第5話 帰還
去っていくアンソンを見送った3人もそれぞれに息を吐いていた。
ガルドはレベル100でカンストしている自分がレベル10程度の雑魚モンスターを相手に緊張していた事を気にしている。
レミアもこの程度のレベルのモンスターを相手に回復だけに集中していた自分を恥じていた。
レベル70でカンストしていないカオルだけは特に自分の不甲斐無さ感じる様子は無く、しかし周囲の被害に眉を歪めて被害者の救助や捜索を手伝うと2名の警察に提案する。
「いえいえ、お疲れの中で救助まで手伝って頂く訳には。それに通りを挟んで救助隊も来ていますからお休みください」
「今回は連携の取れた救助活動が必要ですから、僕たち警察も救助隊が到着したら破片の掃除くらいの事しか出来ないんですよ」
そういうものなのか、と納得しカオルは2人の近くに戻り落ち込んでいるのを見て首を傾げた。
「モンスターは全滅したし、死傷者は居ないらしいですよ」
「そうか。なら俺たちが出来る事はもう無さそうだな」
「その、アンソンも帰っちゃいましたし、私たちも帰りましょうか」
「そうだな。レミア君の言う通りだ。2人とも、撤収するぞ」
「了解」
「はい。お疲れさまでした」
意気消沈とはまでは言わないが、それでも気落ちした様子のガルドとレミアに続きカオルもヘリに向けて歩き出す。
気落ちした2人に変わってカオルは擦れ違う警官や消防関係者に声を掛けながら歩いていく。
2人ほど自分の腕に自信が無いからこその態度だ。
そもそもカオルは今回のモンスターの襲撃で死人が出ている事も想定していた。
それが結果だけ見れば死傷者は無し。街の被害は通りが1つ封鎖されたレベルに押さえられている。
動物園のライオンが同じ数逃げ出したらこの程度の被害では済まない。
そう比較しただけでもカオルは今回の戦果を十分な物として認識していた。
「お疲れさまでした」
「ええ。モンスター相手に、頑張って頂いてありがとうございます」
「いえいえ。あなた方が間に合ってくれなければどうにもならなかった」
「まあ、適材適所ですから」
現場の責任者だろう初老の警察官と互いの役割を果たし合った事を労い合い、カオルは最後に軽く手を振って警察官に別れを告げた。
自分の仕事はここまでだが、彼ら警察官たちの仕事はここからだ。
その苦労を労うのを惜しむ気は無かった。
「カオルさんは、怖くないんですか?」
「レミアさん?」
「カオル君、レミア君は先程の戦いの事を言っているんだ。結局、俺たちは事前に事態を納める事は出来ない」
「ああ、そういう事ですか。現着した時に状況を聞いて怖い事は無くなりましたね」
「どういう事だ?」
「まあ、到着前に誰かが死んでしまっている事も想定してたんで。それを考えたら建物や車が壊れた程度なら満足ですよ」
「死ぬって、そんな極端な」
「物理崩壊の後、まだ神卸の開発も未帰還者がどう生活するかも決まって無い頃にさ、生活費は必要だから2週間くらいは会社に行ってたんだ」
「スマンが、何の話だ?」
「モンスターの被害の話ですよ。仕事してたら近場でレベル50くらいのモンスターが何体も確認されて、討伐するように周りに押し付けられて現場に行ったらもう何人か死んでた事があったんです」
「……」
「被害者の関係者から言われましたよ。『お前がもっと早くモンスターを倒していれば』って」
「そんなのっ!」
「理不尽だったね。ま、ゲーム中盤の雑魚モンスターとはいえ10体以上居て、こっちは正確な位置も分からなかった。理不尽に付き合う気は無かったし物理的に1人で全部出来る訳無いだろって一蹴しちゃったよ」
理不尽な事を言われたカオルに同情するように怒った2人だが、カオルの対応に却って困惑している。
被害者の関係者からしたら『力が有るのに何もしなかった』、『助けてくれなかったんだ』と被害妄想に似た思考回路に行き着くのも無理はない。
そこに『人間に出来る事には限界があるんだ』と正論を突き付けられた相手はそれ以上は何も言いようがないだろう。
仮に何かを言ってもカオルに『じゃあお前がやれ、手伝え』と言われ能力の不足を理由に断ったらそれこそ虚しくなるだけだ。
「なので、死人が出てないなら、多少何かが壊れる被害が有った程度で済むなら成功って考えてるんです」
「そ、そうか」
カオルが身も蓋も無い意見を言い切ったところでガルドもレミアも反応できず沈黙が流れる。
その流れを変える様にヘリのパイロットが声を張った。
「さっきはどうも。飲屋、探しておきましたよ!」
「おお、君は行きの」
「へへっ。皆さんの帰りを考えて近場で待機してました」
「今日は皆で定時上がりしないとですね」
「え、え、何の話ですかぁ?」
1人だけ話に付いていけないレミアにカオルが軽く合流前の話を伝え、4人は神卸市に帰還した。
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