私見たことがないから…」
「部室にも少し置いてあるから、暇な時に見てみな」
「さて、次は私の番だな」
ストレロクがマカロフPB(マカロフPMの消音モデル)を抜いて言った。
「ストレロクも変わった銃だね」
「あぁ、消音器付きは気づかれにくいからな。
もっともそう頼りになるもんでもないが」
ストレロクは、部長が並べ直した空き缶に向かって発砲した。
サイレンサーによって抑えられた発砲音と、
スライドが前後する音が響く独特の銃声がした。
「本当に静かなんだね」
「でもナイフ投げるよりはマシぐらいのもんだよ。あんまり当たらないしね」
そう言いつつも、発射した銃弾は全て空き缶にあたっていた。
「新入りもやるか?」
ストレロクが空き缶を並べに行きながら言った。
「じゃあ、やってみる」
「みんな何してんの~?」
メガネが部室から顔を出す。
「暇だから空き缶を撃ってる」
タバコで一服していた部長が答えた。
「全員で金をかけて遊んでみないか?
ただ撃つだけじゃ暇つぶしにもならないよ」
ストレロクが戻ってきて言った。
「私拳銃持ってないからMP5でいい?」
「ハンデってことにしてやるよ」
「ちょいと卑怯だがまぁ、良いだろう」
「じゃあPP呼んでくるね~」
「あぁ。PPと言えば、いい加減マカロフ一丁じゃ心もとないと思わないか?」
ストレロクが言った。
「最近BMP降りて撃ち合うことも多いしな…」
部長が顎を撫でて言った。
「PP連れてきたよ~」
「拳銃大会やるって?」
「あぁ。それと、ちょうどお前の銃の話もしてたんだが、
いい加減サブマシンガンかAK辺りを持ったらどうだ?」
「うーん、たしかにマカロフだけじゃねー…」
PPも思うところがあるらしく考え込む仕草をした。
「みんな何の話?」
撃ち終わって、空き缶を並べ直した新入りがやってきた。
「皆で金かけて遊ぼうって話と、PPのメインアームの話」
ストレロクが簡潔に説明した。
「そっか、マカロフだけだもんね」
「やっぱりそう思う?今度買いに行こうかな」
「少しぐらいなら奢ってやるよ」
ストレロクが言った。
「よし、じゃあそういうことにして、射撃大会の方やろうぜ」
部長が言った。
「ルールは?」
ストレロクが言った。
「単射で、10秒以内に空き缶をたくさん撃った奴の勝ちだ」
「部長、リボルバーだからそのルール困らない?」
メガネが言った。
「言ってろ、簡単には負けねぇぞ」
「じゃあ、あたしから始めるぞ。ストレロク、合図を頼む」
「わかった。…準備はいいか?」
「いいさ」
部長は西部劇の決闘のような姿勢で空き缶を睨む。
「スタート!」
ストレロクが合図をしながらストップウォッチを押した。
部長の挑戦は最初の6発は全弾命中したが、
予想通りリロードに時間がかかったため、
更に1発を発砲したところで時間切れになった。
「7発命中だね」
「部長、やっぱりリボルバーはつらいよ~」
「あたしの趣味だ、ほっとけ」
「次は私がやるから、部長、合図と計測頼む」
ストレロクが位置に立った。
「あいよ。準備は?」
「できてる」
「じゃあ、スタート!」
静かな銃声が響いた。
10秒が経った時、用意された空き缶は全て倒れていた。
「もっと的が有っても良かったな」
「並べ直すのが面倒だろ」
「えー、記録は、12本っと」
「もう優勝決定じゃん」
「次は私」
新入りが位置に立つ。
ストレロクは空き缶を並べ直しに行ったので、
合図は引き続き部長だ。
「紐でも結んどけばよかったな」
戻ってきたストレロクが言った。
「何も考えてなかったな、そういうの」
部長が言った。
「新入り、準備はいいかい?」
「大丈夫」
「じゃ、スタート!」
新入りは手慣れた手付きで全ての空き缶を撃ち抜き、
打ち上がった最後の空き缶に更に二発の銃弾を当てた。
「あぁ?」「えぇ?」「すごい…」
「うへー、記録更新、14本ってことでいいのかな?」
「あぁ。…新入り、ちゃんとあの飛んでった空き缶も拾ってくるんだぞ」
「わかった」
「新入りの後に撃ちたくないよぉ~」
メガネがぼやきながら位置についた。
「お前はMP5なんだから、10本は撃てよ」
…メガネの記録は9本だった。
銃自体の精度は拳銃よりもずっと高く、
装弾数的にリロードの必要もないのだが、
取り回しの差で照準に時間がかかったことと、
メガネ自身の腕と性格の問題だった。
「おい」
「そんな事言われたって~」
「照準合ったと思ったら撃ちゃいいんだよ」
部長が言った。
部長とストレロクに詰められているメガネに変わって、
新入りが缶を並べ直しに向かう。
「じゃあ、最後は私が」
PPがマカロフを持って位置に立つ。
「PP、準備はできてる?」
「OKだよ」
「よし、スタート!」
ストレロクが言った。
「5本かぁ…」
PPが言った。
「3発はずれね」
メガネが言った。
「やっぱり今度なにか銃買いに行こうな」
「そうする…」
「じゃあ優勝は新入りだな。はい拍手」
いい加減な拍手が短く響いた。
心なしか嬉しそうな新入りに、部長が賞金を渡す。
「こいつ、射撃やらせたら負け無しだな」
ストレロクが言った。
「いや~良いことですよ~」
メガネが言った。
「お前はもっと練習しろ」
「そうだぞメガネ、MP5使ってその順位は駄目だろ」
「あ、はい…」
藪蛇を踏んだメガネだった。
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